連載「芸術創造環境はいま―小劇場の現場から」第7回

||| カンパニーとともに作品をつくる

-もうひとつの新しい試み、演劇ワリカンネットワーク『トリプル3』についても、お聞かせ願えますか。これは、三重県文化会館・愛知の長久手町文化の家・大阪のすばるホールの3つの公共ホールと、南河内万歳一座・劇団太陽族・劇団ジャブジャブサーキットという3つの劇団のプロジェクトなんですね。

松浦 契機になったのは、2007年に「青年団」とうちで共同製作した『隣にいても一人 三重編』ですね。三重、広島、熊本、青森を含む全国の7、8か所で、各地の方言を使い同時多発で製作ということに参加したわけです。それ以前のつくる演劇事業は県民参加劇ということで、戯曲も何とか三重県で書いてみよう、演出も三重だったらあの人かな、とオール三重にこだわって、というところがありました。地域でつくる市民ミュージカルなどでも、ご指導だけ中央からピョンと来てもらって…とかね。それが、あの時はじめて、「青年団」というプロの劇団と会館の共同製作、そこにアマチュアのオーディションキャストやボランティアスタッフが入ってくるという形でつくりました。そうすると、全国発信の力がやっぱりすごくて、東京のアゴラ劇場で三重編を上演して、何百人にも見てもらえた。三重でザ・三重の芝居を三重県民でつくって、仮に何とかアゴラ劇場で上演したとしても、誰も見てくれないですよね。この圧倒的な違いですね。他の地域からもここまで来てくれて、再演してくれと言ってもらえる。要するに、見たいと思ってもらえる作品をここでつくるとしたら、やっぱりプロとつくらなくちゃいけないなと思ったんですね。そういう経験を経て、演劇って可能性があるなと改めて思い知ったんです。自分たちは、そういうのは有名キャストや有名カンパニーの名前がないとだめだと思い込んでたんですが、製作演劇で5ステージ750人の観客を集めた。まだまだやれることがある、これまでは楽なことをやりすぎてたんだと反省しました。
 それで、つくる劇場たろうとすると、単なる県民参加劇じゃダメだということに気付かされた。では何をつくるかと言う時、中堅のカンパニーと製作演劇をじっくりやってみたいと思ったのがひとつ。もうひとつ、ちょっと大きなスキームで派手な仕掛けをした方がいいなというのもありました。複数の劇場が複数のカンパニーと組んで制作する、連合体を組むと面白いなと思い付いたんです。『隣にいても一人』は青森や熊本でもやりましたが、あまり地域を広げると無駄なアゴ足だけで事業費が膨らむので、最初にやるのは東海か近畿だなと。同意してくれる中堅カンパニー3つも集まってくれました。
 作品をつくるのは、『隣に』で学んだやり方、アーティストレジデンス方式をとる。それから継続ということでいえば、トリプル3は3年かけ、毎年会場を変えて順に制作し、上演していく。名前にワリカンと入れたみたいに、ノウハウやコストや、何でもワリカン=シェアし、作品自体もワリカン=シェアしている。というのは、「劇団太陽族」は『ラグタイム』という芝居しか書き下ろさないんですね。それを最初は三重、次は翌年、富田林のすばるホールでオーディションし直してやる。富田林の人にとっては『ラグタイム』は新作なんですね。その次は長久手で…ということで、劇団も3年間1作品で回れる。やっぱり大きな仕掛けだと大きな形でマスコミがとりあげてくれ、新聞などにも載りましたね。

-初年度の今回は、各劇団がホームでやる形だったんですよね。

松浦 そうです。「劇団太陽族」は結局、Wキャストの4ステージで450人くらい集客しました。非常に有難いことに、3つの劇団ともすばらしい作品でした。おそらく劇作家同士お互いに競争意識も働いているんでしょうね。初年度は大成功だったと思ってます。劇団にとってアウェイとなる来年度以降、劇場と劇団のタッグを変えたところでうまくいくかどうかが勝負ですね。

||| 劇場法には賛否を言うなら賛成だが

-トリプル3のお話もそうなんですが、こちらは、劇場法の話の中で、今後の可能性として出てきている方法を実践なさって、うまく進めておられる印象を受けます。劇場法については、各劇場にうかがってもさまざまな意見をお聞きするのですが、どのようにお考えでしょうか。

