ジェットラグプロデュース「誰ソ彼」(たそがれ)

5月29~6月1日
@新宿シアターモリエール
作・深虎芥(空間ゼリー) 演出・又吉直樹(ピース)

レゴブロックのような色彩のポップな舞台装置がそのまま「何かになりたい私」を示しているように見える。役者の衣装も派手だが、色同士がぶつかり合わない点はスタッフ陣の力だろう。この辺はプロデュース団体の強みかもしれない。
なぜだか夢を追う人達ばかりが集まるアパート「夕凪荘」には、小説家、映画監督、バンドマン、ダンサーをそれぞれ志す人達がいる。新しい入居者が入ってきた歓迎会で「鴎外は」とのたまう小説家志望やカメラを回し続ける映画監督志望はベタなキャラクターだが印象には残る。ちなみに俳優志望の登場人物はいない。
新劇風の明快なキャラクター設定と、台詞が二ヶ所で同時進行する平田オリザ方式が融合している点も特筆すべきだと思う。
面白い企画でした。ではお話のほうはどうだったでしょうか。


玉置玲央(柿食う客)演じるミュージシャン志望・寺山くんが「夕凪荘」に引越してくるが、歓迎会の席にはもう一人、バンドを組んで活動している一也という男がいる。しかも寺山くん歓迎会の席上でいきなりメジャーデビュー決定。あ、もうデビューしちゃうの?と思う間もなく寺山の所にめぐちゃんがやってくる。
一人だけ真っ白な服装で登場するめぐみは、男の人気を独占するアイドルである反面、絵本作家志望という側面も持っている。が、すぐ後のシーンではめぐみも絵本を出版にこぎつける。
極端にかわいらしく男ウケする佇まいと、自分の作品を出版にこぎつけて商品として高めていく作業は本来、相容れない側面を持っている。寺山を部屋に呼んで熱心に話し込む、だけではない小汚い時間も必要だ。そうした苦もなく出版が決まるなら、代わりにめぐには才能の対価として大量の仕事が舞い込んで来るだろう。
だが出版が決まった後のめぐみからは、絵本作家の話が徐々に消えていく。あげく、冴えないストリートミュージシャンの寺山を支えることに疲れ、寺山をオーディションに受からせたい一心から一也に楽曲制作を依頼したことがきっかけで一也と恋仲に。えー。なんか、えー。

他人の夢に引きずられるうちに道が潰えていく人だっていていいと思う。だけど二階の部屋でめぐ・寺山の話が進行する最中、岡田あがさ(空間ゼリー)演じるゆりは、一也のバンドメンバーの健太にふられている。ゆりは別に作家ではない。色恋沙汰に関わっためぐとゆりが同じ末路を辿る、っていうのはお話としてどうよ。終盤で一也が女優と婚約したことを知って泣き伏せるめぐに、ものを作る女としての側面はない。
一也役の西山宗佑もがんばってはいたが、カリスマとしての一シーンがあるわけでもなし、存在感だけでプロのミュージシャンとしての説得力を引き出すのは酷に思えた。

「完全なオリジナルで勝負したい」と言っていた寺山が、「寝ている間に寺山君が作った」と言われて渡された一也の楽曲でデビューするくだりは衝撃的である。この展開のために語り残されたものがあまりにも多い。先に有名になった一也が「売れるためにはなんでもする」事務所に移籍したことと、女優の婚約は関係あるのか。真夜中にベランダで布団叩きをする、夕凪荘の管理人は何を考えているのか。一番最初のシーンで触れられたのか?
寺山が入居時に大事にしていた、「自分で作ったダルマ」についてもその後の展開はない。だるま職人の実家から出て行くときに捨てられなかったダルマにこそ、「何かになりたい」病にかかった人の湿気たアイデンティティが詰まっているんじゃないだろうか。夢を抱えた人達の一部がバンドマンとして有名になり、その陰で女が泣くという筋立てはさすがにベタすぎやしないか。有名になりたい病を抱えている人間は、有名になった奴を引きずり落とすことにも長けていると思うのだが。

小説家志望の山本が毎晩電話をかける一幕がシーンごとに挟まるのだが、これが死んだ母親へのつながってない電話だったという展開も見え見えでべたべた。そんな電話しながらも一人暮らしが営める山元は何をして暮らしているのか。夢が潰えた人達が何をして暮らしているのか、それを描くだけでも夕凪荘に淀む闇が表出されるのに。やっぱり冒頭シーンで何かあったのか!?劇場外から聞こえてきた「おにいちゃああああん!」という絶叫はどんな関係があるんだろうか。
クライマックスでは映画監督志望の広沢が隠し撮りした一也とめぐの密会映像を寺山が見てしまい、他の住人の「狂」が交錯する中で絶叫するのですが、すごく「徹夜で一気に書き上げた脚本」って感じがして他人事ながら胸が痛い。そうなんです、行きづまると一気に終わらせたくなっちゃうんですよね。しかし最後に絶叫しながら登場し「お前、誰?」って言われるだけの奥山雄太(ろりえ)の処遇はあまりにも可哀相。ほんとに誰だったんだ。空き巣?

個人的には西川康太郎(劇団コーヒー牛乳)演じる三浦くんをもっと使ってほしかったと思う。寺山くんが話のメインをかっさらっていく一方で、三浦くんは笑いをかっさらっていた。地元の友達に影響されて芸人風になったりB-BOY風になったあげく自分さがしにインドに行ってしまう「ザ・現代の若者」を、確かな演技力で戯画化してみせてくれた。彼が見たくて今回来たのも確かである。が、ほんとに俳優だけ見て帰ることになるのはさびしい。劇評家気取りの21歳が立ち直れなくなるほどの現実を見せてほしかった。

<上演記録>
CAST 
玉置玲央(柿食う客) 鹿谷弥生 西山宗佑 半田周平 西川康太郎(劇団コーヒー牛乳) 森陽太 岡田あがさ(空間ゼリー) キシモトマイ 岩井太郎 津留崎夏子(世界名作小劇場) 奥山雄太(ろりえ)

STAFF
舞台美術・小林奈月 照明・Jimmy 音響・泉田雄大 舞台監督・伊東龍彦 宣伝美術・小澤貴也
宣伝写真・関根一秀 演出助手・福地貴明(HAPPY MAP) 音楽協力・氏家亮 大道具・C-COM
小道具・高津装飾美術 Webデザイン・高橋直人 「円深動法」指導・福井千里
制作・ジェットラグ、あさみまみ プロデューサー・阿倍敏信 企画・制作・ジェットラグ

協力
武藤博伸、㈱よしもとクリエイティブ・エージェンシー、空間ゼリー、柿食う客、ファンタスターポロモーション㈱
BESIDE、フォセット・コンシェルジュ、劇団コーヒー牛乳、トリプルエー、Big Bridge、ろりえ、HAPPY MAP、
シアターグリーン、塩田友克(クロムモリブデン)、佐々木将之、今村有希、久保田綾子、酒巻誉洋、詩梨、山口オン


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