ポツドール「夢の城」
ASA-CHANG&巡礼「新・アオイロ劇場」

◎みやこに雨のふるごとく―KYOTO EXPERIMENT2012報告(最終回)
 水牛健太郎

 ポツドールの「夢の城」の、2006年の初上演は見ていない。マンションの一室を外から見る舞台。冒頭は窓枠もはまっており、ガラスを通して(実際はアクリル板だろうが)、まさに覗く形。時間は深夜二時、近くにあるらしい高速道路から車の走行音が絶え間なく響いており、中の音は聞こえない、という設定である。この窓枠は二幕目から外れるのだが、やはりセリフはない。つまりこの作品は最後まで一切セリフのない無言劇だが、導入で違和感のないよう工夫をしているわけだ。

 壁にはべたべたと色々なものが貼ってあり、(古い言葉だが)サイケな感じとでも言ったらいいのか。床には布団敷きっぱなしで、何となくだけど子宮の中を思わせる。このマンションで共同生活を送っている八人の若い男女は、一見して無軌道な感じで、大きなタトゥーは入っているし髪は全員染めており、暑いのか、男も女もやたらと服を脱いで半裸・全裸で部屋の中を歩き回る。何か気に入らないことがあれば相手を蹴り飛ばし、ど突き合い。やがて一つ部屋のあちこちで三組同時にコンドームなしのセックスを始める。

 といった具合で、言葉を剥ぎ取られた若い男女が暴力と性に、中の一人はテレビゲームに、えんえんとふける様を、水槽の中の熱帯魚さながらに観察するというのが作品の趣向。だけれどもこの人たちはなんなのか。

 こういう若い人たちが現実にいるのか、いないのかと言えば、ひょっとしたら広い東京に、いないわけでもあるまい、しかしそれはどうでもいい。実際にこの通りの人はいなくて、これは「現在の若者の象徴」みたいなものなのか、いや、しかしそれもどうでもいい。

 私は元新聞記者なので今でも事件記事に関心があり、最近では尼崎市の事件に興味を惹かれている。ご存知の方も多いと思うが、ある女性を頭目にし、洗脳と暴力で結びついた十人ほどのグループが、いくつかの家族を乗っ取り、暴力で支配し、七人とも八人とも言われる人々を殺害し、その財産を奪い取ったという特異な事件である。おそらく来年にも、この事件を扱ったノンフィクションが発売されるであろう。ぜひ読んでみたい。

 で、「夢の城」に話を戻すと、この作品はそういうノンフィクションのように、現実に立脚点があるのではなくて、(当たり前だが)作・演出家の想像力なり表現意図なりに立脚点があるわけだ。要するに見たいもの、見せたいものを作って舞台に乗せているわけである。別にこういう人たちがいるわけじゃない。仮に似た人たちがいたとしても、それは偶然である。そのことはいくら強調してもしすぎることはない。というのは、見てるとつい「今の若者は」という方向に頭がいく、そういう風にこの作品はたくらまれているからだ。

 だから、この作品を見て「今の若者」の「だらしない身体」や「言葉のない動物的ななんチャラかんチャラ」について論じるのはやめた方がいいと思う。それはミニ四駆をもとにF1カーについて論じるぐらい、見当違いのことだ。それよりはむしろ、インテリ演劇人はどうして暴力と性に満ちたイメージを表現したいと思うのか、また彼らの客であるインテリ観客はどうしてそういう舞台を見たがるのか、について考えた方がいい。私がこの作品で興味があるのはその点、ただその点だけだ。

 そういう意味で言うと、この作品はかなり面白い。最初の殺伐とした感じから、音楽を使ったり、みんなで鍋を囲む食事の場面を入れたりして、メロウな調子に落としこんでいく手つきや、きれいな女性の「あざとい」とも言える使い方など、見ること、見せることについて考えさせられる点が多々あった。構成の妙も感じた。無言劇でこれだけ間を持たせるのは容易なことではない。

