京都ロマンポップ「ミミズ50匹」(クロスレビュー挑戦編第23回)

京都ロマンポップは、2005年京都を拠点として旗揚げしました。よりふじゆき脚本の本公演と、向坂達矢脚本の「さかあがりハリケーン」シリーズの二本立て。後者はただ笑えるだけではなく、どこか屈折した退廃的な空気が漂い「歌やダンス、身体表現を最大限に取り入れて」(劇団HP)いるそうです。今回はそのvol.5。どんな舞台か楽しみです。掲載は到着順。レビュー末尾は観劇日時です。(編集部)

高田斉(演出/批評/演劇ミニコミ「とまる。」編集長)
 -(★ゼロ)
 僕の疑問はこうだ。学生演劇出身者はなぜ似たような演劇的戦略を取ってしまい、商業的小劇場のような制度に巻き込まれてしまうのか? 本作は明確な筋も(一見)なく、役がころころ入れ替わり、無意味に踊り、歌い、役者は無意味に白塗りである、つまり無勝手流だ。では、なぜ無勝手になるのか? 京都小劇場がアマチュア演劇を明確に一つの制度にしたからである。学生=若者は基本的にまだ社会に参入しきっていないものとして認識され、その制度を利用したのが学生劇団から小劇場へとなだれ込む学生ノリ小劇場演劇であり、そこでは何も分からないということ、そして演劇なんてやって自己愛バリバリでいまだに大人として自立出来ないことが武器とならざるを得ないし、だからこそ僕たちは騒いでもいいんだ、無勝手でもいいんだとある種の祝祭性を「演劇の意味」とせざるを得ない。彼らはそのような学生ノリ小劇場に回収されているように見え、(蛇足だが)その枠組みそれ自体を自覚的に上演に組み込んだ「悪い芝居」のほうが僕は批評性があって偉いと思ったりもする。無勝手流の小劇場には評価の基準そのものが存在しないという意味で★0。
(3月3日 13:00の回)

山崎博保(フリーター)
 ★★★
  遊びが過ぎて雜な作りだけど、「形式」の揶揄が強烈だ! 中でも、合法なファーストフード店の接客マニュアルと違法な海賊行為が形式レベルでは同質だというアイロニー。恭しい人殺しは昔話に見られる乾いた残酷さやアナトミックな滑稽に通じる。又、権威主義者の相手を見下すセリフ「跪け」を繰返す内に自ら照れてしまって笑いを誘うのは自分は形式から距離をとっている事を見せる計算? 意味無く吐血を繰返す男はスボ魂のパロディー?  何より全員顔を白塗りしてるのは自ら社会的意味を無化する笑い。民族性を消去した形だけのケチャみたいなのもあったりして、全編を通してパロられた「形式」が幽霊の様に漂っている。タイトルの『蚯蚓50匹』も形式主義を毒殺する芝居にふさわしい(千匹より50匹が良いと騙される形式の罠が毒)と思う。
(3月2日 19:00の回)

水牛健太郎(ワンダーランド)
 ★★★★
 桶狭間で織田信長に倒された今川義元の遺児が、蹴鞠のうまさをトルシエに見いだされてセリエAに送り込まれる。冗談のようなプロットに真摯な成長への夢を乗せた。チラシにはコントとあるが、どうして骨太な物語劇である。
 十メートルほどの赤いカーペット一枚を演技空間に、白塗りの多人数キャストが生み出すダイナミズム、プロ級のピアノ弾き語りとギター生演奏など、アイディアとお楽しみを盛り込んで、独自性ある劇的空間を作り出した。
 それだけに、ところどころ顔をのぞかせる物語ることへのためらいが気になる。それ自体は真っ当だが、無責任にも感じるのだ。盲目の少女との出会いと別れは唐突、それに続くメス豚コンテストはやや散漫な印象。思いもかけぬバッドエンドは、再考の余地あり。船長が目的地の直前で船客を置いて逃げるようなものではないか。
 いずれにせよ堪能した。今後も期待したい。
(3月3日17:00の回)

高嶋慈(京都大学文学研究科博士課程)
 ★★
 テンポの良さと終始ハイテンションな役者から発せられるパワーのおかげでダレずに見ていられるが、ストーリーの荒唐無稽さよりも、作品自体の焦点が拡散し、ダメ主人公が運命に翻弄されながらも戦う姿の「感動」なのか、「人情劇」、「お笑い」、「社会批判」なのか判然としないごった煮感に戸惑いを覚えた。リストラ、ロボット化されたコンビニ店員の動作、人身売買や臓器売買といった現代社会批判も散りばめられるが、ネタの消化にとどまる。また、誇りや無垢さの神聖化/男性への性的サービスの対象として商品(賞品)化、という両極端な女性観には正直辟易させられた。
 全体的に少年漫画的なノリと既視感にまみれたベタなドラマが劇の推進力になっており、作り手が享受してきた虚構世界のツギハギで構成されている貧しさとその不接合な断面とを見せつけられているようで、そこには笑いによる異化や救済も毒を内包した明確な批評性も見出すことは難しかった。
(3月3日 13:00の回)

【上演記録】
京都ロマンポップ「ミミズ50匹」(シリーズ さかあがりハリケーンvol.5)
京都・ART COMPLEX1928(2012年3月1日-3日)
脚本・演出 向坂達矢

キャスト
京都ロマンポップ:浅田麻衣、井村匡孝、沢大洋、高田会計、玉一祐樹美、七井悠、肥後橋輝彦、向坂達矢、山根一生

外部キャスト
高間響:主役
あがさ
裏井さゆり
岡宏晃
桑原遼(劇団 EVE)
嵯峨シモン
正學居士
菅原タイル(尻子玉ブラザーズ)
鈴木ゆかこ(劇団ZTON)
竹崎博人
中島涼太(みやちゆうきのハレ学)
中野友紀子
中村佳穂
弐號
西田晋
野口雄輔
平岡大軌
平田悠樹
藤井麻理
ふんどししめ太郎(劇団タノシイ)
ポン
柾木ゆう
眞野ともき(笑の内閣)
丸井つくね
深涙マヨ
山口真由子
山本恭平
由良真介(笑の内閣)
横井隆晃(劇団 EVE)
連邦の白い嶺井

スタッフ
脚本・演出 向坂達矢
舞台装置 七井悠
照明プラン テラサワテツ
照明操作 きのせかなえ(劇団立命芸術劇場)
音響効果 西牟田寛子
作曲 井村匡孝
小道具 高田会計
衣装 玉一祐樹美
写真・ビラ 竹崎博人(flat box)
記録写真 久保田泰大
web製作 三毛猫商会
イラスト 篠原明寿彩
制作 浅田麻衣
当日制作 ちっく
提携 ART COMPLEX1928

チケット 前売:1500円、当日:2000円、初割:1000円(要予約)

「京都ロマンポップ「ミミズ50匹」(クロスレビュー挑戦編第23回)」への6件のフィードバック

  1. ピンバック: ワンダーランド
  2. ピンバック: 水牛健太郎
  3. ピンバック: 笑の内閣総裁
  4. ピンバック: 京都ロマンポップ
  5. ピンバック: 向坂達矢
  6. ピンバック: 京都ロマンポップ

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