振り返る 私の2007

柳澤 望(wonderland 執筆メンバー、ブログ「白鳥のめがね」)

  1. 歌人・雪舟えまの朗読とダンサーのコラボレーションによる公演
  2. 俳人・高柳重信のエッセイをモチーフにしたポタライブ
  3. 「文(かきことば)」による夢十夜全作品連続公演

舞台とは現実を夢のように見せる装置だとしたら、舞台の実現を夢見ることもまた現実である。というわけで、今年私が夢見た舞台の構想を3本。
1.これは何人かの女性ダンサーにオファーをかけてみたりもしたが実現しないままに終わっている。
2.高柳重信が幼少期育った土地の記憶を語るエッセイをその場所とうまく重ねあわせることはできないかなと考えている。
3.テクストの構造が可視化され造形されていく様子を漱石研究者とかに見せたら面白いと「文」試演会のとき岸井さんに言ったものだ。

片山幹生(早稲田大学非常勤講師、ブログ「楽観的に絶望する」)

  1. 庭劇団ペニノ「笑顔の砦
  2. ナイロン100℃「犬は鎖につなぐべからず」
  3. 三条会「ひかりごけ

1については、日常の奥に潜む不可解でグロテスクなざわめきの表現が秀逸だった。劇団主宰のタニノクロウがイプセンに挑んだ『野鴨』の公演も今年の演劇界を代表する素晴らしい成果だった。
2は数編の戯曲を一つの町内の物語として再構成し、立体的に交錯させることで、岸田戯曲をレトロ=ポップな感覚の洒落た現代劇へと再生させる手腕が見事だった。
3はオリジナルのテクストを強烈な個性を持つ役者たちを介して大きくデフォルメさせる表現のインパクトに魅了される。三条会は今年「ひかりごけ」の他にも、「ロミオとジュリエット」、唐戯曲に基づく「ひみつの花園」、二つのアトリエ公演を行ったが、いずれも充実した内容だった。
[2007年12月16日現在の観劇本数は130本]

矢野靖人(演出家・プロデューサー、shelf代表)

  1. 静岡春の芸術祭SPAC:春の芸術祭07:ピッポ・デルボノ・カンパニー「戦争-Guerra
  2. SPAC:秋のシーズン:SPAC「巨匠
  3. 山の手事情社:YAMANOTE NIPPON「摂州合邦辻

演出家でありパフォーマーのピッポ・デルボノ、そして聾唖の俳優ボボ。彼らの存在には世界のすべてが凝縮されているようでした。新生SPAC「巨匠」は新芸術監督・宮城聡の決意表明か。演劇の未来を背負う、その覚悟の深さと潔さに泣きました。一方、客席で笑いに笑ったのが山の手事情社「摂州合邦辻」。こういう作品が広く受け入れられるのであれば現代演劇にはまだまだ大きな可能性があります。国際交流という言葉では収まらない、僕らの先に広がる地平の広さを知った青年団の日仏合作プロジェクト「別れの唄」を次点に。不覚にも涙を流してしまったNEVER LOSE「廃校/366.0【後日譚】」は東京公演の制作に携わったため選外。
次点)青年団「別れの唄」(日仏合同公演)
選外) NEVER LOSE廃校/366.0【後日譚】」(メガトン・ロマンチッカー×NEVER LOSE)

伊藤亜紗(レビューハウス、ダンス批評)

  1. 神村恵「斜めむき
  2. ツポルーヌ
  3. 小指値「[get] an apple on westside / R時のはなし」

ポップで明るいものも好きだが、一見地味にみえて危険なことをやっている人にぐっと興味がかたむいた一年だった。うごきにカウントがなく、何をやりたいのか意図もつかめず、したがって作品が作品としてのフォルムを欠いたままむきだしになっているもの。「うわー、あの人わけわかんない」と笑う余裕などなく、たれ流しの野蛮さに本気で驚喜する。1位の神村のソロと2位のツポルーヌ(その名も「音がバンド名」というバンドで主にラッパー)は、ダンスとラップというジャンルの違いはあれど、たとえ観客が途方に暮れようとも自己の論理を徹底的につらぬくその頑迷さと不穏さはどこか相通じるものがある。すこし毛色を変えて3位の小指値はもっと明るく、しかしアイディアの球数の多さには自己の方法論をあっけらかんと脱ぎ捨てる破壊的なエネルギーを感じる。

中村昇司(編集者)

  1. POTALIVE「LOBBY
  2. Mrs. fictions presents「15 minutes made」
  3. 五反田団「いやむしろわすれて草

どうせなら、たとえば演劇を観ない友達にも勧められるような、そんなのを挙げるのがいいかなぁ、と思って決めた。1は真冬と真夏にこまばアゴラ劇場を拠点に展開された、十数人の作家たちによるお散歩演劇作品群。それぞれにユニークな断面で世界と交通を持っている、という信じ難いほどの美しさ、微分的な果てしなさ、みたいなものがある。楽しかった。あとチケットが安い。2は七団体による各15分の短編オムニバス。機知に富む好作ぞろいの中、小指値の作品の瞬発力、抽象的な描写力は群を抜く。3はサリンジャーを思わせる子供の描写が秀逸な愛らしい作品。子供のころ抱いたような淡い絶望感が懐かしい。これもチケットが安かった。助かる。

詩森ろば(「風琴工房」主宰)

