連載「芸術創造環境はいま―小劇場の現場から」第7回

||| 収支のバランスは健全だと自負

-文化会館としての年間予算はどのくらいなんですか。

松浦 年によって違うのでざっくり言うと、総支出額は2億円くらいです。そのうちチケット収入は、年によってばらつきがありますけれど1億円~1億2000万円とか、そういうレベルです。企業からの寄付金や公的助成金で2000万円~3000万円。文化庁の「優れた劇場・音楽堂」助成というのができましたので、それが入ると助成金がぐっと増えるんですけどね。それを差し引くと、残りはだいたい6000万円くらいですね。これが赤字、つまり予算上、県の税金からの補填額になります。2億円のうち1億4000万円くらいは、自分たちでちゃんと集めて稼ぎましょう、という事業予算規模です。他の公共ホールの話を聞いてみると、三重は、収支のバランスは健全なほうだと私は思ってます。全国的にはもっと税金の比率が高いのではないでしょうか。

-協賛企業というのは何社くらいあるんですか?

松浦 事業協賛として、うちが直でもらうのは4社くらいです。それとは別に、小口の1口年間10万円の企業協賛会員は60社くらいあります。

-貸し館としての稼働率は、どのくらいなんでしょうか。

松浦 80%に近いです。

-それはかなり高い率のように感じますが、どうなのでしょうか。

松浦 駅前の併設型だと、地の利を得て、9割前後というところもあります。この文化会館は駅前から徒歩で30分、駅からの定期バスも1時間に1~2本の立地で、ホールが大・中・小と3つあるんですけど、この規模の地方の公共ホールで80%は高いほうだと思います。実は、サービス改革以前の10年間の稼働率は60%前後だったんですよ。改革で20ポイントアップしてるんですね。今、7期連続で稼働率は過去最高値を更新中です。先にふれたようなサービスの改革があって、年々、過去最高の稼働率を更新しています。

-それはすごいですね。

松浦 貸し館事業にそこまで営業的な努力をしているところは少ないと思うんですが、ここでは、ご利用いただいた団体にお礼状を出したり、パンフレットをDM-たとえば翌年の同じ時期の1か月前に、今年のご予約は大丈夫ですかとご案内するといったこともやっています。うちは、演劇の分野などは、まだ足を踏み入れたばかりですが、劇場サービス全般においては、民間的発想で運営していると自負しています。公共の貸し館サービスは、民間に比べて非常に遅れていますね。他の民間のサービス業、ホテルやレジャー施設などからは、学ぶ・見習うべきものが山ほどあります。

-では、この文化会館の活動内容や方向性について、具体例も交えて少しうかがいたいのですが。

松浦 「【観る】・【つくる】・【育てる】・【交わる】・【広げる】・【伝える】といった劇場の持つ機能が相互に作用する事業展開を図り、文化芸術に親しむ県民のプラットフォームを目指す」というビジョンを掲げています。たとえば、「観る」機会の提供ということでは、1本でも多くのジャンルを見せようということですね。毎年必ずやっているのは、オペラ、バレエ、オーケストラに、歌舞伎や落語など。ポップスも年1、2本取り上げます。文楽は2年に1回。茂山狂言会の公演もやりました。以前から演劇も年に1、2本は入れていました。鑑賞としては、そういうものをやっています。「育てる」「広げる」の人材育成や普及活動の事業では、さまざまなワークショップ、レクチャー、講習会や、普及型のコンサートがあります。フルコンサートの入り口として、500円で1時間、誰でも気軽に聴けるという「ワンコインコンサート」があります。「育てる」の枠では、三重ジュニア管弦楽団という、小学校4年生から高校3年生までの子どもたち約70名で楽団を編成し、毎月3回練習を重ねています。

