演劇セミナー2011 第3回(報告)

◎笑いを信じている。最後はそこに帰ってくればいい-ケラリーノ・サンドロヴィッチさん

ケラさん
【撮影=石井雅美 禁無断転載】
 

 第3回の演劇セミナー「最前線の演劇知」は、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが登場。ナイロン100℃を主宰する劇作家・演出家で、映画監督、ミュージシャンでもあります。6月4日、会場の水天宮ピットは受講者でいっぱいでした。

 聞き手の徳永京子さんは、ここ何年か、欠かさず初日直前にKERAさんにインタビューしてきたそうで、KERAさんは台本が書けなくて疲労困憊していたこともあるとか。それだけに、にっこり笑いつつ鋭い質問が繰り出され、KERAさんの「なるべく台本を早く書かない演出術(笑)」と「そこから立ち上がってくるいろんな問題」などが語られました。

 定番質問の最初は「なぜ演劇なのですか?」。
 もともと映像に関心のあったKERAさんは演劇を長く続けるつもりではなかったそうですが、一斉に始めて一斉に終わる演劇、記録は残せるにしても1回限りで毎回消えていく演劇、消えていき・忘れていくけれど、身体のどこかに積もっていく演劇、が一番楽しいそうです。

 「いい役者とは?」には例えでお答え。「200ccのコップに150ccしか水を入れられない役者は、ほどほどの役者。200cc入れてくれたらいい役者。もっといい役者は表面張力で220ccくらい入れてくれる。こぼす役者は最悪。グラスにおさまりつつ、かつ、それ以上のものを入れてくれる、自分が思いもしなかった説得力のある人物を演じ、イメージしていたものを越えて演じてくれる、ぶれない役者」がいい役者だそうです。役者の中には、最初からコップに注がない人もいて、そういう人は、「傍から見てると面白いけど自分の作品にはやだ(笑)」ということでした。

ケラさん
【写真は、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんと徳永京子さん 撮影=石井雅美 禁無断転載】

 KERAさんの言葉の端々から、劇団や劇団の役者を大事に思い、誇りにしていることが感じられ、「笑いを信じている。最後はそこに帰ってくればいいと思ってるし、最後は笑いで立ち向かうしかない」という言葉には、「笑い」に対する並々ならぬ情熱もうかがえました。

 3月の震災は誰にとっても大きな衝撃でした。KERAさんも、震災前にはあとどのくらい書けるかなあと思うことがあったそうです。けれども、震災後は行けるところまで行こうと思うようになり、震災に限らず、流れが一段落してから振り返るのではなく、何があるのかわからないけれど現在進行形で何かを作っていく、紡いでいく中で何かを見つけ出す必要があると考えていると話していました。

 受講者からの質問にも、「新劇」の捉え方、親子ほど年齢の離れた劇団の若手に対する思いなど、時間いっぱい応えていました。

 作ることで溜まった疲れは作ることで解消するというKERAさんの、演劇への愛、劇団への愛、役者への愛、笑いへの愛、プログラムやチラシへの愛など、溢れる愛を感じる150分でした。

 KERAさんの新作は作・演出の『奥さまお尻をどうぞ』がこの夏、東京・大阪で上演されるほか、秋には、ナイロン100℃の『ノーアート・ノーライフ』が東京・大阪・名古屋・北九州・広島で公演を予定されています。
(編集部)

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