振り返る 私の2009

スズキマサミ(カメラマン、デザイナー、ブログ「見聞写照記」「藝能往來」)

  1. 錦秋特別公演「芯」(中村勘太郎・七之助、高橋竹童、林英哲)

面白い作品にも沢山出会えたが、興奮した作品となるとこの一作のみ。舞踊と和太鼓と津軽三味線のコラボレーション。それぞれの心技体を持ち寄り全く新しい物をイチから作るという、正しい藝への取り組みが正しく結晶した作品だった。これは古典藝能とは言えない。これこそコンテンポラリー(現代)ダンス(舞踊)だ。
今年は沢山観た。もっと観たかったが体力と財力が追いつかなかった。そして自分にとって必要な舞台と、ちょっと違うぞ、もういいや、という舞台の選別も出来た。来年はゆっくりじっくり観よう。でないと破産する~(泣)。
年間観劇本数 演劇70作、ダンス・舞踏26作、演芸・話芸38作。

鈴木励滋(舞台表現批評)

表現行為が人と人とを繋ぐ力は計り知れない。「りたーんず」という現象は、演出家や俳優や技術者や制作者が結びつくのを何年早めたろうか。演劇は踏み込んでこそ実りを味わえる。逃したって人にも「りたーんず」の実りは白神×神里のユニット鰰(はたはた)のみならず、あちこちでお裾分けがあるはずだ。
王子スタジオでの時間堂の試演の場には、なんと近所の小学生が遊びに来ていた。彼女たちは本公演にも! 観ていたのは『奴隷の島』!!
一昨年福岡でのWSで黒田育世と空間再生事業の菊沢将憲が繋がり、派生するような極上の作品が観られたのも嬉しいことだった。
劇場という場や舞台表現という装置が人と人を繋ぐのは、幸せなことである。

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

  1. シアターコクーン「雨の夏、三十人のジュリエットが還って来た
  2. ままごと「わが星
  3. 埼玉県障害者アートフェスティバル 近藤良平と障害者によるダンス公演「突然の、何が起こるかわからない

単に素直でないだけですが、劇場の客席で泣くことに強い抵抗があります。くだらないこだわりですが、もし泣いてしまっても客電が着いて席を立つ時にはその痕跡は消す、と決めています。が、そんな見栄とか意地とか理性とかをスルスルッと突き破って、とても深いところにある単純で大切な感覚をわしづかみにされた3作を選びました。『雨の夏』は、元歌劇団のスターを通して、誠実に全力で老いていくこと(老いたことをいかに忘れ、同時にいかに自覚するか)を厳しく問われ。『わが星』は私がとっくに失ってしまった“誰かに必死に手を延ばす”感覚をまっさらな状態で見せられ。『突然の、』は、出演者があんなに幸せそうなカーテンコールに初めて出合って。いずれも頭と涙腺に大きな一撃を受けました。
年間観劇本数 220本。

山下治城(映像プロデューサー・ブログ「haruharuy劇場」主宰)

  1. 「一月三日、木村家の人々」公演フェスティバル/トーキョー プロデュース「転校生
  2. フェスティバル/トーキョー BATIK「花は流れて時は固まる
  3. 二騎の会「一月三日、木村家の人々

今年の演劇のトピックスは、フェスティバル/トーキョーが春と秋の二回、大々的に行われたことだろう。そして、その中の公演がベスト1,2に入っている。それ以外にも刺激的な舞台が多く、とても楽しめるものだった。また、東京芸術劇場の芸術監督に野田秀樹が就任。池袋の演劇状況が俄然面白くなった。これからは、公共ホールが主体となって日本の演劇環境をさらに多様で深いものして行けば、と思う。ベスト3は、二騎の会、青年団から出てきた多くの作家や演出家がどんどん育ってきており、今後ますます目を離せない状況が続くだろう。こうして、公共性の強いスタイルで作られた演劇が人の中に深く入り込む。平田オリザさんには、是非、行政の方からも後押しを頂き、この国がさらなる文化芸術の国になっていくことを希望します。文化芸術は、生きていくことに本当に必要なものの一つと信じている。
年間観劇本数 138本(12月20日現在)。

中西理(演劇舞踊評論、「中西理の大阪日記」)

  1. 「かわうそ」公演ミクニヤナイハラプロジェクト「五人姉妹」(吉祥寺シアター)
  2. ロマンチカ・横町慶子SOLOACT VOL.1「かわうそ」(原宿ラフォーレ)
  3. SPAC「夜叉ケ池」(静岡芸術劇場)

ミクニヤナイハラプロジェクトは新作「五人姉妹」とNHK企画で再演の「青ノ鳥」とベストアクト級の舞台が2本。チェルフィッチュ、ポツドールに次を感じさせる新作がなかった今年。やはり「いまが旬」をもっとも感じさせたのはニブロールの矢内原美邦によるミクニヤナイハラプロジェクトであった。
一方、ベテラン健在を感じさせたのが横町慶子SOLO ACT VOL.1「かわうそ」によるロマンチカの復活劇。レビュー的な公演はとびとびでやっていたけれど、ちゃんと筋立てがある演劇といっていい公演はいつ以来だろう。しかも、SOLO ACT VOL.1ってわざわざ銘打っているってことは次もあるということですよね。SPAC「夜叉ケ池」も魅力的な新ヒロイン、たきいみきを擁して泉鏡花を「崖の上のポニョ」にした宮城演出に脱帽。
年間観劇本数 220本。