  1. 「その夜の侍」公演THE SHAMPOO HAT 「その夜の侍」
  2. 日英共同企画飛び石プロジェクト「血の婚礼
  3. 流山児★事務所 「おっぺけぺ

今年は80本くらいの観劇でした。来年はもう少し幅広くいろいろ観なければ。それにしても一昨年のベスト、フォルクスビューネくらいの感動にはなかなか出会えないですね。そんななか、赤堀さんの決意に(裸でプリンをアタマからぶちまける姿を情けない姿を観ながら)、最後の暗転号泣した「その夜の侍」がほかを引き離してのダントツのベスト1。「血の婚礼」は障害者アートの領域を軽々と越境したシンプルで品のある表現が印象深く、「オッペケペ」は力のある戯曲を劇場の隅々まで使いきってダイナミックに表現。大好きな戯曲をまさかじっさいに劇場で観ることができる日が来るなんて。

堤広志(編集者/演劇・舞踊ジャーナリスト)

  1. 演劇LOVE 愛の3本立て黒沢美香『薔薇の人「登校」』(2月@テレプシコール)
  2. 東京デスロックの「unlock」シリーズ
    『unlock#1:アルジャーノンに花束を』(3月@アトリエ春風舎)
    『unlock#2:ソラリス』(8月@こまばアゴラ劇場)
    「unlock#3:演劇LOVE 愛の3本立て『LOVE』『3人いる!』『社会』」(9月@リトルモア地下)
  3. 勅使川原三郎ソロ『ミロク』(12月@新国立劇場小劇場)

以下は、4.ニブロール『no direction』、5.サンプル『カロリーの消費』、6.イデビアン・クルー『政治的』、7.POTALIVE小竹向原編『界 さかい』、8.五反田団『生きてるものはいないのか』、9.ハイバイ『おねがい放課後』、10.パラドックス定数『東京裁判』。倉持裕、本谷有希子、三浦大輔、岡田利規ら戯曲賞受賞作家や、長塚圭史、青木豪、東憲司、赤堀雅秋ら中劇場進出の人気作家の活躍が目立ちましたが、すでに評価を獲得しているものと考え、あえてその先の次世代を選出。特に前田史郎、松井周、岩井秀人ら現代口語演劇系が面白く、野木萌葱『東京裁判』も平田オリザ『忠臣蔵』『ヤルタ会談』に似た劇作と感じました。ダンスは逆にベテラン勢が稀有なダンスを披露し奮闘。ニブロールやイデビアンも今までの活動の集大成との評価です。デスロックは驚くばかりの一年間の活動全てを評価したい。

水牛健太郎(評論家)

(順位なし、順番は観劇順)

本格的に演劇を見始めて2年目、芝居って面白いなと思っているうちに1年過ぎた。もとより、自分なりの価値観で1本ずつの良し悪しをうんぬん出来るだけの見識はない。「囚われの身体たち」は、日本と違う熱い演劇のあり方とイスラム的な身体のインパクト。イルホム劇場の「コーランに倣いて」も忘れられない。「ぬけがら」は構造の面白さと内容の豊かさが両立。結末の「さあ、これからだ。夏は終わった」の言葉が、今年40歳の自分に強い感慨を与えた。エミリア・ガロッティ」はベルリン旅行の美しい思い出として。「芝居のおかげでこんなに楽しかった」ということ。来年もどんどん見たい。

◇楢原拓(「チャリT企画」主宰、作家・演出家)

  1. 「モロトフカクテル」公演BLUE HIPS「ゲキマブ」(10月@アドリブ小劇場)
  2. 散歩道楽「くらい」(1月@サンモールスタジオ)
  3. タカハ劇団「モロトフカクテル」(2月@早稲田大学学生会館B203)

ほとんど知り合いの芝居しか見てないので、あまり偉そうにコメントするのも気がひけてしまうのですが、、、。選んだ三本はどれも設定が日常っぽい感じの芝居ですが、そこから一歩踏み出して飛躍するような仕掛けが見られて、そのあたりが良かったのだと思います。
あまり期待せずに、というかむしろつまらないんだろうなあ・・・なんて端から思って観に行ったものが面白かったり、、、タカハ劇団なんてのはその最たるものでしたが、パンフの参考文献欄に『中核 vs 革マル』(by 立花隆) なんてあったもんですから、それだけでコロっていってしまいました。単なる趣味の問題かもしれませんが・・・(談)

◇武田俊彦(「映画芸術」編集長)

  • FUKAIPRODUCE羽衣「あのひとたちのリサイタル」
  • 木ノ下歌舞伎「yotsuya-kaidan」
  • 日大芸術学部演劇学科「寝台特急“君のいるところ”号」(中野成樹演出)

まだ荒削りではあっても刺激を受けた作品を選びました。方法論は3作品で全く異なりますが、ミュージカルと歌舞伎と翻訳物という強い形式とどう向き合い、どう自らの表現としていくかが追求されていたように感じます。FUKAIPRODUCE羽衣は歌詞やメロディから浮びあがる作者の人生観に強い魅力を感じ、スターシステムとしての商業歌舞伎に対抗するかのように登場人物全員を同列に存在させた木ノ下歌舞伎の野心に驚き、日大芸術学部の公演には学生による演劇になぜこれほど感動してしまうのだろうとうろたえてしまいました。観劇順。観劇数約40。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」年末回顧特集2007臨時増刊号(2007年12月20日発行)
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