振り返る 私の2007

今井克佳(東洋学園大学准教授、観劇ブログ「Something So Right」主宰)

  1. NODA・MAP番外公演“The Bee ロンドンバージョン”(シアタートラム)
  2. ドルイド・シアター・カンパニー“西の国のプレイボーイ”(パークタワーホール)
  3. 世田谷パブリックシアター“死のバリエーション”(シアタートラム)

本務の多忙につき、観劇回数は年間57本にとどまった。公共劇場が中心でいわゆる本来の小劇場にはほとんど足を運べず残念。比較的小規模の劇場公演から選んだ今年の3本はすべて外国がらみとなった。1は昨年のロンドン初演と比べても表現のディテールが磨かれていた。圧倒的。2は東京国際芸術祭招聘作品。アイルランドの一世紀前の作品なのに現代的な面白さを持つ。3はノルウェーの現代戯曲。フランス人演出家の力量と若い日本の俳優が印象的。大劇場では、さいたま芸術劇場がよい作品を多く上演したと思う。蜷川幸雄の「コリオレイナス」、「エレンディラ」。ヤン・ファーブル「私は血」、ヤン・ロワース「イザベラの部屋」など。

◇田中綾乃(東京女子大学非常勤講師)

  1. NODA・MAP番外公演 / 世田谷パブリックシアター提携公演「The Bee」 ロンドンヴァージョン@シアタートラム
  2. エイブルアート・オンステージ 日英共同企画 飛び石プロジェクト公演「Stepping Stones」「血の婚礼」@シアタートラム
  3. こどもに見せたい舞台vol.1「オズの魔法使い」@にしすがも創造舎

今年は諸事情により劇場にあまり通うことができなかったため、限られた中でのチョイスとなった。3本に共通しているのは、“演劇創造の広がり”とも言うべきであろうか。
ご存じの通り「The Bee」は、野田秀樹が英国の俳優、スタッフとワークショップを重ねながら創り上げた作品。日本だけに留まらず海外においても果敢にも演劇活動を継続している野田の新たな可能性を思わせる作品となった。
飛び石プロジェクトも、日英共同の作品だが、こちらは国籍だけではなく、英国の障碍をもつ演出家二人が二年間かけて来日し、日本各地でワークショップを行う中で、障碍のある俳優やスタッフとそうでない者との協働によって創り上げてきた。障碍の有無や種類、言語や文化を超えて、まさに“演劇”表現の可能性をまざまざとみせつけ、劇的なる作品であった。
「オズ」は、こども向けといっても、決して侮れない。演出、音楽、舞台美術どれをとっても大人も十分に楽しめる上質な舞台であった。何より客席の年齢層の広がりや大人もこどもも同等に楽しんでいる舞台をみて、演劇創造の原点を感じた。2007年の観劇数 93本。

◇木元太郎(cinra magazine STAGE

  1. 三条会のアトリエ公演「若草物語」
  2. 横濱・リーディング・コレクション「岸田國士を読む!」Bプログラム「クニヲと俺と。(入門編)」(演出:菊川朝子)、「紙風船」(演出:明神慈)
  3. サンプル「シフト

観劇数は約200本。一年を振り返り、「シフト」の松井周演出作品「パイドラの愛」、東京デスロック・多田淳之介参加の「大恋愛 3人の演出家による“ロミオとジュリエット”」、小指値「霊感少女ヒドミ」(作:ハイバイ・岩井秀人)が重なる、08年2月2週目は個人的に熱いなぁと。
その他印象に残ったのは、小指値「オールテクニカラー」、柿喰う客「性癖優秀」、ろりえ「アイスコーヒー」(「15minutes made vol. 2」)、パラドックス定数「東京裁判」など。来年もマーティン・マクドナー作品が観れますように。

◇山下治城(CMプロデューサー、ブログ「haruharuy劇場」主宰、「プチクリ」編集部)

長く記憶に残る舞台。そんなものは1年間に数えるほどしかない。そんなに優れたコンテンツばかり作り続けられるものではない。しかし、見続けることによって確実に記憶に残る舞台に出会うことが出来る。そのために舞台に通い続けるのである。ナイロン100℃の新作はKERAが新しい階段を登り始めたことを示してくれた。「三人吉佐」での串田和美の演出は、伝統芸能を現代美術にするというようなまでの気概を感じた。そして三谷幸喜の「コンフィダント・絆」は練られた脚本に優れたキャストが集まってそのチカラを確実に示してくれた優れた例となった。また、今年見られた新しい動きとして、演出家、タニノクロウの活躍は特筆に価する。「笑顔の砦」そして「野鴨」の演出は素晴らしかった。またブルドッキングヘッドロックの喜安浩平、サンプルの松井周の仕事にも可能性を感じた。ダンスは「政治的」イデビアン・クルーと「ミミ」室伏鴻×黒田育世の公演が記憶に残っている。今年最も残念でならないのは「地人会」の解散である。

◇谷杉精一(劇作家)

  1. 桜美林大学パフォーミングアーツプログラム<OPAP> Vol.27 作・演出 岡田利規「ゴーストユース
  2. NODA・MAP「THE BEE」(日本バージョン)
  3. POTALIVE駒場編vol.2『LOBBY』 作・演出 井上こころ『未来の記憶』

