振り返る 私の2013

仲野マリ(フリーランスライター  ガムザッティの感動おすそわけブログ

  1. マームとジプシー「cocoon」
  2. カタルシツ「地下室の日記」
  3. ハイバイ「て」

mu&gypsy_cocoon0a 「cocoon」は、現代の若者が戦争をアタマではなく生身で感じられるように描き、従来の戦争ものの枠を越えて衝撃的。その上で昭和の人間をも納得させる戦争に対する深い思索も感じられた。
 「地下室の日記」は、ドストエフスキーの難解小説を換骨脱退、舞台に上質の笑いをちりばめた。ニコ動発信を使い、現代の自己顕示欲をあぶり出した手法に脱帽。
 「て」は、同じ日本語を話しながら断絶していく人々のありようを描き、観る者それぞれに、家族間の愛憎を考えさせた。
 次点に劇団太陽族の「りんご幻燈」(作・西史夏)。俳句をベースとした文学性豊かな戯曲は、ほかに見ない世界だ。
 一方、新進女性演出家に焦点を当てた「God Save the Queen」は低調。ほかも作品力、演技力ともに小ぶりのものが目立った。仲間内で箱庭的オリジナル作品を書いて演じて満足するにとどまらず、骨太の古典作品もひもとき修練を積んで、視野を広げてもらいたい。
ツイッター@GamzattiCom
(年間観劇数 101本)

文月路実(編集者・ライター 個人ブログ「この世界は私の生きていたい世界ではない」「うつし世はゆめ」)

  1. 劇団ゴキブリコンビナート展「大人が本当に怖いお化け屋敷」
  2. 飴屋法水×スガダイロー「瞬か」(スガダイロー五夜公演)
  3. 東京芸術劇場「ストリッパー物語」(Roots Vol.1)(つかこうへい作、三浦大輔構成・演出)

gokiburi_obake0a 心を抉られ、吐きそうになり、トラウマになるほどの強烈なショックを与えてくれた3本を選んだ。1.はゴキブリコンビナートによる巡回型演劇。ヴァニラ画廊の狭い空間に細い通路を張り巡らせ、役者たちが芝居をしながら観客を一人ずつ誘導。真っ暗ななか役者や山羊やニワトリが飛び出てきたり、小さな木の箱に乗せられて水路に落とされたり、丸太の上を渡らせられたりする。濃密で怖くてドキドキするパフォーマンス。2.はフリージャズピアニストのスガダイローが様々な分野のパフォーマーと即興でライブを繰り広げる公演の二夜目。グランドピアノを奏でるスガの傍らで飴屋法水が古いピアノを次々とハンマーで叩き壊す。残酷な行為だが、役割を終えたピアノへの弔いのようにも思えた。3.はストリッパーの女とそれにたかるヒモ男の話。ヒモ男のせいで悲惨な末路をたどる女の姿に、人生の救いようのない残酷さを感じ辛かった。世の中の不条理、人間の不平等さをこれでもかとばかりに見せつける三浦大輔の冷徹な視線にゾクッとした。
(年間観劇数 132本)

三橋 曉(コラムニスト)

  • AmayAdori Studio Performance “雨天決行”シリーズ「うそつき」(@スタジオ空洞)
  • FUKAI PRODUCE羽衣「Still on a roll」(@こまばアゴラ劇場)
  • 万能グローブ ガラパゴスダイナモス「ナイス・コントロール」(@こまばアゴラ劇場)
     [次点] Micro To Macro「落下のエデン」(@シアトリカル應典院)

fukai_stillaroll 順位ではなく、観た順(次点も含めて)。まずは、何年か前にルスバンズの初演を観て、その面白さに思わず唸った「うそつき」の再演に小躍りを。思いがけなく、ほぼ同時期にこの名戯曲をとりあげた踊れ場のバージョン(@RAFT)も良かった。2度観たけど、3度でも4度でも、いつまでも観ていたい「Still on a roll」の無類の楽しさ、前半は某劇団の劣化コピーのようにも映ったけど、終盤に目の醒めるような展開が待ち受ける「ナイス・コントロール」にも一票づつ。
 リリーエアライン「『赤いろうそくと人魚』(@イロリムラ プチホール)より」や劇団衛星「岩戸山のコックピット」(@KAIKA)三部作など、旅先での出会いも幸運に恵まれた。中でも「落下のエデン」は、劇伴の大胆なフィーチャーも成功していて、おおいに心を揺さぶられたのだった。
 以上の他にも、ナカゴープレゼンツのマット・デイモンズの英語劇「レジェンド・オブ・チェアー」(@Brick-one)のぶっ飛んだバカバカしさや、まさに今の日本がただ中にある東アジアの危機的な状況に迫ったトラッシュマスターズ「来訪者」(座高円寺)などなど、暗い世相にはうんざりだが、芝居に関しては今年も悪い年じゃなかったとしみじみ。
(年間観劇数 120本前後)

吉植荘一郎(俳優)