-練習場所もここなんですか。

松浦 はい、そうです。館長自ら指揮をします。練習だけでは、技量のアップしか目的がなくなるので、地域への貢献活動として、青少年育成活動とリンクさせ、毎年1回「子どもによる子どものためのオーケストラ教室」という県内の出張コンサートをやります。地元の合唱団や吹奏楽団とのジョイントコンサートです。本当に感動するんですよ。それから「つくる」では、県民参加型というか、製作参加のものですね。製作オペラも5年に1回やっています。洋楽分野では、たとえば2011年は、リスト生誕200年にちなんで、オーディションで選ばれたピアニストのコンサートをやります。

||| 若い人を劇場に招く戦略を

-演劇のお話がチラッと出ましたが、事業部門で演劇に力を入れていこうという動きがあるようですね。それにはどういういきさつがあったんでしょうか。

松浦 開館してから10数年間、うちは、クラッシックや伝統芸能に関しては一生懸命、がんばってきました。三重はもともと音楽文化が盛んで、劇場会員が現在3300人くらいいるんですけど、ほとんどがそういう、音楽系や伝統芸能系のファンで占められています。それで一定の評価といいますか、年間の主催公演の入場率が非常に高くて、2年前などは年間平均入場率90.6%。要するに、1000人の会場に1年間ずっと、900人のお客を入れ続けるということですね。それくらい、音楽や伝統芸能の観客が劇場に根付き、賑わって成功しています。それで、別にどうしても、演劇というジャンルに深く足を踏み入れなければいけないってことはなかったんですが、幸いうちの館長が、税金でやってる以上、可能性があれば1つでも多くのジャンルにトライするという方針だったんですね。
 ちょっと話が飛びますが、雅楽っていうのは開館以来やったことがなかったんです。ところが三重県には伊勢神宮があって、雅楽文化の盛んな地域なんです。それで2年ほど前に、じゃあやってみようということになり、伊勢神宮さんやその他の関係者の方と相談して実現に至りました。まあ、そういうチャレンジ精神があるんですね。
 そんな中で、私がもし可能性があるなら演劇をやってみたいと提案し、館長にも同意を得ました。本来、実験空間であるべき小ホールが、これまで一度も実験的に使われていなかったんですが、よし、ここを実験的に活用してみようと思ったんです。そこで立ち上げたのが、注目の若手演劇をセレクトして上演する「Mゲキ!!!!!セレクション」です。これは、「観る」事業には入れておらず「広げる」の普及事業なんです。

-ワンコインコンサートと同じ「広げる」枠なんですね。

松浦 演劇で「観る」事業になっているのは、たとえば、4月に中ホールでやる「二兎社」の『シングルマザーズ』などです。Mゲキ!!!!!セレクションというのは、お客をつくる仕掛けを満載した、ワークショップなんかがいっぱい入った事業なので、「観る」んじゃなくて「広げる」んですね。これが面白いところだと思っています。「観る」だと考えると、ただ場所を貸して、提携して公演を打ってそれで終わってしまう。「広げる」ということになると、劇団が三重のファンをどうやってつくるかというところから相談が始まるんですね。夏のワークショップはプレ企画にしよう、公演の1か月前には三重へ来ていろんなところで何かをやろう、なんて劇団と打ち合わせてね。

-いろいろアイデアがあるんですね。

松浦 ええ、そうなんですよ。たとえば「第七劇場」とは三重大学で学生向けにワークショップをやろうとか、「ハイバイ」なら代表作『て』の上映会をやろうとか。「ままごと」の柴幸男さんには、あいちトリエンナーレで上演する『あゆみ』の合宿稽古の環境を提供して、滞在中に公開稽古やワーク・イン・プログレス発表会をやってもらったりとか。

―Mゲキ!!!!!では、小屋入りから本番まで、小ホールを24時間連続使用できると聞きましたが。

松浦 はい。実は、小ホールを実験的に使用するということで考えたのは、その頃、キラリ☆ふじみが、そういう形で在京カンパニーに2週間とか3週間とか貸して、プレビュー公演をやってると聞いたからなんです。それなら、三重はさらにその上に24時間連続で劇場を使用して上演できるということにしたら、面白い劇団が来てくれるんじゃないかと思って、それをコツコツと説明したら、館長からもOKが出ました。

