振り返る 私の2010

高野しのぶ(現代演劇ウォッチャー/「しのぶの演劇レビュー」主宰)

  1. 「ソコバケツノソコ」公演チラシ SePT独舞「ソコバケツノソコ」(構成・振付・出演:黒田育世 構成・演出:飴屋法水)
  2. あうるすぽっとチェーホフフェスティバル2010「長短調(または眺め身近め)」(原作:チェーホフ 誤意訳・演出:中野成樹)
  3. カンパニーデラシネラ「異邦人」(原作:カミュ 構成・演出:小野寺修二)

 つかこうへい作品で観劇に目覚め、井上ひさし作品に触れて初めて“自分の頭で考えること”を知った私にとって、両氏の逝去は自分の根幹を揺さぶる出来事だった。
 衝撃を受けた海外招聘作品も多くあったが、ベスト3は日本人の舞台にしぼった。王道ストレート・プレイが選から漏れたのが残念だ。奇抜な演出で演劇とは何かと問い、観客存在に揺さぶりをかける舞台も大歓迎だが、そろそろ日本製の硬質ストレート・プレイの新たな書き手に出会いたい。無論それを演じられる俳優にも。
 今後も必見の団体は蜷川幸雄氏率いるさいたまゴールド・シアターとさいたまネクスト・シアター。若者と高齢者、素人と玄人、作り手と観客が、明確な狙いのもとに混在、融合する舞台を生み出している。
(注)今年の3本は客席数300席以下の小劇場公演から選出。3作品の並びは上演順。年間観劇本数は274本の予定(2010/12/25時点)。

三橋俊平(フリークリエイター、@mtshs_jazzycat9

  1. 「グロリア」公演チラシ ハイリンド×サスペンデッズ「グロリア
  2. ピーピング・トム「ヴァンデンブランデン通り32番地
  3. 文化庁芸術家在外研修の成果「7ストーリーズ

 1、3に関しては「役者」の上手さを感じ、印象に残った作品。
 2に関しては最近個人的に関心のある「物語」とは何かということの回答を示してくれたように思えた作品。
 「物語」とは「関係性」なのではないかという私的な視点が生まれ、それによって作品の見え方が変わった1年でした。他に印象に残った作品は「Real Contact 2010」「空白に落ちた男」「HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会」「春琴」など。
年間観劇数 40本弱。

鈴木励滋(舞台表現批評)

  1. 「VACUM ZONE」公演チラシ 東野祥子solo dance「VACUM ZONE」(シアタートラム)
  2. マームとジプシー「しゃぼんのころ」(横浜・STスポット)
  3. 中野成樹(solo)「誤意訳 討入り」/「忠臣蔵フェア」(川崎市アートセンター)

(公演日程順)

 さらすということを考えさせられた3本を。舞台作品は作り物に違いないのだが、表現者の人生の一部でもある。生き様をさらすような作り物は、他者の実人生を揺さぶるまでの強度を持ちうる。1.の終盤、水煙をあげ瀧のように落ちる水の前で延々と激しく震えつづけた東野。巧みに踊るよりも圧倒的に踊であった。2.のかずおの幼稚な罵声が「でも死なないで」という願いに連なったとき、小賢しく粉飾できない14歳だからこその説得力を、尾野島は爆発的な絶叫で体現していた。3.の中野は現代における「討入り」を自身と連続殺人事件の加害者との同化と表した。自らをえぐるかのような問いは、彼の中の悪性を超えて私たち人間の業までも露わにした。
年間観劇数 210本。

永岡幸子(社会人学生)

  1. 「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」公演チラシ Orega Challenge「内藤新宿 ~そっちの日本は、どうですか?~」
  2. 入江雅人グレート一人芝居「マイ バニシング ポイント
  3. 維新派「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき

 上演順。素直に楽しめた作品をチョイス。「内藤新宿」は脇役までキャラが立っている脚本の勝利。入江雅人一人芝居はゲスト作家(赤堀雅秋、ブルースカイ)で新境地、じわじわくる面白さ。屋内の劇場にいることを忘れさせてくれた維新派、さいたまに海が見えた。今年は初見の劇団・団体が多く、なかでも結城座と維新派に刺激受けまくり。学生に戻ってから観劇本数が減少気味なのが悩みの種。
年間観劇数 約20本。

堤広志(T2(Bacchus編集室)/舞台評論家)

  1. 「ハバカリ・ザマin寝覚子SA2010夏」公演チラシ MOKK project03「LAURA
  2. CASTAYA Project「±070077(070077No.2)
  3. tsumazuki no ishi「ハバカリ・ザマin寝覚子SA2010夏

