演劇集団 円「ビューティークイーン・オブ・リーナン」

「ビューティークイーン・オブ・リーナン」公演チラシ

 演劇集団 円の「ビューティークイーン・オブ・リーナン」公演が東京・両国のシアターΧで開かれています(11月16日-22日)。原作は、いま脂の乗っている英国の作家マーティン・マクドナーの戯曲第1作。1998年にトニー賞4部門を受賞、世界各地で上演されたそうです。ファッションやデザインの世界が長かった佐々木眞さんから、この公演のレビューが寄せられました。芝居は「年に1本ぐらいしかみない」と言いますが、どうしてどうして。奔放・闊達、読みごたえのある文章です。以下、全文です。


 快晴の土曜日の午後、久し振りに回向院に詣で山東京伝兄弟の墓前に額ずいた後で、すぐ隣のシアターXで演劇集団 円が公演している『ビューティークイーン・オブ・リーナン』を観た。何の予備知識もなく飛び込んだのだが、作者はマーティン・マクドナーというロンドン生れのアイルランド系の若者で、本作は彼が23歳の時にわずか8日間で書き上げたのだという。

 舞台はそのアイルランドの僻地。人よりは牛だの鶏の方が多い荒地に佇立する一軒家。厳しい自然の真っ只中で、その自然よりもシビアな40歳の娘と70歳の母の「戦争」がおもむろにはじまる…。

 ハジメチョロチョロ、ナカパッパ。もとい、はじめは処女のごとく、終りは脱兎の如し、テカ。母が頑固なら、娘も頑固である。吹きすさぶ海風と荒れ狂う雷鳴をBACKに、2人のしたたかな女が骨肉の争いを、あるときは軽妙なユーモアとウイットで、またあるときは口以外の手段を総動員してしのぎをけずる。その、しのぎの切口とけずりの多様性こそが、マクドナルドじゃなかったマクドナーの独壇場だ。

 若き天才劇作家は、かわるがわる黒い笑いと赤い殺意を3分おきにまるでパイのように舞台せましと僕らに投げつけ、僕らははらはらドキドキしながらどこか訳の分からない遠いところまで引っ張りまわされる。その不快さ! そして、その愉悦! お楽しみはどこまで続く。いっそ地獄の底まで落ちていけ!

 そして期待通りに悲劇は訪れるだろう。それはどこかヒッチコックのサスペンス劇に似ている。それはまたどこかギリシア神話のこだまに似ている。でも、ちょっとばかり違う。それは、今日たったいまあなたの家のキッチンのロッキングチエアで進行している「それ」に一番似ているのである。

 例えば僕だが、僕は僕の死んだ母と、それ以前に死んだ義理の祖母との間で最後の数年間に繰り広げられた悪夢のような戦いを思い出していたよ。ったく、なんて芝居なんだ!! そしてなんてにっくったらしい奴なんだ、マーティン。

 ちなみに、役者は僕にははじめての人たち(年に1本くらいしか見ないもんね)。最高ではないだろうがまああんなもんだろう(ごめんなさい)。でも立石凉子の黒の下着はとてもエロチックで石田登星ならずとも興奮する。「もっと下、もっと下…」、なーんちゃって、ほんとに原作に書いてあるセリフなんだろうか? 演出美術照明は可もなく、不可もなし。音楽と芦沢みどりの翻訳がいい。11月22日までやっている。
(佐々木眞 2004.11.20)

【上演記録】
■演劇集団 円公演 シアターX提携 「ビューティークイーン・オブ・リーナン

キャスト
モーリン・フォーラン 立石凉子
マグ・フォーラン   有田麻里
パド・ドゥーリー   石田登里
レイ・ドゥーリー  佐藤銀平
ラジオの声    青山伊津美

スタッフ
作    マーティン・マクドナー
訳    芦沢みどり
演出   岸田 良二
美術   島次郎
照明   小笠原純
衣装   畑野一惠
音響   斎藤美佐男
舞台監督 田中伸幸
演出助手 渡邉さつき
宣伝美術 坂本志保
イラストレーション 深津真也
制作 桃井よし子

投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください