振り返る 私の2011

伊藤元晴(大学生、「象牙の空港」主宰)

「バーニングスキン」公演チラシ

  1. 青年団「ソウル市民1939恋愛二重奏
  2. 子供鉅人「バーニングスキン
  3. 岡崎藝術座「街などない

 岡崎藝術座と子供鉅人。一見全く違うこの二つには、場面の乱入という共通点がある。場面Aに場面Bが乱入して芝居が進行する。これは紛れもなく画面という文化から生まれた手法だ。私たちの生活はメディアの画面からの情報に依存している。今年最大のニュースは大震災に違いない。本来多種多様な情報源である筈の私たちの画面は、震災後、一つのニュースで覆い尽くされ続けた。そして、このトラウマが私たちの世界との距離感を狂わせた。混ざり合う空間は、そんな、じっとしたままでも、見知らぬ世界に侵される生活を反映している。ソウル市民は時代劇だが、実体は国際化した混ざり合う日本の未来の姿を感じさせる。
(年間観劇数 80本)

都留由子

「ノマ」公演チラシ

  • シアター・マダム・バッハ(デンマーク)「雨だれ」 (キジムナーフェスタ2011)
  • リクウズルーム「ノマ」
  • 福島県立いわき総合高校演劇部「Final Fantasy for XI.III.MMXI

 印象に残った3本。順番は見た順です。「雨だれ」はデンマークの幼児向けのお芝居。ストーリーというほどのものもないのに、子どもたちを引きつけて離さない魅力と、夢中で舞台を見つめる子どもたちの様子は、思い出すたびにしあわせな気持ちになる。一昨年、昨年に座・高円寺で見た「グッバイ・ミスター・マフィン」「箱」なども含めて、デンマークの幼児・子ども向けのお芝居は、見るたびにその面白さに目を見張ってしまう。こういう芝居が成立するんだ!と驚き、とても印象に残ったのが「ノマ」。「Fainal Fantasy for XI.III.MMXI」、生きるための芝居というものが本当にあることを感じた。
(年間観劇数 40本)

今井克佳(大学教員、ツイッター @blankimai)

「空のハモニカ」公演チラシ

  1. 世田谷パブリックシアター「モリー・スウィーニー」(ブライアン・フリール作、谷賢一翻訳・演出)
  2. てがみ座「空のハモニカ
  3. 趣向「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話

 震災や忙しさもあり例年より少なめの観劇。1は小劇場とは少しずれるが、翻訳・演出の谷賢一(DULL-COLORED POP主宰)の手腕が冴えていた。2は、金子みすゞの評伝作、戯曲(長田育恵)・演出(扇田拓也)・俳優ともに優れていた。3は、演出(黒澤世莉)に支えられた新たな才能(作・オノマリコ)の誕生と捉えた。その他、長塚圭史の活躍(「浮標」、「荒野に立つ」 )、青年団「ソウル市民」五部作連続上演、SPAC「真夏の夜の夢」、イキウメ「太陽」。震災と関連して、野田地図「南へ」も忘れがたい。
(年間観劇数 約115本)

福田夏樹(演劇ウォッチャー、ツイッター @natsukinoboyaki)

「オペレッタ、黄金の雨」公演チラシ

  1. ピーチャム・カンパニー「オペレッタ、黄金の雨
  2. マームとジプシー「Kと真夜中のほとりで
  3. ナカゴー「ダッチプロセス

 今年といったらどうしたって震災のことを考えずにはいられないわけで、作品の制作側が意識していようがいまいが、私が震災に重ねて解釈したものから3本(観劇日順)。1.は震災直後の公演で、新宿の街が立ち上がる姿に東北の復興の姿が重ねられて見えた。2.は喪失・不在への後悔を執拗なまでに追求した点が心に響いた。3.は前半で笑わせられながら、後半の地獄絵図の後のもがきが現状の等身大の姿としてみえた。震災関連での次点はロメオ・カステルッチ「わたくしという現象」。震災抜きでストライクゾーンど真ん中だったのはロロ「常夏」で描かれた青春。なお、ままごと、チェルフィッチュの作品は私の中では殿堂入りの扱いとしている。
(年間観劇数 約230本)

日夏ユタカ(ライター・競馬予想職人)

