連載「芸術創造環境のいま-小劇場の現場から」第9回

||| スタッフ、予算、事業

-劇場のスタッフの体制は。
松島 全体で8人、うち4人が非常勤です。舞台技術は委託しています。

-それでよく回りますね。
松島 厳しいですね。しかも夜10時まで開館していますから、ローテーション勤務を余儀なくされますし、早番、遅番、夜などの配置をしなくてはならなくて、物理的にきついですね。

-松島さんの肩書は「支配人」ですね? 館長は別にいらっしゃるんですか。
松島 館長は置かないんです。予定では私が館長だったんですが、いやだったんですよ、館長っていうのは(笑)。私のイメージでは、館長といえば劇場や美術館、音楽堂などの館長の存在が非常に大きい。仮にも、小田島さんや福原さんたちと同じと取られたらあまりにもおこがましい。それで館長という役職は置かないと決めました。
-珍しいですね(笑)。
松島 館長なしで、支配人。要するに館長と同じです。それに副支配人がいるという体制にしています。

-英語表記だとどうなりますか。
松島 英語だとDIRECTOR、結局、館長と同じですね。

-ここは指定管理者団体としてみなさんが入っているということですか。
松島 豊島区設立の公益財団法人としま未来文化財団が指定管理者です。財団が豊島区から指定管理者として指定される。その未来文化財団の中のひとつのセクションとして「豊島区立舞台芸術交流センター」があります。「あうるすぽっと」は愛称で、公募し決定しました。

-自主事業は。
小沼知子さん小沼 大きく分けると二つ、自主・提携を含む公演事業とワークショップ等の育成プログラムがあります。形態はいろいろですが公演事業は毎年2から4本、育成プログラムが20くらいです。これはかなり多いですね、この中には公演スタイルに近いものもあります。

-それは、公立の劇場としてよくあるスタイルなんですか。それともワークショップがこれだけ多いというのは特異なことなんでしょうか。
松島 普通、ワークショップは広く文化を普及するということを目指すものが多いと思いますが、あうるすぽっとでは教育的な要素も重視していますので、専門を深めるプログラムというものも多いです。例えば鴨下信一さんの「日本語の学校」、これは朗読のスキルや知識を深めたいという方しか来ません。それと、文化芸術分野でのキャリアアップの一助となれば、と9ヶ月にわたる長期インターンシップを毎年募集し、4-6人ほど採用しているんですが、そのインターンの自主的なプランニングのもとで、新しいプログラム「舞台メイクのイロハ」というのを開催しました。舞台のメイクですから、それを実際に必要としている方を対象にしています。他にないプログラムなのでみんな喜んで来てくれました。他にも「舞台監督の仕事」というのもやりました。これも一般向けではありませんね、舞台監督を目指す人のワークショップです。

-世田谷のパブリックシアターでもよくそういう専門家向けの講座をやってますね。
松島 そうですね。世田谷の亜流にならないように企画をしたいと思ってます(笑)。うちの制作もそういった事情はよく分かっていますから、他の劇場などのプログラムとは、切り口や趣旨、対象を変えて重ならないようにしようとはしています。
小沼 育成・教育プログラムが多いというのは、そもそもあうるすぽっとの運営方針からきています。どこの劇場もお持ちだと思うんですが、あうるすぽっとが設立されたときに、運営方針として「文化芸術の創造・発信・育成」「地域の賑わいの創出」がありました。さらに、その中で「育成」「賑わい」の比重が大きかったので、それに即してプログラムが組まれています。ですから、ほかの公共劇場に比べて、かなり育成プログラムの本数が多いですし、実際に力も入れています。専門を深めるものから、地域のみなさんに気軽に来ていただけるものまで、かなり幅広いものを取り揃えているのが特色だと思います。
松島 公共ホールの使命は、何といっても地域との融合なんですね。そこに賑わいを作るというのがテーマとして出てくる。だからあうるすぽっとのコンセプトにも必ず「地域の賑わいの創出」というのが入ってきます。いかに地域と融合して、地域のみなさんと一緒にやっていくかということですね。例えばお祭りをやるとか(笑)、うちで言えば「にゅ~盆踊り」ですね。(コンドルズの)近藤良平さんと協力して作り上げてきた事業です。ただ1回だけ盆踊りをやるっていうんじゃなくて、豊島区各地の地域創造館でワークショップをやりながら、盆踊りを盛り上げてくれるリーダーを育てて、集大成として池袋西口公園で集まって盆踊りを開催する。踊りの輪が広がっていくわけです。こういうことをやると、地域の人たちも来てくれるわけですね。行政もそういうのを望んでいる。
小沼 池袋という町の特性をすごく意識しています。どこでも各地域の特性があると思うんですが、池袋はやっぱり多様性に富んでいて、いろんな方たちが住んでいて、いろいろな方たちが集まってくるまちです。そのまちで発信力があり、親しみやすいものをと考えたひとつの結果が、「にゅ~盆踊り」というプログラムにすごく象徴されていると思います。
松島 豊島区では他にも、よさこいとか、ソーランとか、阿波踊りとか開催しています。でもそういうのは他の地域でもやってるんです。例えば阿波踊りなら高円寺でも開催しています。でも、「にゅ~盆踊り」はあうるすぽっとから発信したオリジナルのお祭りです。他ではやっていません(笑)。

