「最前線の演劇知」(後期)第4回報告

◎お客さんには入門編、ゲスト俳優には演劇道場-いのうえひでのりさん(劇団☆新感線)

いのうえひでのりさん クロストーク150分「最前線の演劇知」(後期)第4回は、劇団☆新感線のいのうえひでのりさんを話し手に迎えて2012年2月4日、東京・日本橋の水天宮ピット(東京舞台芸術活動支援センター)で開かれました。劇場の空間や劇団内外の役者さんとの作品づくりについて、笑いを誘う例え話も交えながらの2時間半でした。

 徳永さんは「どうして劇団☆新感線はこんなに大きくなれたかと尋ねると、いのうえさんはいつも『好きなことをやっているだけ』とおっしゃる。でも『そうは言ってもなあ』といつも心残りがあった。今日はその心残りを聞きたい」と切り出しました。

 新感線が大勢の観客を集めていることを踏まえて、いのうえさんは「新感線は(お客さんにとって)演劇の入門編」と述べました。すると徳永さんは「確かに入門編だけど非常に奥が深い、奥行きのある入口の門」と応じます。それに対して、いのうえさんは「入門編だから分かりやすいし笑えるけど、他の芝居のことも知って観てほしい。他のタイプの芝居があるから新感線のような演劇もやっていられる。分からないものはつまらないという風潮はよくない」とも打てば響くように返していました。

 劇場空間の広さや装置のダイナミズムについて、いのうえさんは「大阪オレンジルームでの旗揚げ初演の頃から脳内劇場は新橋演舞場だった」と話していました。また「やりたいことをやれるところが新橋演舞場だった。やってみたらちょうどよくて、こういうことがやりたかったんだとわかった」とも話していました。

 「東京初公演のときは東京を討ち取るつもりで、ものすごい舞台装置を持って行った。シアタートップスで60時間かけて仕込みをやってゲネができなかった」と当時の秘話も。
 大阪時代、いのうえさんの演劇の原点はつかこうへいさんだったそうです。
 受講者から「演劇ユニットおにぎりの演出を引き受ける際に『大劇場のお金をかけた演出だけじゃなく小さい劇場でもやれるということを確認したい』と言っていたが結果は?」との質問がでると、「小さい空間で少人数で動くという感じ、どこかで見たことあるなあ、と思っていたらつかさんだった」と答えていました。

いのうえひでのりさんと徳永京子さん
【話し合ういのうえひでのりさんと徳永京子さん 水天宮ピット。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

 劇団外から有名人を客演に迎える公演スタイルを、いのうえさんは「新感線道場」と名付けていました。徳永さんによると、古田新太さんは「自分は番頭。主役の人の脱いだ服を片っ端から拾ってきれいにたたみ、次はこれ、と渡して回る訳どころが好き」と言っていた。いのうえさんは古田さんだけでなく、「新感線の役者はみんなそう」と話していました。
 いのうえ演出の稽古、舞台を通じて出演者が「演技開眼」すると言われていることについて「本人が補助輪を外して、自分一人で自転車に乗れるようになった瞬間に立ち会っている。なぜ乗れるようになったのかはうまく説明できない。でも何度も何度も繰り返した。どこが気持ち悪いのか伝えているうちに、自然にできるようになっていた」と振り返っていました。

 「新感線の舞台は入門編だけどチケット代が高いので若いファンの開拓がしにくいのでは?」と徳永さんが話題を振ると「スポンサーについてもらうなど考えなくてはいけないが、これまでの経験だとゲキシネが入口になっていた」と答えていました。ゲキシネについては「チケット代は映画よりは高いが2000円くらい。映像の監修は別にいるが、演出家として見せたいところをきちんと拾って編集してある」「自分は新しいものが好き。映像をよく使う海外の演出家の作品を観るときもどうやっているのか仕掛けがわからないとすごく悔しい」と研究熱心な一面も見せてくれました。
(編集部)

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