  1. マームとジプシー「塩ふる世界。
  2. 多田淳之介と埼玉芸術総合高校生徒による「3日で創る“あゆみ”短編ver.」(キラリ☆ふじみ展示会議室)
  3. 飴屋法水+ECD+空間現代(六本木スーパーデラックス「Action, Sound, Conflict」にて)

「塩ふる世界。」公演チラシ 昨年は、マームとジプシーの勢いと変化と進化に飲みこまれた1年だった。観客の、そのカンパニーの定番的な趣向を楽しみたいというファン心理にしっかり応えつつ、それとは相反する、繰り返し足を運ぶがゆえにこれまでとはちがうもの、より新しい表現にも触れたいという欲望を、年6本の作品発表というハイペースでありながらつねに満たしてくれたのは驚異的なことだ。なかでも、最新作の「Kと真夜中のほとりで」のうねるような熱量にも惹かれつつ、儚い幻のような舞台だったのにいまも強く記憶に棲まう「塩ふる世界。」を挙げたい。
 多田淳之介の演出作品では、本来なら主宰する東京デスロックの「再/生」を選ぶべきだろうし、おなじく高校生が出演ということなら「平成二十三年のシェイクスピア」(いわき総合高校第7期生卒業公演)かもしれない。しかし、劇場ではない会議室に魔法がかかった、あの幸福な時間を残さないわけにはいかない。その瞬間にしか生まれない、ふつうの高校生たちでしか作れないプロフェッショナルな作品だったのだ。
 震災後、間もない時期に行われたダンス・演劇・音楽・美術の越境的イベントのなかの1本、飴屋法水+ECD+空間現代によるパフォーマンスは驚くべき優しさと温かさに満ちていた。ひとがでんぐり返るだけで、ひとがひとに呼び掛けるだけで、ひとがそれに応えるだけで、こんなにも揺さぶられるなんて。ある意味、今年を象徴するような時間であり、もっとも未来を感じる体験でもあった。
(年間観劇数 約113本)

堤広志(舞台評論家)

「家電のように解り合えない」公演チラシ

  1. あうるすぽっとプロデュース「家電のように解り合えない
  2. パルコ・プロデュース「クレイジーハニー
  3. 株式会社パルコ+USINE C「猟銃

 (3)は、女三人の情念を鮮烈に演じ分けた中谷美紀の演技力に脱帽。井上靖の原作への深い解釈と卓抜したセンスを感じさせるフランソワ・ジラールの演出、シンプルながら象徴的な「そんな転換あり!?」の驚愕の舞台美術には海外アーティストのレベルの高さを見せつけられた。(2)は、文芸出版界の内幕暴露的な題材も含め本谷有希子がいま自身で描くべきものを確信犯的に突き詰めた姿勢と、ソーシャルネットの負の精神性を挑発的に暴いてみせた同時代性、そして長澤まさみの初舞台にして圧倒的な演技と脚線美を評価したい。ちなみに同じバルコ製作では、つかこうへいの遺志を継ぐ座組「新・幕末純情伝」で熱演した鈴木杏の見得に歌舞伎的にらみ効果を発見し思わず感情移入した。近年岸田賞受賞作やヒット作を連打するバルコの業績も評価すべきで、勝手に「シアター・オブ・ザ・イヤー」を授与したい。ダンスについては、(1)も含め「国際演劇年鑑2012」に執筆予定なのでそちらを参照されたい。
 年間観劇数174本(予定)。

武藤大祐(ダンス批評家、dm_on_web

「世界の小劇場vol.1 ドイツ編」公演チラシ

  1. ショーネッド・ヒューズ青森プロジェクト2011
  2. シー・シー・ポップ 「遺言/誓約」(世界の小劇場vol.1 ドイツ編
  3. チョイ・カファイ (シンガポール)「ノーション:ダンス・フィクション」(F/T11公募プログラム)

 津軽の民踊とコラボしたヒューズは身体のみならずその生活環境までをもダンスの内に凝縮し、身体で風景を映し出してみせた。シー・シーは「リア王」を現代の物語に翻訳すると同時に、今の我々の姿をシェイクスピアへと翻訳してしまった。カファイはダンスの概念や歴史を、身体をめぐる一般的な問いへと開いた。海外勢ばかりになった。いま自分が芸術に何を求めているか自問すれば、「美」でも「面白」でもなく「思想」だ。国内のダンスではイデビアンの「アレルギー」、KENTARO!!ソロ2作、近藤良平&ハンドルズ、黒沢美香&ダンサーズ「虫道」が記憶に残るが、全体的な閉塞感は続く。他に「横浜借景」、ギエムのエック「アジュー」、「金梅子の仕事」等。
(年間観劇数 公演数で数えると130くらい)

