振り返る 私の2011

後藤知佳(学生)

  1. マームとジプシー「塩ふる世界。」マームとジプシー「塩ふる世界。
  2. 東京デスロック「再/生(東京デスロックver.)」
  3. チェルフィッチュ「三月の5日間」

「塩ふる世界。」公演チラシ 4月の「あ、ストレンジャー」以来、マームとジプシーが公演ごとに見せる変貌ぶりから目が離せなかった(そしてそれはおそらく現在進行形)。8月公演の「塩ふる世界。」では、研ぎ澄まされた独自の叙情世界と、その皮の一枚下に蠢く猛々しさが絶妙なバランスでそこにあり、過渡期著しいこのカンパニーが見せた奇跡的瞬間のひとつだったと思う。もう同じものは二度と見れない。2.「再/生(東京デスロックver.)」は多田淳之介+フランケンズver.との同時上演とはいえ(だからこそ?)、初演時からこれほどの跳躍を見せている異常事態そのものに感服。3.「三月の5日間」は、とうとう直接見ることができた感慨もひとしおという意味で。
(年間観劇数 約50本)

鈴木励滋(舞台表現批評 、ツイッター @suzurejio)

「エクソシストたち」公演チラシ

 あれだけのことが起こったのだから、影響を受けぬ者はいないだろう。けれども、抗いようのない災禍や理不尽な死が、わたしたちに纏わりついていなかったことなど、一瞬たりともなかった。あの日の前からも。おそらく人間というものが存在してからずっと。
 「反応」として多くの作品が生まれた年となり、それはいたし方のないことだが、表現者であるのならば、自らの体験や近しい者に生じたことでしか作れないのでは不甲斐ない。いま遠くの国で起こっていることや、かつてここで起こったことに、想いが及ばなかった自らを問い直す必要があるのではないか。
 「運命」に抗う覚悟/執拗さ/強度が傑出していた3本を選んだ。思えば、この人たちはあの日以前から、どんな作品でもそういう表現をしてきている。
(年間観劇数 189本)

田中綾乃(演劇評論・三重大学准教授)

  1. 世田谷パブリックシアター「往転-オウテン
  2. SPAC「真夏の夜の夢」(静岡芸術劇場)
  3. M-PAD2011 おいしくてあたらしい料理と演劇のたのしみかた」(三重県津市内の飲食店・寺院)

「M-PAD2011 おいしくてあたらしい料理と演劇のたのしみかた」公演チラシ 3.11以前と以後とでは、世界の捉え方や価値観が変わってしまった今年。3月以降、相変わらず劇場に足を運んだが、これまでの芝居の見方とは明らかに異なる自分がいた。その中で選んだ3本は、図らずも東京1本に地方2本、しかも公共劇場制作による作品となったが、特に地方での演劇の力の可能性を感じた一年だった。
 1は、オムニバス形式を取りながら、根底では四つの物語が繋がっているという劇構造が見事。時空の往来、生死の往来を巧みに描きながら、曲折した道を歩んできてしまった私たちそのものを顕わにした骨太の作品。2は、約20年前に上演された野田秀樹潤色・演出の『真夏の夜の夢』を、詩情溢れる言葉とファンタジーの世界へ変身させた。宮城演出ならではの遊戯性と詩的な作品。3は、飲食店や寺院の空間を使いながらのリーディング公演。仙台で好評を博しているリーディング公演の手法を借りながら、リーディングの枠では捉えきれない作品となった。公共ホールの三重県文化会館と津市の民間劇場、津あけぼの座による共同制作という点も画期的。
(年間観劇数 157本)

北嶋孝(ワンダーランド)

「Final Fantasy for XI.III.MMXI」東京公演チラシ

  1. 福島県立いわき総合高校総合学科第8期生卒業公演「チャンポルギーニとハワイ旅行」(作・演出:前田司郎)+ 同校演劇部東京公演「Final Fantasy for XI.III.MMXI
  2. tamago PURiN「さいあい~シェイクスピア・レシピ~」
  3. かもめマシーン「雲。家。」(エルフリーデ・イェリネク作、林立騎訳)

 小さな空間で開かれた公演を取り上げてみた。1は原発汚染事故の影響を「密」と「顕」で表した対極的な舞台。「チャンポルギーニ…」は新年2月に東京公演が予定されている。2は、TinyAliceのミニフェスティバルDrama Turugi2011で審査員の全員一致で最優秀賞に輝いた繊細、かつエネルギーあふれる公演。3は、ビルの狭い屋上で空と雲を見上げつつ過ごした不思議な時間の流れが記憶に残る。ほかにsons wo:「めいしゃ」、ピーチャム・カンパニー「ダンシング・ヴァニティ」、ブルーノプロデュース「カシオ」、岡崎藝術座「レッドと黒の膨張する半球体」、リクウズルーム「ノマ」なども忘れがたい。カステルッチ/飴屋法水「宮澤賢治 夢の島から」は、演出家2人の依って立つ地盤と軸の違いが際立っていた。こうして並べてみると、不思議、不可解な現前に引きつけられた1年だった。
(年間観劇数 160本)

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【注】
* 劇場名と上演月日は各地で上演している場合に付けました。
* 作者、訳者、演出家の場合も必要に応じて付けた場合があります。
* リンク先は2011年12月28日現在のURL。このあとサイトの改廃、ページ内容の変更、リンク切れなどがあるかもしれません。ご注意ください。

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