  • 「葵上~近代能楽集」-作:三島由紀夫 演出:キム・セイル 出演:世amI(美加理、泉陽二、久保庭尚子、イー・ジヨン)8月15日-18日 アトリエ第七秘密基地(韓国密陽演劇祭参加作品)
  • 「黄金の馬車」-原案:メリメ、ルノワール 演出:宮城聰 出演:SPAC(美加理、阿部一徳、武石守正、大内米治、永井健二、渡辺敬彦他)6月1日-22日 静岡県舞台芸術公園野外劇場「有度」(ふじのくに⇔せかい演劇祭2013)
  • 「アジア温泉」-作:鄭義信 演出:ソン・ジンチェク 出演:キム・ジンテ、勝村政信、イ・ポンリョン、成河、千葉哲也他 5月10日-26日 新国立劇場

seami_aoinoue0a 以上3作は規模も作風も全く異なりますが、いずれも「俳優の技芸や演出上の仕掛を越えた、その先にある世界」を垣間見せてくれました。『アジア温泉』には、饒舌や喧騒と同時に存在する沈黙というものが感じ取れて思わず唸ったものです。
(年間観劇数 約40本)

阪根正行(工場員)

  • はえぎわ「ガラパコスパコス」
  • 岡崎藝術座「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」
  • 二騎の会「雨の街」

haegiwa_garapagos0a 工場に勤めるようになって案の定、本が読めなくなり、映画も観られなくなった。以前なら50本くらい観ていた演劇も今年は20本に留まった。う〜ん、でもいくら減ったと言っても20本は観ているのだから、やっぱり演劇が好きなのだろう。さて今年の「記憶に残る3本」
○はえぎわ『ガラパコスパコス』
若い男が高齢者施設から抜け出した認知症の老女を自宅に匿うという話。いかにも作家が書きそうなテーマだが、ノゾエ氏の描き方は素晴らしかった。緻密だとか構成がうまいだとか、そういうレベルではなくて、
○岡崎藝術座『(飲めない人のための)ブラックコーヒー』
アガサ・クリスティの原作は取り立てて言うほどのものではない。だが神里氏が演出を手掛けたこの作品は、死の香りが濃厚で、まるで焙煎珈琲、いやそういうレベルではなくて、
○二騎の会『雨の街』
「雨の街」という幻想の街に迷い込んだ男の話。一向に進展する気配がなく、とりとめのないやりとりが、淡々と、延々と繰り返される。時間の澱み、静かな演劇、極。

小泉 うめ(観劇人、会社員)

  1. 万博設計「鮟鱇婦人」
  2. 劇団太陽族「林檎幻燈」
  3. 地点「CHITENの近未来語」

bannpaku_anko0a 自身の生活拠点を関西に戻したことで、結果的に全国の劇場をまわる生活が始まった。新たな出会いがたくさんあったが、会いに行けなかったと思うことも増えてしまい、それには頭を抱えている。関東で上演された作品は他の方に取り上げて頂くとして、関西だけで上演された作品を3つ選んだ。
  1.千田訓子の圧倒的な一人芝居。彼女の一世一代の舞台の証人に名を連ねさせて頂けて心から幸せに思っている。万博設計の橋本匡のタレントにもますます目が離せない。
  2.これが長編デビューとなった西史夏の戯曲が素晴らしく注目していきたい。それを舞台で具現化した太陽族は、現代演劇レトロスペクティヴでの「血は立ったまま眠っている」も見事な再演だった。
  3.アトリエ『アンダースロー』のオープンに伴い、地に足の着いた活動が続いているが、公演は毎回とても刺激的で、それだけのために京都に通いたくなる。演劇においても、京都はとても元気だ。(Twitter; @co_ism1_U_Me)
(年間観劇数 230本)

萬野 展(OfficeBanno主宰)

  • シンクロ少女「ファニー・ガール」
  • FUKAIPRODUCE羽衣「Still on a roll」
  • COLLOL「サリー・キャロル」

synchrogirl_funnygirl0a 芝居を見ることが闘いだとすれば、闘争の記憶が生々しいうちは、ああこの傷はあの攻撃を避けきれなかった傷、この痛みは狙いが逸れて壁を殴ってしまったときのもの、と、ひとつひとつを反芻できる。時がたって傷あとも判然としなくなってくれば、ただ、あ奴とはいつかもう一度どこかで戦らねば、とか、あのときは勝ったと思っていたけど、よく考えてみると負けていたのか、とか、そういうざっくりとした印象だけが残っていく。
 そういう意味で今年を振り返ったとき、シンクロ少女の「大きな時間を扱う手際」と、それを前提とした「人生の答え合わせ」を重層的に見せるドラマは、簡単には忘れられない。
 最近の芝居が「ライブ系」と「文芸系」の二極化傾向にあるとすれば、FUKAIPRODUCE羽衣は前者だけど、ダントツに楽しく、ドラマを追いかけるのではなく、気がつくと背後にドラマに立たれている感じが快感だったことを覚えている。
 最後に、芝居を見ていて「まるで自分のことのようだ」と思うことはたまにあるが、本当に自分が出てくるという、生まれてはじめての経験を今年はした。COLLOLの田口アヤコが世界に降りしきらせる言の葉のなかに、不意に登場する、「書けなくなったと言って姿を消した、最初の劇団の座長」である私は、その30年後に彼女の客席に座って、想定外の被弾の感触をかみしめていたのであった。真昼の幽霊に出会うとはこういうことを言うのだろう。
(年間観劇数 30本)