松浦 中央と地方の情報量の違いということがありますよね。劇場法についての情報に、ある種偏りがあったり、全体像がうまくとらえられていないという事実があり、これは中央以外のすべての地方がもつジレンマです。断片的な情報をつなぎ合わせて、劇場法ってこんな法律なのかなと認識している地方のホールが多いんですよね。私も自信ありません。
 私が伝え聞いているのは、まず、専門人材を配置すべきだということ。3つの専門職、芸術監督・プロデューサー・技術責任者が劇場には必要だといということ。2つめは、劇場を分類するということ。重点支援の大きな予算で多くの作品を「つくる劇場」、地域の中核劇場となる鑑賞・普及・創造など多様なプログラムを含んだ「見る劇場」と、その他「交流施設」に分類するということ。うちはたぶん、地域の中核劇場なのかと勝手に解釈してるんですけどね。それで、本当は劇場法ができた時に、重点支援にはドカーンと、中核にもバーンとお金が入る助成の制度が設けられるというイメージでとらえていたんですね。ところが今、「優れた劇場・音楽堂」助成ができたりして助成の仕組みが先行し、ちょっと順番が逆になって話をややこしくしているように思います。文化庁の助成のあり方と並行して劇場法の問題が語られているので、劇団向け助成が減るとかいわれて、助成の話と劇場法の話が混在化してしまっているのが残念だなと感じます。

-こちらのトリプル3は3つの劇団が三か所を持ち回りなんですけど、フランスなどの、いい作品をつくって各地に回していくようなシステムについてはいかがですか。

松浦 それは、うちの事業予算の規模では難しいですね。ほんとに、フランスでやっているような作品をつくって回す中心的な劇場は、全国で10館程度でいいのかもしれない。地域ブロックにひとつ。そこに研修の仕組みもあって、我々のような地方の劇場の人間は、そこに行って勉強すると。ただ、システムの確立まで到達するのが、10年、20年なのか、100年かかるのか。

-芸術監督制度でさえ、なかなか進まないようだと、10年くらいではとても難しいでしょうね。

松浦 芸術監督とプロデューサーに関して、私はどちらかというとプロデューサー側の人間だと思うんですよ。仕組みをつくって、企てて、結びつけて、お金を調達して、ということをやっていますから。うちは、館長が音楽における芸術監督的な役割をしている。オペラ・バレエだと、2000万円くらいの買い物ですけど、館長の裁量で即決して買うと決める、まさに芸術監督ですよね。このバランスで、音楽系の芸術監督とプロデューサーは館長がやり、演劇系のプロデューサーは私がやるというのが三重の構図です。演劇に関しても、大きな意味での合意は館長にももらう。それで、たまたまうまくいってるんですよね。技術責任者は絶対必要なんでしょうけど、芸術監督とプロデューサーは両方いるのがベストなのか、プロデューサーがいれば何とかなる場合とか、両方兼ねた人が一人いればいい場合とか、いろんなケースがあるんじゃないでしょうか。ところが、法律で先に規定だけ進んだ場合、嫌でも枠にあてはめて、プロデューサーと芸術監督を置かなくてはならないということになってしまう。場合によっては不幸な出会いもあるのでは…とか、わからないとこも多々ある。具体的なことが今はまだ見えないというところですね。
 確かに、芸術監督・プロデューサー・技術責任者というのは、絶対にいた方がいいでしょうね。全国の多くの公立劇場では、60歳手前くらいの自治体出向の職員さんが文化会館長というケースが多いんですよね。で、その人たちは1年か2年でコロコロ替わってしまう。逆に芸術監督を置いている公共劇場はそう多くはない。世田谷パブリックシアターの野村萬斎さんをはじめ、神奈川芸術劇場、東京芸術劇場、座・高円寺、キラリ☆ふじみ、まつもと市民芸術館、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館、兵庫県立芸術文化センター、静岡県舞台芸術センターなどですよね。プロデューサーがいらっしゃる公共劇場も、いわき芸術文化交流館アリオス、熊本県立劇場、北九州芸術劇場とかですか。芸術監督・プロデューサーを名乗ってる方どちらかがいらっしゃる館は、合わせて数十館ですよね。公共劇場は、全部で二千何百館ってあるんでしょう。二千何百館のうちで、数十館だけはいると。それを広げていくという話は、絶対あった方がいい。ただそのあり方に関しては、画一的でなくてもいいのかもしれないということですね。私たちからすると、劇場法がいるかいらないかで言うと、いるんだろうなとは思うし、賛成か反対かで言えば、賛成ですね。

