振り返る 私の2013

 

山下治城(映像プロデューサー・ディレクター 個人ブログ「haruharuy劇場」)

  • イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」
  • マームとジプシー「cocoon」(@東京芸術劇場シアターイースト)
  • 城山羊の会「身の引き締まる思い」(@三鷹市芸術文化センター)

城山羊の会「身の引き締まる思い」公演チラシ イキウメの前川知大の仕事は今年質量ともに群を抜いていたカタルシツ「地下室の手記」などの実験的な公演もはじめとても優れた舞台に仕上がっていた。「片鱗」は怖い空気が細部まで完成していた。
 同様にマームとジプシーの藤田貴大の仕事も素晴らしいものだった。今年観た4本の舞台どれも質が高く、特に「cocoon」は今日マチ子のマンガも相まって記憶に長く残る作品となった。
 そして、城山羊の会も毎回レベルの高い舞台を見せてくれる。山内ケンジの仕事が新たな展開を始めたようにも思える。「効率の優先」もとても印象に残るものだった。
 今年、初めての観劇体験として忘れないのが劇団チョコレートケーキ、そして、木ノ下歌舞伎だった。KERAや平田オリザ、そして岩松了、坂手洋二などのベテランも健在。それを追う、中津留章仁や三浦大輔、岩井秀人、岡田利規などもいい。さらには今年初見だった、はえぎわ、玉田企画、そして「桐島、部活やめるってよ」の映画を監督した吉田大八の初舞台も印象に残った。
(年間観劇数 130本)

危口統之(演出家 「悪魔のしるし」) 

  1. 栩秋太洋「山(仮)」(ダンス公演)
  2. 米元のり子キューバメタルフェス「君はBRUTAL FESTIVALを知っているか!」上映会(自主映画上映会)
  3. 日本葬送文化学会シンポジウム「変わる葬送文化 ― 今なぜ『家族葬』なのか」(学会)

栩秋太洋「山(仮)」(ダンス公演) 舞台と関係なさそうなものばかりでごめんなさい。でもまったく無関係というわけでもないです。トチアキさんのは、内容はさっぱり憶えてないのですが観たという記憶だけはなぜか飛び抜けていて、それってナイスだと思いました。キューバのやつは、楽しみに出かけたら客入りがスカスカで、自主映画もヘヴィメタルもキューバ文化もマイナーとはいえそれなりに豊かなジャンルなのに、合体したらこのザマかよ、という失望感が強かったです。この手のセクショナリズムは小劇場も他人ごとじゃないです。葬送シンポジウムは、見せ物としてどうこういうものではありませんが、フィクショナルな身振りと社会の関係について考えるいい機会でした。
 …そんな感じで今年をしめようとしていたのに、つい先日吉祥寺でSCOTの仕事に直に触れて、大幅な再考を余儀なくされました。これについてはあらためて書いてみたいと思っています。
(年間観劇数 たぶん20-30本くらい)

武藤大祐(ダンス批評家)

  • 手塚夏子「私的解剖実験―6 ~虚像からの旅立ち~」(1月、STスポット)
  • 「新長田のダンス事情(仮称)|5年目のイベント」(9月、神戸ダンスボックスおよび周辺)
  • シルクロード能「江口」(11月、のげシャーレ)

手塚夏子「私的解剖実験―6 ~虚像からの旅立ち~」 必修化と規制の板挟みで「ダンス」をめぐる議論が今までになく高まる中、「思想」を伴った、価値ある上演を選んだ。どれも単なる形式上の実験に堕することなく、具体的な「今ここ」にある共同体やその歴史性を、それぞれのスケールで問題化している。ダンスを近代的な芸術の檻に閉じ込めるのをやめ、その外にあるダンスとの接続を試みるこうした動きに今後も注目していきたい。来日公演では、韓国の芸能のルーツを巫俗から神話へと遡ってみせたソ・ヨンラン『地の神は不完全に現る』も同じ路線上にあり、韓国ならではの発想と巧みなマルチメディア表現が刺激的だった。その他では、栩秋太洋『私は山なのではないか?』、横山良平『ダブル オー』は萌芽的だが強烈な異彩を放ち、アンサンブル・ゾネ『Passive Silence―受け身の沈黙』、東京ELECTROCK STAIRS『東京るるる』はダンスなるものに潜在する多様な力を引き出すことに成功していた。twitter= https://twitter.com/muto_daisuke
(年間観劇数 公演数=158、作品数=245)

山本愛弓(教員、ワークショップデザイナー、観劇初心者)

  1. 「ひとりぼっちよりも、マシだから愛してる。」(FUKAI PRODUCE羽衣「サロメVSヨカナーン」2月)
  2. 「そうやって、孤独に、死ね。」(ハイバイ「て」5月)
  3. 「もう無理、がんばれない。」(マームとジプシー「cocoon」8月)

ハイバイ「て」公演チラシ 恥ずかしながら、自分で興味を持って観劇したのは今年が初めてです。観劇数は、5本。「記憶に残る3本」を挙げるのは忍びありませんでした。が、今日になって、ふと、いたずら心に浮かんでしまいました。「記憶に残る三台詞」です。
 1.生涯記憶に残る一本になりました。観ていた時の幸福感が、劇場を飛び越えて、時間を超えて、響きました。イブの夜。1人でインスタントのみそ汁を飲んでいたらこの歌が蘇ってきました。”ああ。あのサロメやヨカナーンは皆「ひとりぼっちの夜」を知っていたのだなあ”と。思いを寄せる冬でした。
 2.夫の暴力に耐えてきた妻が、誰からも相手にされず家の中で孤独に死んでいけと吐き捨てる。振り払っても取れない厄介な「家族」なのに、誰一人として孤独には感じませんでした。胸が詰まる春でした。
 3.負傷し高熱にうなされ、幾日も逃げ惑った果てに力尽きるえっちゃん。死の苦しみを計り知ることができません。がんばっている。それでも、もう、どうにもならないこと。ぐったりとする夏でした。

