庭劇団ぺニノ「アンダーグラウンド」(クロスレビュー)

庭劇団ペニノ「アンダーグラウンド」公演チラシ今回のクロスレビューは庭劇団ぺニノの『アンダーグランド』を取り上げました。「一時間で心臓を取り出す」手術ショーを生演奏付きで見せるという異色作。2006年に上演され話題を呼んだ作品の再演です。クロスレビューには多くの、とは言い難いものの、力の入った投稿をいただきました。(編集部)

藤原央登(劇評ブログ『現在形の批評』主宰)
★★

上手と下手に控えたジャズバンドの生演奏に乗せて、女性医師と看護士による開腹手術が展開される。目的は1時間以内に心臓を取り出すこと。冒頭で指揮者が全てウソと宣言したように、立派な見世物ショーなのだが、それだけで留まっていた点が不満であった。
見所は手術器具の金属音・楽器へと変貌した臓器を含め、音楽が舞台空間に横溢する様。何でも楽器になることが人体の神秘性へと繋がり、極め付きの腹から赤ん坊が登場するシーンへ至る。それは、何でも演劇になることとイコールなのだろう。
だが、あらゆるものが演劇になることはもはや周知の事実である。既に安全な見世物を宣言されているから、患者の両足がもげてもさして驚きはないし、ブラックギャグとしても突飛すぎる。虚のグロさより、音楽と身体の関係にフォーカスをもっと当て、「語り」としての音から思考を巡らせるような作品になるべきだった。
それが、「イメージ」を観る者に侵犯的に介入させる術ではないだろうか。
(観劇日 6月6日)

山田ちよ(演劇ライター)
★★★★

冒頭、指揮者役のマメ山田が、観客に愛想を振りまきながら、やや聞き取りにくい細い声で語り出した。この場面で、これから始まるのは、開腹手術を題材にした芝居で、笑えるが、注意深く見る必要のあることが伝わってきた。初演を見た時には、大騒ぎする女性医師らと、わきで関係ないことをしているマメ山田が、どう関連しているのかつかめず、作品全体の意図も見えにくかった。それが今回はいきなり、マメ山田が案内役となって取っつきやすくしてくれたので、面食らった。生演奏の音楽も、初演は愛好家好みのジャズだったのに、今回は誰にでも親しみやすいもので、舞台上の展開とも関連付けられた。これまでよりも観客に理解しやすくつくられていたが、いつものペニノらしい、面白いと思わせるものに薄い膜を掛け、心にじんわりと届けるような特色もしっかりあって、安心した。舞台の仕掛けでは、手術台の下に張られた水に、血の色が広がっていくのが気に入った。
(観劇日 6月9日)

「アンダーグラウンド」公演
【写真は「アンダーグラウンド」公演(2010年)から。撮影=田中亜紀 提供=庭劇団ぺニノ 禁無断転載】

因幡屋きよ子(因幡屋通信発行人)
★★★

初演の印象は今でも鮮烈だ。「わたしはこれからどんな目に遭わされるのか」となかば怯えながら茫然と見入るうち、最後は爽快になった。自分の中にこんな感覚が潜んでいたとは。今回は「指揮者」のマメ山田から「これから手術ショーをはじめます」と説明されたり、モニターや電光掲示の時計、残り時間を知らせるアナウンスなど、おふざけやずっこけがあって安心してみていられる。バンドの生演奏も生硬なジャズというよりゆったりと楽しげな室内楽の趣だ。そのぶん生温かみや生臭さ、禍々しさが消えた。より多くの人が楽しめるような舞台を作る工夫は大切だと思う。しかしその過程で失われているものがあるとしたら残念だ。タニノクロウの舞台の手ごたえには、安心よりも困惑を求めたい。自分の心が予想もしていなかったところへ運ばれる驚きと喜びを初演の『UNDER GROUND』で知り、わかったと思わせてもっと深みに彷徨う不安を翌年の『野鴨』で実感したのだから。
(観劇日 6月6日)