 ASA-CHANG&巡礼「新・アオイロ劇場」は音楽ユニットとダンスパフォーマンスのコラボ。面白かったが、いささか私の手に余った。個人的なことを言えば、日曜なのに仕事帰りで疲れ切り、最近辛いこともあって、鑑賞に集中できず、上の空になった瞬間もあった。この作品には同時に、楽しみや感動さえもあったけれど、いずれにせよ私は音楽について論じる素養はないし、パフォーマンスのとんがり具合も、ちょっと歯がたたない。参りましたと気持ちよく白旗を上げたいと思う。

 これで六週に及んだKYOTO EXPERIMENT報告を終える。今回上演された作品はフリンジも含めすべて見たが、一部取り上げなかった作品もある。理由を述べることはしない。そこに評価の意図もない。

 報告は去年に続いて二回目だが、今年も面白かった。関係各位のご尽力に敬意を表します。本当にお疲れ様でした。

【筆者略歴】
 水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランド編集長。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。東京大学法学部卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。2011年4月より京都在住。元演劇ユニットG.com文芸部員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ma/mizuushi-kentaro/

【上演記録】
KYOTO EXPERIMENT2012
KYOTO EXPERIMENT 2012フリンジ“PLAYdom↗”

ポツドール「夢の城
会場:元・立誠小学校講堂(10月25日-28日)
上演時間:80分

【作・演出】 三浦大輔
【出演】 米村亮太朗、古澤裕介、鷲尾英彰、井上幸太郎、松浦祐也、遠藤留奈、新田めぐみ、宮嶋美子
【舞台監督】 筒井昭善、横尾友広
【舞台美術】 田中敏恵
【照明】 伊藤孝(ART CORE)
【音響】 中村嘉宏
【映像・宣伝美術】 冨田中理
【小道具】 河合路代
【制作】 木下京子
【製作】 ポツドール
【協力】 ゴキブリコンビナート、THE SHAMPOO HAT、スターダス・21、ぱれっと、バードレーベル、ダックスープ、オフィスPSC、スペーステン、マッシュ
【主催】 KYOTO EXPERIMENT

一般 前売 ¥3,500/当日 ¥4,000
ユース・学生 前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
シニア 前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
※ユースは25歳以下、シニアは65歳以上
※全席自由
※18歳未満、高校生入場不可

ASA-CHANG&巡礼「新・アオイロ劇場
会場:京都芸術センター 講堂
【音楽】 ASA-CHANG&巡礼(ASA-CHANG、後関好宏、須原杏)
【構成・演出】 ASA-CHANG、菅尾なぎさ
【振付・出演】 菅尾なぎさ、垣尾優、斉藤美音子
【振付】 康本雅子
【出演】 ANI、鈴木美奈子、捩子ぴじん
【照明】 髙田政義(RYU)
【舞台美術】 宇治野宗輝、奥田ひろみ
【衣装】 安食真
【映像】 吉田悠
【音響】 葛西敏彦
【舞台監督】 夏目雅也
【制作】 プリコグ
【協力】 枇杷系スタジオ
【製作】 ASA-CHANG&巡礼
【共同製作】 KYOTO EXPERIMENT
【主催】 KYOTO EXPERIMENT

10 月 25日(木) 20:00-
26日(金) 20:00- ◆
27日(土) 17:00- ◎
28日(日) 18:00-
※受付開始→開演の60分前
※開場→開演の10分前

上演時間:60分
ポスト・パフォーマンス・トーク
◆10月26日(金)の公演終了後
ASA-CHANGと出演者によるトーク
◎10月27日(土)の公演終了後
ゲスト:丹下紘希(映像作家/アートディレクター、メインビジュアル製作)

一般      前売 ¥3,500/当日 ¥4,000
ユース・学生  前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
シニア     前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
小・中・高校生 前売 ¥1,000/当日 ¥1,000
※ユースは25歳以下、シニアは65歳以上
※全席自由
※未就学児も入場可

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