1 フツーの演劇の森からアタラシイ演劇の平原に出た偉大なる直立猿人、岡田利規さんの最新作。手をつかないように前のめりに全速力で走っている。
「三月の5日間」を超えた?最後まで食らいついた学生たちにも拍手。2007年最重要作。
2 誰が見ても面白い、すばらしいと思える作品。欠点は面白すぎることと、野田秀樹さんの手のひらの上でできあがっていること。でも手のひらの上でこんなに面白い芝居を作ってしまうのだからそれはやはりすごい。
3 「面白いのか?」「すごいのか?」と問われるとチト違う。東大キャンパス内をウロウロしているうちにすごく遠くまで持って行かれた。それはPOTALIVEという劇言語にもよるのだが、芝居を見るという行為の意味を強く問われた作品。

◇木村覚(美学研究者、ダンス批評 Sato Site on the Web Side

  1. 黒沢美香『清潔で単純になる日』
  2. 手塚夏子『人間ラジオ』その他の公演
  3. 神村恵『斜めむき』その他の公演(神村恵カンパニー公演も含む)

ダンス限定。どの3人(3作)も期待以上だった。強烈に誘惑的な 「謎」が舞台にあった。言葉を失い、あっけにとられ、目の前で起こる 出来事をただただ目に映していた。ぼくにとってこうした異常事態に遭 遇することこそダンス公演に行く喜びなのだと再確認。身体表現サーク ル『しんぱい少年』は切ない傑作だった。演劇は見た本数が少なく順位 なし。『生きてるものはいないのか』『野鴨』『R時のはなし』 がよかった。『青ノ鳥』『ゴーストユース』は野心作で問題作。今年は 音楽系のライブに結構通いnhhmbase、d.v.d、group_inou、HOSEなどに出会った年だった。あと美術系では Chim↑Pomの展示やイベント、泉太郎や横内賢太郎の展示、ぷり ぷりTV、その他川口隆夫+山川冬樹『D.D.D.』が印象に 残っている。

山関英人(演劇ジャーナリスト、「舞台芸術の小窓

体験の機会を逃した舞台は評価できない、という痛みを想いつつ、備忘録として、記してみます。東京国際芸術祭で上演された、PortBの『雲。家。』は、内容に重みがあったにもかかわらず、ひたすら歩いて口誦する女優の声―響き―に圧倒され続けた。国境を超える平田オリザの実践は(字数の制約で詳述できないが)国際共同制作の前衛をひた走る。蜷川幸雄の舞台は一体、どこまで先鋭化するのか。期待感が高まる。その中で、『エレンディラ』だけは、舞台に漂う空気(それはガルシア・マルケスの中に育まれた土着性であろう)に酔った。妄想の醍醐味を味わった『永遠かもしれない』(シベリア少女鉄道)、ハムレットを巧みに編み込んだ『おねがい放課後』(ハイバイ)も忘れがたい。〈敬称略〉

◇徳永京子(演劇ライター)

  1. 東京デスロック『LOVE』「演劇LOVE~愛の3本立て~」より
  2. サンプルカロリーの消費
  3. 城山羊の会『若い夫の素敵な微笑み

「今年の演劇界を振り返る」的なアンケートは紙媒体でもいくつか答えたので、ここでは私なりに「これからwonderlandに劇評を書くとして、筆が走るもの」という基準を設けてみました。もちろん悪口や呪いの言葉は含みません。職業柄か、おもしろい舞台に遭遇すれば、たいていは「これを文章にするならどうする?」と自問自答しますが、挙げた3本はとりわけ言語系のツボが刺激され、観劇中から脳内に次々と言葉が浮かんだものです。特にデスロック『LOVE』は上演と同時進行で完璧なオリジナルストーリーが出来たほどでしたが、ポストトークの解説で、それが作・演出家の意図とかけ離れていたことが判明し、唖然。演劇の懐の広さを改めて実感しました。

◇鈴木雅巳(カメラマン,デザイナー BLOG見聞備忘録

今年はアタリ年。次点で、ポツドール「激情」「女の果て」、野良猫救済プロジェクト「一軒の家・一本の樹・一人の息子」、ユニークポイント「イメージの世界」、風琴工房「紅の舞う丘」、現代能楽集 「KOMACHI」、椿組「花火、舞い散る」、REVO「BLUE SPRING」、弘前劇場「ソウルの雨」、ONE OR8「ゼブラ」、グリング「Get Back!」など。
舞台をDVD化して販売する公演も増えてきている。こういうツールを使って地方での公演の足がかりを付けたり、交流を図ったり出来ないものだろうか。地方での上映会とトークショーを組み合わせた会などを催すとか。地方格差は経済だけにあらず。文化格差も“どげんかせんといかん!”。

◇九龍ジョー(編集者、ライター、ブログ「犬猫*ウォーズ」)