-やっぱり、法律で形式が決められちゃうと、そこでもう自由度がなくなっちゃう場合もありますね。

松浦 その恐さはありますよね。

||| 民間劇場とも積極的に連携を

松浦 三重県文化会館の演劇事業の特徴に、津あけぼの座をはじめとする民間劇場との連携があります。多くの公共劇場は、あまり民間と手をつないだりしないんですよ。津あけぼの座というのは、三重大学を出てOB劇団を10年やり、ついに自分たちの稽古場を劇場化しちゃって、そこで貸小屋もやるし、自分たち主催の公演もやるっていう劇場です。主宰は油田晃さん。客層は、あちらについている演劇の客と、こっちについている演劇の客とがいて、一部は共有しあっている。その全部を両方で共有しようという考えがあり、演劇ファンを一緒に増やそうと活動をしています。ということで、うちはワークショップをする時、ここでやってもいいのをわざと津あけぼの座でやる。そうすると、うちには来ていない津あけぼの座の客が来てくれたりするんですね。いろんなカンパニーから、三重でやりたいという相談があった場合にも、情報をお互いに流し合って、これはどっちで受けた方がいいかなあとか、それぞれの戦略を話しながら油田さんと相談するんです。

-官と民でというのすごいですよね。その津あけぼの座というのは、どういう劇場なんですか。

松浦 50名くらいしか入らない、もと倉庫みたいな感じのところですね。油田さんは、ハイポジションという劇団を主宰していて、そこの稽古場を劇場にしたわけなんです。落語公演や朗読リーディングの「読み会」っていうのもやったりしています。

-地域に密着した小劇場ですね。

松浦 ええ。「読み会」っていうのも面白いんですよ。太宰治とか筒井康隆とかいろんなものを読んで、どんどんやり続けている。そうやって民間の小屋主さんと、県立の側のプロデューサーが、ひとつの演劇事業に関してビジョンを共有し、日々、事業企画を相談し合うというのも、なかなかないと思います。世田谷パブリックシアター主催のワークショップをアゴラ劇場でやったり、両劇場が、公演企画の製作や発表を相互でやったりみたいな事業リンケージですね。東京では当たり前にやっていますか。

-むしろ、あり得ないでしょうね。でも、それが普通はあり得ないというのは、なぜなんでしょうか。

松浦 公共の側が民間に近づかないからでしょうね。民間劇場側は公共と話したがってるんですけどね。例えば、七ツ寺共同スタジオという名古屋の小劇場がありますね、東海地域の超老舗劇場で、アゴラより古い劇場ですが、うちはそことも密接につながっています。たとえば、七ツ寺が取り組んでいるCTT(Contemporary Theater Training)という演劇試演会を、三重を会場にしてやったり、『隣にいても一人 三重篇』を、七ツ寺に打ちに行ったり、いろんな連携をしています。三重県民の税金で隣の県の民間劇場に公演を打ちに行くわけです。

-税金で…。

松浦 それを良しとしない硬直的な方と、そりゃあすごいねって言ってくれる方に分かれるところですね。

-三重を売り出すっていうことですね。

松浦 そうです。

-CTTについて、もう少し教えていただけますか。

松浦 京都のアトリエ劇研発の試演会の仕組みで、岡山・広島・大阪・京都・名古屋のネットワークがあります。公演よりも敷居を下げた、試作品や作品の一部の発表の場を劇場が用意して、合評会などで観客の意見を作品に取り入れていくワーク・イン・プログレスの活動で、参加してるのはみんな民間劇場や民間の制作者なんですよ。公共の人はやっぱり公共同士で話をし、連携もしていますね。プライドの面もあるのでしょうかね。