 2010年も偉大なアーティストが亡くなった。大野一雄、仕事でお会いする機会のあった井上ひさし、つかこうへいといった方々、個人的には恩師でもある長岡輝子も鬼籍に入られた。だが、その功績や存在の大きさと比較して一般の反響が予想外に少ないことに憤りにも近い違和感を感じている。社会における舞台人の存在など所詮その程度のものでしかなかったのかと。そんな私の頭から離れなかったのは(3)の「生まれ損」というセリフ。消えた高齢者問題や児童虐待の悲惨なニュースの多い現在に応答できている数少ない演劇であり、戯曲を書き始めた頃からスエヒロケイスケをマークしていた私にとってようやく決定打と思わせてくれる舞台だった。ダンスでは新星・村本すみれ振付の大群舞(1)が特別な時間と空間を見事に演出し圧巻でした。
年間観劇数 262本。

森山直人(演劇批評家、京都造形芸術大学准教授)

 今年は豊作だった。上記三本は、舞台芸術の新しさのみならず、その背後に「歴史」が透けてみえてくる。上記の他に、 F/T10でのマルターラー、生活舞踏工房、京都国際舞台芸術祭での鉄割アルバトロスケット、そして、岡田利規「私たちは無傷な別人である」も同じくらいに貴重な作品。
年間観劇数 約100本

平林正男(都立飛鳥高校演劇部顧問)

  1. 「3000年前のかっこいいダンゴムシ」公演チラシ 五反田団といわきから来た高校生「3000年前のかっこいいダンゴムシ
  2. 劇団こふく劇場プロデュース公演 みやざき◎まあるい劇場「青空
  3. 王子小劇場地域発信プロジェクト「ダミーサークル

 「演技」するでないふうのリアルさ、というか本当らしさ、というか、そんなものに圧倒されました。1・3の演者は中高生。ふだん自分が〈仕事〉で接している人たちが〈プロ〉の手にかかるとこんなにも変わる…そしてこんなにも自然に感動を与えてくれる…。自分自身の演劇部生徒への「指導」って、このままでいいのか? と、自分自身のあり方に対しての衝撃をものすごく受けました。また、2の「青空」は、障碍ある人々がそのありのままの姿で舞台にいて、そこからありのままの思いをぶつけてくる。演じることってなに? 観ることってなに? そして「教える」ことってなに? と、根源的なことを考えさせられた3作です。
年間観劇数 95本くらい。

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

  1. 「聖地」公演チラシ マームとジプシー「しゃぼんのころ
  2. さいたまゴールド・シアター「聖地
  3. あうるすぽっとチェーホフフェスティバル2010「長短調(または眺め身近め)

 7月にワンダーランドで鼎談をさせてもらった(日夏ユタカさん、藤原ちからさんと)が、自らそんなことを企画するほど、2010年は若い才能と多く出会えた年だった。マームはその代表であり、ジエン社とバナナ学園純情乙女組で今年の3本にしようとも考えたが、「しゃぼん」の衝撃はどうしても、何かと一緒にくくれない絶対性がある。「聖地」は蜷川幸雄と松井周という、世代も演劇的出自も異なるふたつの才能が奇跡的な融合を見せた、事件といっていい舞台。「長短調」は翻訳について、チェーホフについて考える機会となり、読後感が長く続いている。なので、見逃した悔しさが今年最も長く続いているのは、中野成樹さん企画の「忠臣蔵フェア」。
年間観劇数 240本。

田口アヤコ(COLLOL主宰、http://taguchiayako.jugem.jp)

  1. 「ウィトゲンシュタインの落とし穴」公演チラシ 柴崎正道ソロダンス公演「ウィトゲンシュタインの落とし穴
  2. フォースド・エンタテインメント「視覚は死にゆく者がはじめに失うであろう感覚」(ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル2010)
  3. なし

 奇しくもソロ作品2本となりました。パフォーマーがそこに在ること、それ自体を舐めるように楽しめる作品が観たいです。今年は観劇本数が少なく、見逃したものも多いのであまり大きなことは言えないのですが、カンパニーの全員にメソッドが徹底出来る演出家の出現を期待します。
年間観劇数 約20本。

玉山悟(王子小劇場代表/芸術監督)

  1. 「ボーイ・ミーツ・ガール」公演チラシ ロロ「ボーイ・ミーツ・ガール
  2. バナナ学園純情乙女組「あの素晴らしい闘争をもう一度
  3. ナガゴー「リベンジャーズ・トラジディ

 毎年この企画書かせていただいてますけど、あげた3団体が去年とまるで一緒。しかも全部ウチの公演。結構みたけどこうなっちゃったなあ。けど、どの団体も、昨年の作品より何段階か深化してるんですね。中でも、鑑賞、解析を拒否する圧倒的な情報量を提示するバナナ学園の充実はすごいです。昨年名前を出した以外のところで注目しているのは、ぬいぐるみハンターの池亀、Live NaturallyActivelyの本村、まごころ18番勝負の待山、極東退屈道場の林といったあたり。あと去年から引き続きシンクロ少女の名嘉がいいし、ロンドンパンダの大河原ももっと観られていい。新しいところを発掘したいのでおもしろい団体教えてください。(自薦・他薦問わず)
年間観劇数 200本から300本のあいだ。

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