―昨年、Mゲキ!!!!!の実験として「柿喰う客」が三重に2週間滞在していますが、その経緯は。

松浦 その当時は、若手劇団を呼ぶにも、どこがいいかまったく知らないし、ツテもなかった。こうやって選んだと堂々と言えて、客観性と芸術性を担保するということになると…どうしよう、困ったなと思っていたところに、愛知で「演劇博覧会 カラフル3」という演劇の見本市をやっていた。全国から16カンパニーが集まってしのぎを削るというショーケース。そこに、1日24時間×2週間、小ホールを使ってやりたいことをやれますという賞、「三重県文化会館賞」を出したんですね。「柿喰う客」も出てて、私たちはスタッフ3人で出かけていき、全員一致でここに決めたんです。これがもう奇跡的な出会いっていうか、私ははじめて見たんですが、こんな若い子たちがいるんだ!と思った。そんなに芝居も見慣れてなかったので、彼らの芝居には、ある意味わからないものがあったんです。でも、圧倒感があった。今まで演劇を見たことのない人を巻き込もうとしている以上、パワーのある人を呼んだ方がいいと思いました。そして三重に来てもらったら、彼らはムーブメントを起こしてくれた。彼らは三重では本当に無名だったんですよ。それが約300人という集客をした。はじめての反響と熱があったと記憶しています。県内6、7か所でワークショップをやり、劇場でやっていることを、ブログやユーストリーム中継でワイワイと24時間発信してくれた。三重でおかしなことをやってるぞって、そこから噂が広がりました。王子小劇場の玉山悟さんが、それをもって来るならうちでやってやるよと言ってくださり、三重でつくった作品を、王子小劇場のおとりよせ公演として上演することになった。そうなって、うちに興味を示すカンパニーも、私自身が見る数・情報量・人脈も、一気にドカッと増えた。

-「柿喰う客」が2月に子ども向けの公演をやるそうですが。

松浦 そうですね。「柿喰う客」の作品は、「こども演劇」ではなくて「こどもと観る演劇」なんです。2月にMゲキ!!!!!で上演する『ながぐつをはいたねこ』。作・演出の中屋敷法仁さんは、いつも戦略性をもっているので、いけるというのがあるんでしょうね。かなりの冒険ですよ。中屋敷さんは下品なときは超下品ですからね(笑)。

-引き出しはいくらでもある人ですよね。大きなところでやる時は、キャッチーなことを、小さなところ・地域でやるときは、実験的なことをやる。この使い分けが、中屋敷さんはずるいくらいうまい。それにしても、Mゲキ!!!!!のラインナップは、「第七劇場」「柿喰う客」「ハイバイ」「ままごと」というユニークなものですよね。青年団系とか利賀系とか、つい、くくってしまいそうなんですが、そういう組み合わせにした意図はどういうところですか。

松浦 「柿喰う客」の場合もそうでしたが、見て選んだ結果であって、あまり何々系とかは考えないようにしています。また、演劇ファンも多様ですから、あまり自分の趣味に走り過ぎないようにもしています。見て選ぶというのが唯一の生命線っていうか、やろうとはっきり意思決定できるんです。失敗しても、見て失敗したんですからね。企画書や売込みだけで選ぶのは、演劇は難しいと思うんです。音楽は音源をもらえばある程度はできるみたいですけど、やっぱり演劇は生で一度見てみないと。

―若手劇団に絞った理由は何でしょう。

松浦 全国的な状況だと思うのですが、50代以上の顧客がメインの劇場が多いんですね。クラシック音楽もそうですね、若い人が来ない。この理由ははっきりしています。まず若い人は忙しすぎる。高校生も余裕がない。大学生はちょっと時間があるかもしれないんですけど、社会人になったらもうもっと忙しい。20代、30代がすっぽり抜けるというのが地方劇場の現状だと思います。うちもご他聞に漏れず、シアターメイツという3300人の会員は、60歳前後の方が中心で、この方々はお金も時間もあって、われわれの年間平均入場率が高いのは、この方々が下支えしてくださってるからですが、これは永遠には続かないし、そこに頼ってばかりはいられない。ワークショップにしろ、Mゲキ!!!!!のラインナップを決めるにしろ、普通は県立の会館なんかだと、もっと年齢層の高い人向けのものを選びそうなもんなんですね。そこを私たちは戦略的に、若手を演劇に、ということを考えていますので、10代、20代が興味をもつものを増やしていくという方向性を打ち出しています。
(続く >>

「連載「芸術創造環境はいま―小劇場の現場から」第7回」への9件のフィードバック

  1. ピンバック: 三重県文化会館
  2. ピンバック: narumi kouhei
  3. ピンバック: SAGA Hirokno
  4. ピンバック: 津あけぼの座
  5. ピンバック: Yoshino Arimoto
  6. ピンバック: ZENCAFE
  7. ピンバック: 油田 晃
  8. ピンバック: 矢野靖人

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください