平田オリザ+石黒浩研究室「アンドロイド演劇《さようなら》」
白井剛/京都芸術センター「静物画‐still life」

◎人と人ならざるもの-KYOTO EXPERIMENT 2011報告(第2回)
  水牛健太郎

 KYOTO EXPERIMENT二回目の週末の出しものは、平田オリザ+石黒浩研究室の「アンドロイド演劇《さようなら》」と白井剛/京都芸術センター「演劇計画2009」のダンス作品「静物画‐still life」であった。

 アンドロイド演劇は通常の演劇の枠を超えて話題となっているヒット企画である。幟(のぼり)こそ立っていないが、「あのアンドロイド演劇、京都に来(きた)る!!」という感じだ。会場は約百五十席あったが、通路にも一段ごとに人が座る盛況だった。京都の演劇公演としては相当な入りである。客層も、家族連れや高齢者など、ふだんの小劇場演劇の客とは明らかに違う人が多く含まれていた。

 ワンダーランドの読者であればとっくにご覧になった方が多いと思うが、アメリカ人の女優とアンドロイドとの二人(正確には一人と一体)の静かな会話劇で、病気で死にかけている女性にアンドロイドが詩を詠んで聞かせるという内容だ。しかし筋うんぬんよりも、アンドロイドの、ぱくぱく開閉する若干不自然な口元や、かくっとした感じの背中や首筋の動きを、「人間じゃないぞ、人間じゃないぞ」と思いながら十五分間凝視していたと言った方が近い。そういう人は多かったのではないか。

 石黒浩研究室との共同企画でもあり、立って動けないロボットの演技上の制約も大きかった。それにしても、暗転から始まるし、開演前にBGM(アニメソングのような女声の歌)は小さくかかっているし、もちろん登場人物が観客に背中を見せたりも、セリフがかぶったりもしないなど、ふだんの平田演劇とは相当感触の異なるものであった。十五分という短さもそう。誤解を恐れずに言えば、これはやはり演劇というより、人間そっくりのアンドロイドを見せる「見世物」だった。

アンドロイド演劇《さようなら》公演の写真
【写真は、アンドロイド演劇《さようなら》公演から。photo: Tatsuo Nambu
提供=京都国際舞台芸術祭 禁無断転載】

 最近読んだ「美術という見世物」(木下直之著、講談社現代文庫)によれば、幕末期から明治にかけて、見世物小屋や博覧会で一大人気を博した「生(いき)人形」という人形細工があった。職人が医学の最先端の知見を学んで精巧に作り込んだもので、服を着た姿で展示されるにもかかわらず、性器を含め、見えない部分まで完全に再現するという凝りよう。髪や眉には人毛を移植し、表情や筋肉の隅々まで、まるで生きているようであったという。

 言うまでもないが、「しかし実際は人形だ」というところがポイントなわけで、今回のアンドロイドは、向けられる視線の性格において、まさしくこの生人形の百年後の後継者である。ちょっと動いたり、しゃべったりもするので「からくり生人形」と言ったところか。

 それにふさわしく、《さようなら》という劇も、突き詰めた内容のものではなかった。平田オリザは今更言うまでもなく、コミュニケーションのきしみに大きな関心を寄せてきた作家なのだが、この劇のアンドロイドと人間のコミュニケーションには特に問題は存在しない。このアンドロイドは、「鉄腕アトム」や「ドラえもん」のように、人間とスムーズにコミュニケーションし、感情を共有できる友達なのである。

 平田オリザだったら、機械と人間の思考回路や情緒などの違いに基づいて、もっと面白いコミュニケーションの劇を書きそうに感じる。だから演劇として考えると物足りないことこの上ないのだが、人間そっくりのアンドロイドが動いたりしゃべったりするのを見せる「見世物」ならば、たぶんこれが正解なのだろう。観客が劇の内容に気を取られずに、思う存分アンドロイドの観察に集中できるからだ。平田流のプロ意識の発露である。

 「静物画‐still life」(以下「静物画」)は京都芸術センターの講堂で上演された。かつての小学校の講堂なのだが、ため息が出るような素晴らしい空間である。「小学校の講堂」のイメージを外れるようなこれみよがしな所は一つもなく、一見素朴にすら思えるが、よく見れば見るほど細部まで丁寧に作りこまれ、趣味的にも洗練されている。昭和の初めにこんな講堂を作ってしまった京都人の文化的な蓄積は驚くばかりである。