こういった年間ベストものが並ぶことで分かるのは、つまるところ各人が演劇になにを求めるか(なかには演劇の「未来」とか「可能性」とか考えてる御仁もいるのかもしれないが……)で、自分にとってそれは、ひとことで言うなら「スケベぇさ」に尽きる。上記三本以外には、えんぶ卒業公演での「ノーバディ」には一歩及ばなかったが五反田団「生きてるものはいないのか」、超歌劇団「超高校野球」、ポツドールのペヤングマキ演出作品「女の果て」などがスケベぇでよかった。また、あえて三本からは外したが、ダントツにスケベぇだった立川談志「芝浜」@よみうりホール。円朝からブレヒトを通過し、カフカへ突き抜けるとてつもない出来であった。
たとえば、立川談志、片岡飛鳥、岡田利規、Chim↑Pom、マッスル坂井、前田司郎、マッコイ斉藤、松江哲明、東野祥子、三浦大輔らを緩やかに点綴していくことで見えてくるものに、興味がある。そのへんはあいかわらず、だなあ。

◇高野しのぶ(現代演劇ウォッチャー/「しのぶの演劇レビュー」主宰)

次点:OPAP(オパップ)『ゴーストユース

若手演劇人に魅せられた年だった。30代では岩井秀人、岡田利規、多田淳之介、松井周らの躍進的な活動に心踊り、20代の若者(柿喰う客、青年団若手劇団員、小指値など)にも、ハッと目を覚まさせられることが多々あった。
ここ数年、俳優教育に注目してきたので、新国立劇場演劇研修所の1期生が2008年2月に修了公演を上演するのは感慨深い。小劇場界においても、時間堂や東京ノーヴイ・レパートリーシアターなど、ある演技メソッドを用いた作劇方法をストイックに探求している団体に期待したい。
(注)今年の3本は小劇場公演(客席数300席以下の劇場での自主製作/劇場プロデュースを含む)の中で、私が観た作品から選出。作品は上演順。団体名、氏名はあいうえお順。2007年の観劇本数は324本。

(2008.1.8追加掲載)

西村博子(アリスフェスティバルプロデューサー)

  1. Caesiumberry Jam公演劇団 印象-indian elephant「父産(とうさん)」
  2. DULL-COLORED POPCaesiumberry Jam(セシウムベリー・ジャム)」
  3. May風の市

今までにない新鮮才能に出会いたい-そんな欲深は、今年のトップは谷賢一作・演出の「Caesiumberry Jam」。これを抜くものはまあ出ないのでは? ウーム、やっぱ出ないなああ……と、長いこと思っていた。その確信がぎりぎりの年末、大阪からの金哲義作・演出・出演「風の市」によって大きく揺らがされた。前者は、世界のさまざまな出来事に、頭ではうっすら知っていても何もしない、出来ない(と思い込んでいる)私たちを見事についた、センス抜群の知的な作品。後者は、私たちとは全く異なる日々を祖父母の代から送ってきた在日「日本」人の作品。ただ気がつかなかっただけ。これも日本だったのだ。啓蒙の意図は全くない、大阪弁丸出し、すぐブン殴るといった愉快作品だが、ないからこそ余計、何も出来ないと思い込んでいるのは単なる思い込みではなかったか、そう思わされていただけでは? もういちど自分自身の内を覗いてみなければならない衝撃だった。まだまだ演出、演技にムラあり。「Caesiumberry Jam」の水準に達したときがいい勝負だ。
鈴木厚人作・演出の「父産」やその次の「青鬼」は、タッタタ探検組合の「超人スリムスリムマン」(牧島敦作/牧島敦・谷口有演出)などとともに、虚構化することによって日本の今をよりヴィヴィッドに描き出そうとする実験。日々の現実を基調とする上記2作とは創作方法において対照的だ。もし成功すれば、動かぬ世界を動かすもっとも強い力になるに違いない(そういえば、きのうの鹿殺しも少年エンゲキが世界を変えるために演劇したいと決意を語っていた)。ただそれが成功するためには、現実を描く以上の蛇の知恵が必要にちがいない。道は険しいが、期待は大きい。(2008.1.19)

北嶋孝(本誌編集長)

  1. 東京デスロック「演劇LOVE~愛の3本立て」(「社会」「3人いる!」「LOVE」)
  2. ラビア・ムルエ (レバノン)作・演出「これがぜんぶエイプリルフールだったなら、とナンシーは」(How Nancy wished that everything was an April Fool’s Joke)
  3. ウジェーヌ・イヨネスコ劇場「授業

日本に住んでいると世界が見えないといわれる。そうだろうか。それよりも、世界が見えると錯覚する方がよほど危ういのではないだろうか。ただ世界が見えないことに居直ると、見えてくるものも見えなくなる。そのきわどい境界を絶えず意識していたい。濃密な消費社会の隘路をくぐり抜ける多田淳之介(東京デスロック)の諸作品、日本では見えにくい光景を歴史のカレイドスコープからのぞかせてくれる「How Nancy wished…」、近代知が実は血塗られた暴力に彩られていると見抜いたイヨネスコ劇場。いずれも日常可視圏の外部に広がる領域を取り込んでいる点に強く惹かれた。年末まで約190本観劇。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」年末回顧特集2007臨時増刊号(2007年12月20日発行)
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