楢原拓(劇団チャリT企画主宰、劇作家・演出家・俳優、楢原拓のプログ

「Archives of Leviathan」公演チラシ

  1. tamago PURiN「さいあい~シェイクスピア・レシピ~
  2. 風琴工房「Archives of Leviathan
  3. KAKUTA「ひとよ

 tamago PURiN は、自分も演出として関わったタイニイアリスの「ドラマツルギ×2011」というフェスティバルに参加し、参加5劇団の中から大賞に選ばれた若いカンパニーです。様々な制約からこじんまりとまとめがちだった他の団体と比べ、美術やパフォーマンスで圧倒的な力を見せつけていました。
 風琴工房は、LEDの開発にまつわる企業の話をモデルにした作品で、2時間飽きることなく緊迫した時間をつくり出す詩森さんの技に魅せられました。
 KAKUTAは、DV夫を殺害した母親が長い刑期を終えて成長した子ども達の元に帰ってくるいう話。DVから逃れられない因果めいたものが浮かび上がってくる終盤の戯曲の構造が圧巻でした。
 以上、当時の記憶を頼りにしてますので、勘違いもあるかもしれませんが、心を動かされた作品3本を挙げました。
(年間観劇数 約100本)

高野しのぶ(現代演劇ウォッチャー/「しのぶの演劇レビュー」主宰)

「エンジェルス・イン・アメリカ」公演チラシ

 「官能教育 藤田貴大×中勘助『犬』」は昨年の私的No.1だったクロード・レジ演出「彼方へ 海の讃歌」を超える強烈な体験になった。「ヒロシマ・モナムール」では崇高な志を持つ俳優の仕事に触れられた。「エンジェルス・イン・アメリカ 第一部・第二部一挙上演」は演出力が冴える、カットなしの本格的な一挙上演。
 その他は葛河思潮社『浮標』、TAKE IT EASY!×末満健一2011『舞台版「千年女優」』、世田谷パブリックシアター『モリー・スウィーニー』(上演順) 。
 3.11以降、東京で暮らす私は慣れ親しんだ生活スタイルや、楽観的に描いていた人生設計を変えざるを得なかった(そのように強いられた)。その影響は今も続いている。演劇が私の人生を豊かにしたと声を大にして言えるし、自分はこれからも演劇を必要とするだろう。でもこの先、自分がどんな演劇を欲するのか、わからない。
(注)3作品の並びは上演順。客席数300席以下の小劇場公演から選出。年間観劇本数は287本の予定(2011/12/25時点)。

鈴木アツト(劇団印象-indian elephant-主宰、個人ブログ「ゾウの猿芝居」)

  1. tamago PURiN「さいあい~シェイクスピア・レシピ~
  2. 該当なし
  3. May「晴天長短

「晴天長短」公演チラシ 2011年は、鈴木拓朗氏率いるtamago PURiNが創った1に出会えたことが最大の事件だった。野菜がシェイクスピアを学ぶという結構の物凄い芝居を作ってしまったこの才能には、内輪のファンで窒息しそうな小劇場マーケットをぶっ壊してくれることを切に期待してしまう。来年3月に再演するみたいなので、未見の方は是非見てください。必ず驚きます。
 3は、東京の小劇場で流行りの作風ではなく、だからこそ価値がある。Mayの作品は、在日のアイデンティティがテーマであり、「歴史」が前に前に出てくる。この「歴史」を語り続けようとする姿勢を買う。それが、今の小劇場の作品群に最も足りないものだと思うからだ。
(年間観劇数 90本程度)
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【注】
* 劇場名や上演月日は、各地で公演している場合などに付けた。
* 作者、訳者、演出家名も、3本の選択に関係する場合などに付した。
* リンク先は2011年12月28日現在のURL。このあとサイトの改廃、ページ内容の変更、リンク切れなどが生じるかもしれません。ご注意ください。

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