 秋は劇場に行きませんでした。学芸会を観ていました。ゆらゆら揺れる秋でした。2014年も、その時々の言葉や空気に触れたいです。

 

森山直人(演劇批評家/京都造形芸術大学教員)

  1. 「Hate Radio」(ミロ・ラウ演出)(ふじのくに⇄せかい演劇祭2013)
  2. PortB「東京ヘテロトピア」(構成・演出:高山明)(フェスティバル・トーキョー2013)
  3. ARICA「しあわせな日々」(演出:藤田康城、美術:金氏徹平)

ARICA「しあわせな日々」 常軌を逸した多忙を極めた今年については、見逃した作品も数多く、決定的なベストスリーを選ぶことは難しい。また、運営の当事者であるという立場上、KYOTO EXPERIMENTや京都造形芸術大学舞台芸術研究センター主催公演についてもここで選ぶことを差し控えると、ほぼ上記の3本に落ち着きそうだ。ちなみに、それ以外では、劇団地点『ファッツァー、来い』(原作:ブレヒト、演出:三浦基)、維新派『マレビト』(構成・演出:松本雄吉)、『錆からでた実』(振付:森下真樹、美術:束芋)、『雲に乗って』(ラビア・ムルエ演出)などが印象に残った。特に地点の立ち上げた新しい拠点小劇場「アンダースロー」は、今後ぜひ注目していただきたい。これは舞台芸術における「Dommune」や「ゲンロンカフェ」に比肩すべき新しい発信基地である。「あまちゃん」や「perfume×Rhizomatics」に勝てる(?)舞台を作るためには、新しい拠点を見つけ出すことが必要な時代である。その意味で、突如舞い込んだF/Tのディレクター交代劇は、そうした拠点の「存続」に暗い影がさした嫌な事件だった。
(年間観劇数 約80本)

 

チンツィア・コデン(イタリア語非常勤講師・演劇研究者)

  1. ラビア・ムルエ連続上演「雲に乗って」(フェスティバル・トーキョー2013)
  2. 新宿梁山泊「月の家~タルチプ」(作:盧炅植[ノ・ギョンシク]、演出:金守珍)
    新転位・21「「漱石の道草」(作・構成・演出:山崎哲)
  3. 鴎座「森の直前の夜」(作:ベルナール=マリ・コルテス、訳:佐伯隆幸、演出:佐藤信、出演:笛田宇一郎)  

新宿梁山泊「月の家~タルチプ」公演チラシ 海外公演なので「3本」に入れられないけれど、イタリアで見たピッポ・デルボーノカンパニーの「戦いの後(Dopo la battaglia)」は今年一番の解放的な舞台だった。デルボーノが、精神病院で出会って自分を救ってくれた、今劇団の欠かせない存在であるボーボにささげたという。
 笛田宇一郎が直立不動で発し続けるモノローグによって、雨の降る夜に、他人とかかわろうとしている孤独な人間の姿が見えてきた。
 新転位・21の舞台も雨でびしょ濡れ。石川真希、大久保鷹、木之内頼仁、十貫寺梅軒らベテランが若い世代の役者と一緒に、「大地震」や「ひっかかるもの」を中心に、夏目漱石の言葉を肉化して劇的にしあげた。
 新宿梁山泊の「月の家」で李麗仙に、オフィス300の「あかい壁の家」(渡辺えり作・演出)では緑魔子に、感銘を受けた。過去の舞台の蓄積によって、舞台に注がれるエネルギー、その演技に魅了されて忘れられない。
 F/Tのラビア・ムルエ連続上演三作は繊細なタッチで、演劇の在り方や観客とメディアの関わり方を問いかけ、ポストークを含めて、演劇に対する熱い気持ちが印象深かった。「雲に乗って」では、レバノン内戦の後遺症で不自由な身体になったラビアの弟が、不完全な語り口で虚構と現実を行き来する。この公演を見て私は、唐組の「鉛の兵隊」(唐十郎作)の「ひ弱な魂」の余韻に気付いた。
(年間観劇本数 約80本)

 

北嶋孝(ワンダーランド)

  • 木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談−通し上演−」+主宰・木ノ下裕一と演出家・杉原邦生の終演後トーク
  • イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」
  • MODE「城」(カフカ・プロジェクト2013三部作連続上演から)

2013kfkproA 木ノ下歌舞伎公演は上演時間が全三幕6時間と聞いてそそられてしまった。舞台からは、どうしていま通し上演か、が明快に伝わってきた。主宰と演出家の「木ノ下・杉原」コンビによる終演後のトークも抜群におもしろい。合わせ技1本以上、である。
 「獣の柱」は、頻発する不思議現象から宗教が湧出する社会をミステリアスな手法で描く。「出エジプト記」や「日本沈没」のイメージも思い起こされる骨太の芝居になった。
 MODEの集大成と言えるかもしれない「カフカ・プロジェクト2013三部作」。未見だった「城」を取り上げた。不条理群像スペクタクル風? 熟成したコクとキレは確かに「オトナ」の風味だった。
 見るつもりだったのに出かけられなかった公演が20本を超えている。観劇10年の勤続疲労?が蓄積しているのだろうか。
(年間観劇数 約110本)