片山幹生(早稲田大学非常勤講師)
★★★★

庭劇団ペニノならではの奇抜で独創的な創意によって表現される歪んだ諧謔を堪能した。観てはならぬもの、楽しんではならぬものを、観て楽しむことで感じる後ろめたさの裏には快楽がある。ペニノの舞台はわれわれの心の邪悪なやましさを刺激し、あやしく隠微な悦びへと誘う。こびと役者のマメ山田はペニノの黒いファンタジーの格好の案内人だ。「アンダーグラウンド」は再演だが、「手術ショー」という初演の設定を引継ぎつつも、ショーとしての娯楽性がさらに強化され初演とは別の作品になっていた。臓器が一つ一つ取り出されるにつれ、舞台はどたばたの度合いが加速され、ナンセンスな黒い笑いが支配的となる。狂騒的な展開のなかで、背景で流れる音楽だけでなく、舞台上の役者の動き、音楽と役者の動きのコンビネーションが見事なポリフォニーを奏でる。メカニックにも思えるそのハーモニーが素晴らしい。最高度の洗練と独創を感じさせる表現によって、圧倒的に無意味でグロテスクなものが表現されるパラドクスがかっこいい。
(観劇日 6月10日)

「アンダーグラウンド」公演
【写真は「アンダーグラウンド」公演(2010年)から。撮影=田中亜紀 提供=庭劇団ぺニノ 禁無断転載】

大泉尚子(ライター)
★★

はじめから外科手術ショーと銘打ち、すっかり手の内をさらけ出しているにもかかわらず、次から次へと出てくる内臓群には、日本の誇る食品サンプル的な、作り物だからこそのリアル感が漂う。ラスト近く、手術台の下にじわじわと溜まっていく血の色の液体には迫りくるものが感じられ、ハイ、こうなってるんですよと種を明かされている手品なのに、ついつい目眩まされてしまう仕組みにまんまと嵌められたことも事実。グロテスクでありつつもコミカルタッチ満載、医師や看護師に扮する役者たちの連係プレーは見事だし、手術シーンなどを映し出す映像の使い方も巧みで、のどかなメロディーを奏でる生演奏は耳に心地いい。ただ、いささかそれらのバランスがとれ過ぎていて、妙に滑らかというかこぢんまりした印象になってしまったことも否めない。噂に聞く初演時の起爆力、人体に潜む原初的な暴力性を期待した者にとっては、やや肩すかしをくらった気分でもあった。
(観劇日 6月6日)

早坂彩(演出・制作・W大生)
★★★★

「手術のどの辺りがショーなのか。」
無言のままシリアスなトーンで手術を進める役者たちと、妙に陽気にポップスを演奏するバンドとの齟齬を感じながら、成り行きを見守る。メスで切られ、血が溢れ出す患部がモニターに写し出される。本物の手術を覗き見ているかのような緊張感の高ぶりが客席に充満する。
重苦しい時間の流れが辛くなってきたその時、指揮者のタクト一振りで状況は大きく転換する。臓器は楽器に変わり、臓器を取り出された男性の腹部からは乳児が誕生する。バンドと役者との間に感じられた齟齬は消え去り、すべては指揮者にしくまれた壮大な手術ショーの序曲に過ぎなかったことを思い知らされる。
鮮やかな展開によって感じた爽快感は、どんなエンターテイメントショーの幕切れにも感じたことがないほどだった。これほどのカタルシスをもたらしえたのは、前半の緊張感と後半の自由さの落差ゆえであり、どんなショーよりもショーらしい作品であった。
(観劇日 6月10日)

「アンダーグラウンド」公演
【写真は「アンダーグラウンド」公演(2010年)から。撮影=田中亜紀 提供=庭劇団ぺニノ 禁無断転載】

カトリヒデトシ(演劇サイトPULL編集メンバー カトリヒデトシ.com主宰)
星なし

「苛々する大人の絵本」などで見せた精緻かつ偏執的な美術。そしてその中で展開する異界への憧れ。ペニノは大きな魅力を持っている。しかし今作は私にはちょっと馴染まないものだった。世界を指揮するマメ山田による音楽と短いセリフ以外は無言で、演劇的表現としてとても面白く、うますぎるほど。しかしスラップスティックになっていけばいくほど、現役の医師があそこまで医療をからかうことに、むむむという思いが大きくなる。「きれいはきたない。きたないはきれい」とすべての価値は相対的なのだ、とか。表現は自由ですべての可能性は肯定されなければならない、とか。強弁するほどの先鋭的な主張があるわけでもない。そうすると医療の品位を貶めることの露悪は、職能倫理的にもポリティカルコレクトネス的にもいかがなものか?と思ってしまう。わざわざ虎の尾を踏むほどの意味があるとは思えない。多分、作者本人はなんも考えていないんだろうけど。
(観劇日 6月13日)