大泉尚子(ライター)

  1. 「五人姉妹」公演F/T春「火の顔
  2. ミクニヤナイハラプロジェクトvol.4「五人姉妹
  3. F/T秋 Port B「個室都市 東京

家族の話はもううんざり…と思いつつ、上位2本はその物語。粉々に砕け散るものを見せることで、それらをつないでいた靭帯のごときものを幻視させた。とりわけ「火の顔」では悲惨とも壮絶とも言える結末が、突き抜けるような痛快さにも転化し得ることに、驚きを禁じえなかった。家族や非家族が生きる〈街〉を描いた「個室都市 東京」。個室ビデオ店はチープな佇まいで、人や土地の物語を奇妙なほどいきいきとさせる。番外のF/T春「blue Lion」でも、動物や人間の家族がモチーフとなり、ダンスの色彩感を豊かなものにした。F/T秋 グルーポ・ヂ・フーア「H3」の圧倒的な加速感、東京デスロック「その人を知らず」の強い圧力感も忘れ難い。
年間観劇本数 120本。

田口アヤコ(演劇ユニットCOLLOL主宰/演出家/劇作家/女優、blog『田口アヤコ 毎日のこまごましたものたち』)

「今年の3本」に挙げるのは、1本のみとさせていただきます。Shizuoka春の芸術祭2009の『じゃじゃ馬ならし』(トネールフループ・アムステルダム @静岡芸術劇場)がとても良かったのですが、日本、という国で制作された作品にこだわりたい。現代日本、に興味があります。よい俳優(ダンサー・パフォーマー)の演技はいろいろと見ることができ、幸福でした。potalive『百軒のミセ』企画内の、伊東沙保による「クロージングアクト」を今年の名演として記しておきたいと思います。フェスティバル/トーキョー、Shizuoka春の芸術祭などの大規模のものに限らず、「演劇祭」というものの流れに、今後とも注目します。
年間観劇本数 73本。

田中綾乃(哲学研究・演劇批評)

今年は秋以降、日々流れ去る生活の中で、一週間前に観た芝居さえ、もうどんな芝居だったか思い出せないぐらい。しかしその中でも確実に私の記憶に残る芝居がある。記憶に残る芝居の特徴を一言で示すならば、それは<劇的>なるもの。上記の3本は、どれも私にとって<劇的>だった。
リミニは、トラックでの移動型演劇ということだけですでに<劇的>なのだが、それだけではなく、これまで何気なく見ていた東京や横浜の風景が、全く違う世界として立ち現れる、という貴重な体験をした。その世界観の呈示、演劇的趣向のこだわりに深い感銘を受けた。
『廃屋長屋』は、雨が降りしきる利賀の野外劇場で、現代社会の闇を祝祭的な手法で描いた作品。鈴木忠志にしかできない大作である。
一方、蜷川演出の『雨の夏』は、鳳蘭という存在そのものが強烈に<劇的>だった。20年以上前の清水邦夫の戯曲が、宝塚の元スター達によって現代劇として蘇った希有な作品。
年間観劇本数 163本。

玉山悟(王子小劇場代表)

  1. 「PRIFIX3」公演ロロ 「いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」
  2. ナカゴー 「短篇4本だて公演『山など』の中の『告白』」
  3. バナナ学園純情乙女組 「PRIFIX3」全プログラム終了後のおまけプログラム「帰りのホームルーム」

あげた3本はみたあとに得体の知れない高揚感に包まれた、幸福を感じた作品。それ以外の印象に残った作品はパラドックス定数の「東京裁判」、劇団ガソリーナの「秘密のアッコちゃん」、演劇企画集団London PANDAの「君の顔をうまく思い出せない」、spacenoidの「Goodwill」といったあたり。今年もよくみた。意識して話題作はみないようにしてたくさんみた。いま注目している若手はロロの三浦、ナカゴーの鎌田、シンクロ少女の那嘉、PLAT-formanceの岡、範中遊泳の山本、国分寺大人倶楽部の河西といったあたり。グリーンとか明石とか早稲田とか新宿あたりとかの移動しやすいとこで多くみてる。
年間観劇本数 200から300のあいだ。

山内哲夫100字レヴュー

  1. 青年団リンク・ままごとわが星
  2. Project Natter(脚本:別役実、演出:ペーター・ゲスナー)「赤色エレジー
  3. モモンガコンプレックス「初めまして、おひさしぶり。

82年組に感服の1年。GW企画もよかったが、柴幸男の活躍が目立った。toi名義の「四色の色鉛筆があれば」も素晴らしく、カニクラ作もヒット。また、モモコンの台頭も嬉しい限り。期待のカンパニーだっただけに自然分解の危機を乗り越えての最前線登場は喜ばしい。神里雄大もりたーんずでは持ち味出し、公園に連れ出した朝公演もさすがに面白かった。ベテラン勢では飴屋法水の復活、というより多作ぶりが目立った。特に「転校生」と吾妻橋作品は持ち味を発揮し興奮した。また、下北沢の復活も印象的。うずめのペーター・ゲスナーが70年代を舞台上に復元した「赤色エレジー」の質感にも圧倒された。年末は「田園に死す」のラストに尽きた。
年間観劇本数 250本程度(ダンス公演含む)。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第170号(2009年12月30日発行)の「年末回顧特集2009」から。
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