||| 芸術監督の必要性は

-あうるすぽっとのイメージがだいたい固まってきたんですけれども、いまの流れからいくと、公共劇場に芸術監督を置いたらどうかという話があちこちで言われます。それについてどうお考えですか。
松島 最近の芸術監督というのはこれまでのような演出家としてだけでなく、プロデューサー的な役割も求められてきていますよね。著名な演出家が芸術監督として絶対的に必要かとなると必ずしもそうではないんじゃないか。その意味からいうと私は、芸術監督については原則的には反対なんです。それに、差別化や特化していくのはいいと思いますが、人によっては、逆に個性が出過ぎちゃうんですよ。
 うちの場合で言うならば、小田島(雄志)さんが相談役です。豊島区の参与という立場になっていますけれども、どんな演目をやるとかいうことは相談します。小田島さんはああいう人柄だから、これをやらなくちゃ駄目だとかという意見は出さないです。けれども、こういうものがいいというような、そういう意見は出してくれる。芸術監督を決めると制作も縛られるんですね。私はもっと自由にやりたいと思いますので、生意気なようですが、将来的にも芸術監督を置くつもりはないです。

-そう聞くと、こちらの劇場はスタッフのプロデューサー、ディレクターがすごく多才なので、いろんな演目がうまく合わさっているなという感じがしますね。
松島 ありがとうございます。それは結局、制作の営業努力もあると思います。それともう一つは、うちの場合は利用選定委員会という審査期間を設けています。劇場の利用申し込みは、利用の14ヶ月前から受け付けているんですが、毎月審査会をやって、そこで利用団体を決定しています。
小沼  あうるすぽっとには芸術監督がいないので、私たちは応募されるカンパニーを、みなさん同じ土俵で受け付けて、同じように審査して、お返事するということをしています。先着順ではなく、審査会に諮って決定するというシステムを作ることで、ラインナップを整えています。
松島 あうるすぽっとでは、公立劇場なんだから公平に全部抽選で、ということはしません。例えば、まだ経験の浅い劇団と実績を積んだ劇団、評価の高い作品を生み出してきた劇団を、すべてくじ引きで、とはいかないでしょう。やはり劇場としての方針、ステータスというものも、考えていかなくてはいけない。そういう趣旨で審査会があります。

-大前提としてお尋ねするべきだったんですけれども、あうるすぽっとは演劇・舞台芸術に特化した施設ということですね。
松島 そうです。

-例えば町内のカラオケ大会をやるとかは…。
松島 区民のための優先期間もあるんですよ。カラオケだけじゃないですけれど、区内の舞踊や邦楽とか。やはり区民の施設ですから、区民のために優先する日があるわけです。ただ普段ですと、区民の方たちが利用を申し込んできてもなかなか取れないんですよ。ですから、年間に30日くらいを、区民シリーズといって、区民の方の利用のためにあえて空けているんです。区民の人たちはこの期間に申し込んで利用してもらうというシステムをとっています。その時にカラオケ大会のような催しが入ることはあり得ます。
小沼 さっきのご質問で、舞台芸術に特化したという話があったと思うんですけれども、あうるすぽっとが舞台芸術に特化した施設であることは、区の条例にもうたわれています。ただ、やはり新しくてきれいな劇場を区民の税金で建てたということが大前提にありますので、そこで、区民の方も利用できる劇場であるということと、舞台芸術に特化した劇場であることの二つを両立していくために、区民シリーズを設ける形で運営してきたという経緯があります。
 区民シリーズに関しては、区民の方が優先的に利用できる期間ということで、1年に2回、通常の利用受け付けとは完全に分けて別個に募集しています。というのも、劇団などで1週間以上ご利用いただく方は、通常は利用の14ヶ月前から受け付けていますが、一般の区民の方が利用申し込みするとなると、どうしても14ヶ月前には計画がたてられず、間に合わないんです。したがって、区民シリーズに関しては、通常の利用受け付けとは完全に分けて、利用時期のだいたい6ヶ月前から別個に募集しています。(続く>>


「連載「芸術創造環境のいま-小劇場の現場から」第9回」への10件のフィードバック

  1. ピンバック: 文化の家
  2. ピンバック: aera
  3. 次のなば缶の会場にして欲しいです!前回は200人規模の会場でチケットがすぐ売れたのでご一考をお願い致します

佐藤敏之 にコメントする コメントをキャンセル

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