連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」 第8回

||| さらなる目標や敵を模索

-最後に、3年先、10年先くらいのスパン、つまり近未来と、もうちょっと先の話として、中島さんの野望があればお聞かせください。

中島 芸術的に、作品づくり的にはあるんですけど。場としてはほんとにね、毎年毎年、どうやって金をつくるかしかないんですよね。現状のシステムだと、先ほど申し上げたように、得られるお金も、限界にきてるなというところもあるので、ともかく、どうやって生き残っていくかっていう以外にない。3年先までどうやって生き残っていけるか。
 ただし、死ぬまでやるというのはもう決めているんです(笑)。地域の人にも、死ぬまでやりますからと言ってるので、それはやるんですけどね。観客である地域の人たちと、目標とか敵を共有して、どうやって運動にできるか。今までは、我々の変わった試みに対する支援っていうこと自体が、一つの運動だったんだと思うんですね。今も随分、というかものすごく応援してもらっているんですけど、そこを広げていくためには、やっぱり、もう一段デカい目標をうまく共有して、あれを倒すために俺たちはここに来るんだっていうふうな目標設定かなあ、と思ってるんですよね。そこが、どうやったらうまくできるんだろうと。

【写真は、鳥の劇場(鳥取市)。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

-その敵なり目標なりは、今、見えてますか。

中島 えーっとね、私たちの社会が直面している問題はたくさんあるわけでしょ。それを、芸術活動とどのようにリンクさせて、ここに来て芝居を見て、考えることが、その敵を打ち倒すことになるんだというところでの言語化やもう一段の仕掛け作りは、まだできていないんですよね。そこがうまくできなきゃいけない。どうやって公論形成の場にするかっていうことが、おそらく、一つの抽象的な目標なんですけどね。それを、もうちょっと具体的にどういう形にするか。パブリックな場っていうのは、まさにそういうことなわけだから。そのことを、いつも考えてるんですよね。

-公論形成と、実践的な活動と、その両輪でってことですね。

中島 ここで行われる、芝居を見たりほかのことを通じて、みんながいろんなことを考え、意見が交換されてっていうようなコミュニケーションが起点になって、地域の何かが動いていく。そういう一つの流れをつくることを、どうしたらできるんだろうてなことを、考えるんですけどね。

-今日は、いろいろと貴重なお話を有難うございました。

(2011年3月5日、鳥の劇場にて。聞き手=大泉尚子、藤原ちから)
(初出:マガジン・ワンダーランド第236号、2011年4月13日発行。無料購読は登録ページから)

鳥の劇場
2006年(平成18年)1月開設。鳥取県鳥取市鹿野町の廃校になった小学校と幼稚園を劇場にした。地上1階建。劇場(196席)、スタジオ(90席)。

【略歴】
中島諒人さん 中島諒人(なかしま・まこと)
 1966年生まれ。90年、東京大学法学部卒業。大学在学中より演劇活動を開始、卒業後東京を拠点に劇団を主宰。2004年から1年半、静岡県舞台芸術センターに所属。2006年より鳥取で廃校を劇場に変え、「鳥の劇場」をスタート。二千年以上の歴史を持つ文化装置=演劇の本来の力を社会に示し、演劇の深い価値が広く認識されることを目指す。芸術的価値の追究と普及活動を両輪に、地域振興や教育分野にも関わる。代表作「老貴婦人の訪問」(デュレンマット)、「剣を鍛える話」(魯迅)、「母アンナの子連れ従軍記」(ブレヒト)など。2003年利賀演出家コンクール最優秀演出家賞受賞。2006年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」 第8回」への6件のフィードバック

  1. ピンバック: 矢野靖人
  2. ピンバック: 矢野靖人
  3. ピンバック: 小暮宣雄 KOGURE Nobuo
  4. ピンバック: 藤原ちから/プルサーマル・フジコ

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