柴田隆子(舞台芸術研究)

  • 庭劇団ペニノ「大きなトランクの中の箱」(森下スタジオ)
  • She She Pop「シュプラーデン(引き出し)」(京都国際芸術祭2013)
  • チェルフィッチュ「地面と床」(KAAT神奈川芸術劇場)

penino_trunk0a 視覚的造形による世界観の提示が圧巻だった『大きなトランクの中の箱』。好き嫌いの域を越えて、とにかく網膜に焼き付くような作品であった。今、ここで考えなければならない喫緊の問題を突き付けられた気がしたのが『地面と床』。同舞台は、言葉と身体に加え、音楽とも拮抗する構成が面白く、その意味では冨士山アネット/Manos.『Woyzeck/W』の2バージョン公演も興味深かった。演劇的手法として印象的だったのは『シュプラーデン』。対話や中断しての説明や数値化で他者をいかに理解するかを示すのに加え、いかに理解できないかも演劇的に示されている点が新鮮に感じた。「東」も「西」も「女性」も決して一枚岩でなく、個人のレベルでは逸脱、越境、超越する部分があり、それでも「文化」の中には共通する部分があるということを、実際の写真や手紙、書物、音楽など具体的な個人とのつながりで示す、ありそうでなかなか見ない舞台であった。
(年間観劇数 71本)

高橋英之(ビジネスパーソン)

  1. 岡崎藝術座 「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」
  2. 城山羊の会「効率の優先」
  3. シベリア少女鉄道「遙か遠く同じ空の下で君に贈る声援2013」

okazaki_blackcoffee0a 東京にいる時間が減ってしまい、観劇数が少なかった今年。『ストリッパー物語』(作:つかこうへい/演出:三浦大輔)、『手』(作/演出:岩井秀人)、『月光のつつしみ』(作:岩松了/演出:岩井秀人)のような小劇場からの名作と、さまざまな形で再会できたのは収穫。ただ、自分へのインパクトの大きさという意味では、上掲の3作品。眼前に繰り広げられるスペクタクルとしての演劇の原初の強度に打ちのめされて、東京で2回、京都で1回と、3回も観てしまった「ブラックコーヒー」。観劇後に覚えた強い共感が、圧倒的なマイノリティーであることを、ワンダーランドの劇評セミナーで思い知らされ、逆に観劇後に語り合うことの面白さを再発見した「効率の優先」。そして、いろんな演劇に出会っても、結局のところ自分が一番大好きで、自信をもって誰かと一緒に観にいける演劇は、シベリア少女鉄道しかないのだと、改めて確認させてくれた「遥か遠く…」。
(年間観劇数 47本)

高野しのぶ(現代演劇ウォッチャー、「しのぶの演劇レビュー」主宰)

  • RunsFirst「帰郷 The Homecoming」
  • Doosan Art Center Produce・東京デスロック+第12言語演劇スタジオ「가모메 カルメギ」(韓国で上演)
  • 演劇ユニットてがみ座「地を渡る舟 -1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-」

tegamiza_chiwowatarufune0a 2013年も小川絵梨子の演出の洗練と手堅さに疑問の余地なし。ピンター作『帰郷 The Homecoming』は彼女が手掛けた4本(『ピローマン』『帰郷(略)』『OPUS/作品』『クリプトグラム』)の中で最も高密度で、自律した俳優同士の交流もスリリングな、民間の小劇場公演では稀有と言える充実の舞台だった。『가모메 カルメ ギ』はソン・ギウンがチェーホフ作『かもめ』を1930年代のソウル近郊に置き換えて脚色し、多田淳之介の演出で戦中から現代の日韓関係が浮かび上がった。長田育恵の新作戯曲『地を渡る舟(略)』は戦時中の日本の民俗学者を描いた群像劇。長田は井上ひさしの志を受け継ぐ劇作家だと思う。
 上田誠、岡田利規、畑澤聖悟、蓬莱竜太、前川知大、山内ケンジの新作戯曲には、東日本大震災と東電福島第一原発事故から約2年半を経た今の日本と日本人が、当事者の視点で描かれていた。現在進行形の災害のもとで常に惑っている私は、彼らの芝居で自分の位置を確かめる。
(注)3作品の並びは上演順。劇作家はあいうえお順。客席数300席以下の小劇場公演から選出。年間観劇本数は240本の予定(2013年12月20日時点)。
参考リンク:
RunsFirst「帰郷」:http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=46016
「가모메 カルメギ」:http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2013/1105133408.html
「地を渡る舟」:http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2013/1123013438.html