連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第6回

||| 地方の営業マンも巻き込んで

-先に泉太郎さんや野村誠さんの活躍ぶりというお話が出ました。会社の中では、そういう成果が見える前段階での風当たりなどはなかったのですか。

加藤 それはありますよ。ていねいに説明するしかないです。おっしゃることはよくわかるんですが、あくまで我々の予算には限りがあるし、有名な人を呼ぶとひとりで何百万もお金がかかります、でも若い人なら数十万円のお金でも相当のことができて、コストパフォーマンスとしても非常にいいので、どうかしばらく温かい目で見守っていただきたいと。そんなことを繰り返し巻き返しやっていくんですね。
 でもシンドイことばかりではなくて、一方でこういうこともあるんですよ。我々は地方の営業店に、アートプログラムに関するいろいろな情報を、どこそこで何をやっているとか、私がどこに行くかということも含めて、年中現場に流しておくんです。だから来いということではないけれど、何で我々がそこのチームに入れ込んでいるのか、年中見に行ったり話をしにいったりしているのかというのを、支社支店の営業マンによく知っておいてもらう。そうすると、営業側が、そういうチームを見に行ったり応援しに行ったりしてくれて、現場同士のつながりができるんです。

-その支店の方というのは別に文化や広報担当の方とかではなく、ビール会社の営業の方たちなんですね。

加藤 普通の社員で営業マンです。文化芸術には全然関係ない部署。毎日毎日、金勘定をしている。切ったはったで売上に一喜一憂している。そういう人たちが、本来忙しいはずなのに、そういうところを見に行ったらすごくよかったと。場合によっては、何をやっているんだかよくわからなかったけれど、一生懸命やっていることはわかったと。感想もしょっちゅう寄せてくる。まあ、長い目で見てやってよと言っています。たまには手ぶらでいくのも何だから、お祝いにビール1ケースくらい差し入れたいけれどいいかなんて言われることもあるから、経費はこっちの部署に付け替えてくれてかまわないよ、なんてね。
 逆に、プロジェクトチームの側がびっくりしたりしている。支店からわざわざ、何とか部長さんが来てくれると言っているが、それは来てもらってもいいのかと。もちろん行きたいと言っているんだから受け入れてやってと言います。甲府でフェスティバルをやってるんですが、そこでも、地元の営業の担当とフェスティバルの中心人物が仲良くなってますね。

-甲府のフェスティバル「こうふのまちの芸術祭2010」は、ミュージシャンで、アートスクエアのカフェの店長もなさってる五味文子さんが中心でやってらっしゃるんですよね。

加藤 そうです。あの子も大化けしてね。ケイドロックという変なバンドをやっている。もともとテキスタイルをやってたんだけど、染色でも、それほど目覚ましいものを作っているわけではないし、バンドも…大丈夫かなとね。でも、この子は人をひきつける才能があるなとは思っていたんですよ。パーティの司会なんかをやらせるとすごくうまい。それで、カフェの店長募集の時に声をかけたんです。でも僕が選ぶわけにはいかないから、一応推薦だけして面接を受けさせたところ、全員一致で面白いからこの子にやらせようということになった。
 そのうち、自分のプロジェクトを作って応募してきたんですが、選考の場で、意見が賛否両論真っ二つに分かれた。こんなものだめ、と言う人と、すごく面白いからやらせてみたらと言う人がいた。最終的には、僅差でね。
 そんなこんなでやってもらうことになったんだけれども、甲府では、何かえらいブレイクしているらしくて、NHKの取材が入ったり、ローカル放送局で放送されたり、出身校の高校から話にこいと言われたり。彼女も、まだまだこれからですけど、何かになるでしょう。おうちは五味醤油というんですが、一家総出で娘の道楽に付き合わされています。ああいう人が出てくると、甲府の町もどんどん面白くなるでしょうね。

||| 目標を超える成果をどれだけ見出せるか

-事業の終了後には、評価のようなことをされると聞きました。

加藤 評価を徹底的にやるということは、我々の仕事の進め方の、非常に特色ある点だと思っています。多少第三者評価も入れますが、基本的には自己評価でいいと言っています。何を目指したのか、目指したことが実現したかしなかったかということですね。
 一般的な仕事ならここで終わってもいいが、芸術文化は極めて創造的な仕事、実験的な仕事にならざるをえない。そうすると、初期に掲げていた目標とか目的というものは、当然実現しなければ困るけれど、しばしばそんなことより別の、もっとすごいことが実現してしまうことがある。え、こんなことが起きてしまうわけ!? ということが起きた方が面白い。目標を超えた物語を、どれだけそのプロジェクトから見出せたか、そこの評価はけっこう面白いです。

-その評価は具体的にどこでやるのですか。アートスクエアの実行委員会、それともスタッフ、あるいは財団の事務局ですか。

加藤 すべて実行委員会がやっていきます。

-個別のケースでは、たとえばどういう成果があったんでしょうか。

加藤 この前の野村誠君のプロジェクト「野村誠×北斎」でいうと、彼が最初、北斎漫画から木琴を見出して何かやりたいと言ったんですが、その時は誰もあまりピンとこなかった。ただ、彼なら何か面白いことをやってくれるだろうという期待値があって始まったんです。
 今日まで続いている三味線や琴や二胡などと、世の中から消えた木琴と、この4つの楽器が、北斎漫画に描かれていたというのが出発点なんですが、もしかしたら四重奏をやっていたのかもしれないという仮説も生まれる。また、いろいろな専門家のアドバイスを受ける中で、実は江戸で木琴ブームがあったということがわかってきた。しかも、その木琴の音階を今日再現できるということで、実際にやってみせた。
 江戸学会があってそこに報告したとしたら、度肝を抜くんじゃないかと思う。そうやって、単なる興味みたいなところから発しても、専門家も見落としている世界というものが、いまだに山とある。ここから先を、学者が研究していってくれるのもいい。新しい音楽を考えていく上でも、面白いんじゃないでしょうか。
(続く >>

「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第6回」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: J. Nishimoto
  2. ピンバック: 水馬赤いな

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