-京都は、アトリエ劇研と京都芸術センターが近くてつながってるから、まだ可能性があるけれど、ほかはないでしょうね。

松浦 でも、地方はただでさえ演劇人口が少ないので、それを競ってはいられない。お互いシェアしないとと思いますね。

-それには、松浦さんのような「変人」がいないとダメなのかもしれませんね(笑)。

松浦 私がよく言うのは、自分自身がそうだったからよくわかるんですけど、演劇が選択肢に挙がってないっていうのが最悪の状態だということです。都会で「芝居は見たことあるけど、自分に合わない」という人は、それはそれでいいと思うんです。映画・コンサート・スポーツ・カラオケなど、楽しみの選択肢に演劇が入っていて、その上で行くか行かないかを選ぶのならいい。三重の場合は、演劇が選択肢に挙がってない可能性が極めて高い。でも逆に言えば可能性は無限にあって、私のようにドハマリする人もいるわけです(笑)。演劇っていう世界があるよっていうことを知らせたいんです。トリプル3初年度の「劇団太陽族」の集客が450人、「第七劇場」300人で2ステージ完売とか、これはひとつの成功なんですけど、ここから先ですよね。次に、三重県文化会館は「ハイバイ」呼ぶんだな、見てやろう、『トリプル3』の次は「劇団ジャブジャブサーキット」の『やみぐも』をやるんだ、見てやろうという人がどれだけいるか、新たにどれだけ増えるのか。それがない限りは、成功なんてとてもいってられないですね。

-Mゲキ!!!!!セレクションは、12月の「第七劇場」の次は2月の「柿喰う客」と「ハイバイ」、その次は5月の「ままごと」。この間隔に、やっぱり難しさがあるんでしょうか。都会にいると、ああ面白かった、次に行ってみようといった時に、どこでもやってたりするんですけれど、地方の場合は、なかなかそうはいかない。ワーッと盛り上がった熱が、間が空くと冷えてしまって、またそれを一生懸命盛り上げてということを、劇場側がやっていかないといけないんでしょうかね。

松浦 最低月1本の演劇公演を、うちか津あけぼの座でやってるという状態を作るのが、まず一つめの目標です。これも、積み重ねですね。

-フェスティバルなどはどうですか。

松浦 そういう話もチラッと持ち上がってるんですよ。

-実現するとすばらしいですね。それでは、今日はいろいろとお話をうかがわせていただいてありがとうございました。

(2010年12月12日、三重県文化会館にて。聞き手=大泉尚子、田中綾乃、カトリヒデトシ。協力=三輪久美子)
(初出:マガジン・ワンダーランド第224号、2011年1月19日発行。無料購読手続きは登録ページから)

【三重県文化会館】
三重県文化会館1994年(平成6年)10月開設。鉄骨鉄筋コンクリート造り、地下1階・地上2階建。大ホール(1903席)、中ホール(968席)、小ホール(最大322席)、2つのリハーサル室、レセプションルーム(200人収容)、2つのギャラリーなどのほか、2つの広場(約400平方メートル・約1100平方メートル)を備える。文化会館は、三重県総合文化センターの一施設で、同じ敷地内に、男女共同参画センター「フレンテみえ」、生涯学習センター、図書館もある。

 

松浦茂之さん【略歴】
松浦茂之(まつうら・しげゆき)  財団法人三重県文化振興事業団 文化会館事業推進グループリーダー。金融機関等の民間勤務を経て、2000年より財団法人三重県文化振興事業団職員として勤務。総務部企画広報総務グループリーダーを経て、2007年4月より現職。総務部では、施設管理、人事労務業務を担当しながら、平成12年度から始まった組織改革、業務改革に携わり、ISO9001品質マネジメントシステムの導入、中期経営計画策定、指定管理者応募作業等を担当。事業部に異動してからは事業統括と演劇事業を中心に担当し、複数のプロ劇団と公共ホールによる新しい演劇制作ネットワークづくり(トリプル3演劇ワリカンネットワーク)、小ホール24時間連続使用による劇団レジデンス事業、若手劇団を紹介するシリーズ(Mゲキ!!!!!セレクション)等をプロデュースし、現在に至る。

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