 「静物画」はそんな空間の力を生かし、また十分拮抗する緊張感のあるものともなっていた。果物、瓶、コップ、スプーン、机、ランプ、ビー玉など様々な静物を用いながらのダンス。それと同時に、五人のダンサーの動きには、自らの身体そのものを「人ならざるもの」として見せていくような表現が多く見られた。

「静物画 – still life」公演の写真
【写真は、「静物画 – still life」公演から。photo:Yuya Saito 提供=京都国際舞台芸術祭 禁無断転載】

 介護施設に母親を訪ねるとよく感じるが、人間は二本足で立って歩かないだけで、ずいぶんと人間らしくなくなるものだ。それだけ「もの」の世界に近づいていく。「静物画」で見られるのは、身体障害者のようなぎくしゃくした動きや、人間がワイン瓶やコップを運ぶための道具になってしまったり、右手で持ったフォークで左手を机の上に乗せるなど、ものとの境目をあいまいにする表現。また、二人のダンサーが、まるで水中に浮かぶ木材のようにぶつかり合ったり、片方がもう一方をまりのようについて見せる。いわば人間の身体を道具として使う。こうした動きはどことなく性的な感じがするが、性的な動きはお互いに相手の身体を道具として使うものだからであろう。

 あるいは、五人が輪になって、一人ひとりが隣の人の持ったコップの中に、スプーンですくったビー玉を入れる。ルールで束縛しあった人間の集団は、途端に機械のように見えてくる。別に軍隊のように行進などしなくてもそうなのだ。優雅なのに非人間的。これは本当に面白かった。

 上演時間は百分もある。ダンス作品としては異例の長さなのに、飽きが来なかった。タイトル通り静かな作品で、盛り上がる場面があるわけではないが、適度な緊張感がずっと続いていく。目の前で小さな事件が起き続けている。五人のダンサーは瞬間的に五つの静物となって、また人間になり、それを繰り返す。

 最後の場面で、五人は立って、静かに左そでに向かって歩いていく。彼らはものの世界から人間界に戻ってきたのだろうか。しかし、彼らが背中を向け、顔が見えないせいもあって、ものに二本の足が生えて去っていくようにも見えたのだった。

【筆者略歴】
 水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランド編集長。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。東京大学法学部卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。2011年4月より京都在住。元演劇ユニットG.com文芸部員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ma/mizuushi-kentaro/

【上演記録】
▽平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学&ATR石黒浩特別研究室)『アンドロイド演劇《さようなら》
 京都芸術センター フリースペース(2011年10月1日-2日)

 ポスト・パフォーマンストーク
 10月1日(土)…石黒浩 2日(日)…平田オリザ
 上演時間20分+トーク

 チケット1,000円 (一般/ユース[25歳以下]・学生/高校生以下)
※一般/ユース・学生券は、当日500円増。

脚本・演出:平田オリザ
演出助手:谷賢一
出演:ブライアリー・ロング(青年団)
アンドロイドの動き・声:井上三奈子(青年団)
舞台監督:尾崎聡
テクニカルアドバイザー:石黒浩(大阪大学&ATR石黒浩特別研究室)
美術:杉山至
照明:岩城保/衣装:正金彩
制作:野村政之
ロボット側ディレクター:力石武信(大阪大学石黒浩研究室)、小川浩平(ATR石黒浩特別研究室)
製作:大阪大学石黒浩研究室、ATR石黒浩特別研究室、(有)アゴラ企画、青年団
音響協力:富士通テン(株)
主催:KYOTO EXPERIMENT

▽白井剛/京都芸術センター「演劇計画2009」『静物画‐still life』(再制作)
 京都芸術センター・講堂(2011年9月30日、10月1日-2日)
ポスト・パフォーマンストーク ★9月30日(金)終演後
トークゲスト:山下残(振付家・演出家)、桑折現(演出家/dots主宰)
上演時間100分

チケット 3,000円(一般) 2,500円(ユース[25歳以下]・学生) 1,000円(高校生以下)
※一般/ユース・学生券は、当日500円増。

演出・構成・振付:白井剛
出演:青木尚哉、鈴木美奈子、高木貴久恵、竹内英明、白井剛
舞台監督:夏目雅也
美術:杉山至+鴉屋
音響:宮田充規
照明:吉本有輝子
衣装:清川敦子
制作:川崎陽子(京都芸術センター) 、和田ながら
企画:橋本裕介、丸井重樹
製作:京都芸術センター「演劇計画2009」
主催:KYOTO EXPERIMENT

関連企画
KYOTO EXPERIMENT プレイベント
上映会+アーティストトーク
日時:9月19日(月) 17:00-
会場:京都芸術センター ミーティングルーム2


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