水牛健太郎(ワンダーランド編集長)
★★★

この作品は何といってもアイディアが優れている。手術が始まるとき、肌色のウレタンなのかゴムなのかわからないものがメスで切られる映像、人間の皮膚ではないのは明らかなのに、それでも目が離せない。あの瞬間のスリルは、虚実皮膜の間の不定形なものを内臓よろしくつかみだすようなすごいショーを期待させたが、結局は大掛かりなブラックジョーク以上のものにならなかった。「無気味さ」の表現を、半ば以上2人の小人役者の異形性に頼る安易さも気になるところ。
「クレージー」と言われるような発想はほぼ体質的なもので、そのような体質を持った人であれば、調子さえ良ければいくらでも出てくる。だから、クレージーな発想で空間を満たすことは、条件さえ整えばそんなに難しいことではない。クレージーさの核にあるものをしっかりと見極めて表現に煮詰めていくことの方が、実際は何倍も難しい。
(観劇日 6月6日)
(初出:マガジン・ワンダーランド第195号、2010年6月16日発行。購読は登録ページから)

「アンダーグラウンド」公演
【写真は「アンダーグラウンド」公演(2010年)から。撮影=田中亜紀 提供=庭劇団ぺニノ 禁無断転載】

北嶋孝(ワンダーランド編集部)
★★★

その昔、外科手術シミュレーションソフトがマニアックな人気を集めた。「Life and Death」というタイトルを聞いて、記憶の蘇る人がいるかもしれない。患者を問診、病名を診断し、手術が必要なら虫垂炎でも動脈瘤でも、蛮勇をふるって執刀する。脈拍、血圧、体温なども表示されるが、処置を誤ると患者は即、霊安室へ直行というアドレナリン全開のハラハラドキドキゲームだった。医学的効用はさておき、人体と人命をゲームの論理に乗せ、ゾンビ解剖に似たおぞましくもまがまがしい感覚が奇妙な魅力だった。庭劇団ペニノ公演「アンダーグラウンド」はその手術ソフトと同じく医学倫理をうたう「ヒポクラテスの誓い」などとは無縁で、ひたすらゾンビ的解剖路線を突っ走り、臓物オカリナの不揃いな合奏で偏執メンタリティが最高潮に達した。その突き抜ける潔さは5星クラスだけれど、最後の最後に人体の闇から赤ん坊を取り上げ、命の祝祭らしき風情を漂わせる中途半端な路線転換なら大幅減点。真相不明ながら、差し引き星三つに分かりやすく落ち着いた。
(観劇日 6月7日)(6月17日クロスレビュー追加)

【上演記録】
庭劇団ペニノ19 th「アンダーグラウンド
世田谷・シアタートラム(2010年6月6日-13日)

出演
五十嵐操、上田遥、坂倉奈津子、島田桃依
瀬口タエコ、高田郁恵、浜恵美、ビア スズキ、明石竜也
長江英和
マメ山田

阿部篤志(Pf)・山本大将(Vn)・渡邊一毅(Cl)・秋葉正樹(Dr)

スタッフ
作・演出 タニノクロウ
音楽 阿部篤志
構成 タニノクロウ、玉置潤一郎、山口有紀子、吉野明

美術 田中敏恵
特殊造形 小比木謙一郎(GaRP) 福田雅朗
照明 今西理恵(LEPUS)
音響 中村嘉宏
演出助手 森準人
舞台監督 筒井昭善 野口毅

宣伝美術 手島綾
制作 中山静子、三好佐智子

協力 (株)大沢事務所、机上風景、毛皮族、青年団、(株)ダックスープ、ハイバイ
制作協力 (有)quinada

提携 財団法人せたがや文化財団、世田谷パブリックシアター
後援 世田谷区
助成 平成22年度芸術文化振興基金
主催  庭劇団ペニノ

ポストパフォーマンストーク
6月6日(日)出演:タニノクロウ×熊井玲氏(シアターガイド編集部)

料金 前売3500円/当日3800円(全席指定)学生割引2000円

【参考】
「庭」が可能にするリアルな妄想の感触(「アンダーグラウンド」初演時の劇評)
木村覚(週刊マガジン・ワンダーランド第9号(2006年9月27日発行)掲載)
http://www.wonderlands.jp/archives/12129/


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