タテヨコ企画「フラミンゴの夢」

◎不条理な展開が生むおかしみ ナチュラルな行為の積み重ねの先で
楢原拓

「フラミンゴの夢」公演チラシタテヨコ企画は、作・演出の横田修さんと俳優の舘智子さんの二人で結成され、その二人の名前、「舘」と「横」からとってつけられた劇団名だそうです。
初見の私としては、周辺の人の話から、なんとなく淡々とした静かな芝居を勝手に想像していたのですが、それがなかなかコミカルで飽きさせない、どちらかというとウェルメイドなつくりの芝居に仕上がっていて、とても楽しく拝見することができました。

舞台は解体寸前のビルの地下広場(とはいってもそんなに広くはないのですが…)。そこに鍵のかけられたドアが一つあり、その向こう側にかつて地下農場(医薬品の開発のために、合法的に”けし”の栽培が行われていたらしい)があったらしく、その跡地をロケーションにした映画の撮影が行われようとしています。その撮影クルーである助監督らが撮影の準備を行いつつ、監督の到着を待っていますが、あろうことかその農場跡へと通じるドアの鍵が見つからず…。さてどうしよう…。鍵は一体どこにあるの? 撮影は行えるの? そんな状況下で話が進んでいきます。

暗転なし転換なし、ノンストップ1時間半の中で、概ね以下のようなエピソードや問題が浮かび上がってきます。

・かつて地下農場は、このビルの前オーナーが運営していたが、彼はその後失踪(家出?)してしまったために、ビルの建て替えを画策していた現オーナー(前オーナーの娘婿)によって、妻(前オーナーの実娘)や親族の了解の下、死亡届が出され、前オーナーは戸籍上、故人とされてしまっている。
・かつて地下農場に出入りし、前オーナーと親しくしていたと言う二人の若者がやって来る。彼らによると、最近、インターネットの掲示板に前オーナーを名乗る人が頻繁に出没している(もちろんバーチャルに)らしく、二人は前オーナーの死の扱いに異議を唱える。
・撮影クルーの助監督見習い・星野(自称24歳ですが、実際は40代くらい)は、実は前オーナーの甥っ子であり、親族らは彼のことを見習いではなく監督であると誤解し、ビル内での撮影が許可されている。
・一方、助監督の一人である鹿島は、最近、妻が家出をしてしまったらしく、妻の言い残した「あなたの夢って何?」という一言がずっと心にひっかかっている様子。
・鹿島は、撮影現場に陣中見舞いに訪れたプロデューサーから別の作品の助監督の仕事を依頼される。助監督という立場から早く脱して自身の作品を撮りたいという思いから助監督の仕事をセーブしている鹿島は、その依頼を一旦断るが、実はその映画が、後輩助監督である木村の監督デビュー作であり、しかも木村からのたっての願いで自分が指名されたことを聞かされ、その依頼を受けるかどうか思い悩む。

こうしたビルのオーナー家の身内のゴタゴタ話と、撮影クルーたちの人間模様、そして助監督・鹿島とその妻との夫婦関係が、彼らが居合わせることになった映画の撮影現場を通して並列的に描かれていきます。

タテヨコ企画「フラミンゴの夢」公演
【写真は公演の一場面。撮影=平地みどり、提供=タテヨコ企画】

「フラミンゴの夢」というタイトル、そして冒頭から発せられる「あなたの夢って何?」という問いかけからも、「夢」というものがひとつキーワードになっていることが理解できます。

終盤あたりに鹿島が、リストラの末に趣味の延長のような感覚で助監督見習いを志願してきた星野に言い放つ言葉が印象的です。

「オレ(鹿島)は四六時中映画のことが頭から離れない映画好きだけど、あんた(星野)はそれくらい寝食忘れて映画に没頭できるのか? できないんだったらさっさとやめた方がいい」(確かこんなようなセリフだったように記憶しています)

このあと鹿島は、後輩・木村から頼まれた助監督の仕事を引き受けることを決断します。自らメガホンをとる(監督になる)ことを夢見つつも、そして後輩に先を越された格好となる自身の微妙な立場がありながらも、最終的には助監督で食いつないでいくという現実的な選択をとる鹿島、夢と現実との折り合いをどうつけていくのか、そのあたりになんとなく焦点が定まって幕切れとなっていきます。

「あなたの夢って何?」という問いかけから始まるので、冒頭からちょっと身構えた部分は正直ありましたし、また主題や話そのものはとりたてて奇抜なものでもなく(地下農場というのはユニークですが…)、そういう意味での面白みというのはあまり感じられないかもしれません。しかしながら、それでも1時間半ほとんど飽きずに見られたのは、巧みで客観的な視点を持った作・演出の力と、それに応える役者の力量によるものだと思いました。

全体を通して、無理のないナチュラルな行為が積み重なって進行していくのですが、ところどころつかみどころのないある種不条理な展開や先の読めない情報(どこからともなく登場する前オーナーの知り合いの若い二人組のやりとりなど)がうまい具合に随所に仕組まれていて、それらがおかしみを生み出し、ついつい見入ってしまうような、そんな1時間30分でした。

役者では、鹿島役の瓜生和成さんが、「夢」という一歩間違えると見てる側が退いてしまうような危なっかしい主題を背負いながらも、けっしてヒートアップしすぎることなく、淡々とした落ち着いたトーンで、それでいて彼独特の雰囲気を醸し出しながら好演していたのが印象的でした。

また、見習い助監督・星野役の坂口候一さんも、どうにも格好の悪いリストラ中年おやじをベテランならではの確かな演技で巧みに演じていて良かったと思います。
大変面白かったです。

【著者紹介】
楢原 拓(ならはら・たく) 埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。劇団チャリT企画主宰。劇作家・演出家・俳優。

【上演記録】
タテヨコ企画 第13回公演「フラミンゴの夢」

ワンズスタジオ(千川)(2006年11月11日-19日)
作・演出 横田修

[出演]
瓜生和成(東京タンバリン) / 坂口候一(81プロデュース) /  藤崎成益 / 工藤治彦 / 青木亜希子 / 服部健太郎 / 舘智子 / 好宮温太郎 / 中尾祥絵 / 青木柳葉魚 / 佐藤真義 / 市橋朝子

照明/鈴村淳
音+音楽/薮公美子
舞台監督/田中翼
空間/横田修+好宮温太郎
宣伝美術/京
チラシイラスト/糠谷貴使
写真撮影/平地みどり
ビデオ撮影/青木亮二(映像制作事務所 ログフィルム)
制作/タテヨコ企画制作部+【ДаДа】(藤原里香・森佑介)
製作/タテヨコ企画
協力/池田圭子、櫻井晋、劇団一の会、81プロデュース、東京タンバリン、JVCエンタテインメントネットワークス(株)、(株マザーズ)

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