舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングレポート

舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングレポート
◎制作者による、ヒエラルキーのないネットワーク組織の立ち上げに向けて
 藤原顕太

 2012年10月22日、京都にて、同時代の舞台芸術に携わる制作者の国際的ネットワーク組織「舞台芸術制作者オープンネットワーク」立ち上げに向けたミーティングが開催されました(注1・2)。
 集まった参加者は、89人。活動拠点や立場はそれぞれ異なるものの、舞台制作に何かしらかの形で関係する人々です。
 このミーティングの発起人は、それぞれ異なる立場で舞台芸術の制作に携わる12名で、以下のような立場あるいは集団にかかわってきたメンバーです(注2)。

・京都で文化政策への提言を検討する勉強会を開催していた東京と京都のプロデューサーと制作者の集まり
・緊急時における情報交換の場をつくろうと模索していたNext(有限会社ネビュラエクストラサポート)
・以前からアジアを中心としたインフォーマルなネットワーク形成を準備していたPARC(国際舞台芸術交流センター)
・神奈川、兵庫、鳥取のプロデューサー、プログラムディレクター

【ネットワークの概要】

 発起人の一人、橋本裕介さん(京都 KYOTO EXPERIMENTプログラムディレクター)から、このネットワークの概要についての説明が行われました。要旨は次のようなものです。

 「このキックオフ・ミーティングが、東京ではなく一地方である京都で始まったことの重要性についてお伝えしたいと思います。実際に顔を合わせる場所は、どこでも良いということがネットワークの形成にとって重要なのです。
 制作者が主体となったネットワーク組織ということの重要性についても述べたいと思います。この組織の目指すところは、舞台芸術が発展していくことだけに留まりません。これはあくまで通過点・手段であって、舞台芸術の振興を通じて、最終的には社会にとって有益な結果をもたらすことを目指すものです。
 もし私たち制作者が舞台芸術の可能性を信じているのであれば、制作の実務を通じて日々社会と接しているわれわれ自身で、同時代の舞台芸術の社会的役割の定義と認知普及を行わねばならないと考えます。さらには、社会の中で芸術がどうあるべきか、状況を自ら更新していく意志を持って、文化政策などへ具体的にアドボカシーを行う必要があると思います。それは対行政だけではなく、芸術に関わる民間の企業やNPOそして実演団体といった業界に対しても、提言・提案を行っていくことだと言えるでしょう。
 とはいえ、提言・提案といったアクションを実行するためにも、まず私たちは有効な知識や情報を手に入れなくてはなりません。それをこのオープン・ネットワークによって共有・交換しながら手に入れていきたいと思います。このネットワークは別のネットワークと特定の目的においてはつながることも出来ますし、このネットワーク内でサブネットワークを作ることも出来るようにして、より具体的な目的に特化した集まりというものを組織することを可能にしようと考えています」

 また、発起人の野村政之さん(こまばアゴラ劇場)は、
 「このネットワーク・ミーティングに参加しようという人が、ネットワークを自分がつないでいく、人材を自分で育てる、自分も誰かを誘い込んでいくといった、アクティブなマインドで関わっていくのなら、言い出しっぺの人たちからのプレゼンテーションで、必ずしもそのすべての価値を説明されなくてもいいのではないでしょうか。
 このネットワークを使ってふさわしい人たち同士を出会わせていくということを、会員の方たち自身がやることで、ネットワークが有機的に実践されるのではないかと思っています」と発言しています。

【オープン・ネットワークとは何か】

 このネットワークは「オープン・ネットワーク」という言葉で呼ばれています。「オープン」という単語は日常よく使われますが、持つ意味が広く、この組織の場合、何が「オープン」なのかという点が、議論に上りました。
 発起人の塚口麻里子さん(国際舞台芸術交流センター[PARC])は、その特徴を以下のように説明しています。

・入会、退会、再入会の資格に制限を設けず、成員間のヒエラルキーを生むようなメンバーシップ体系を持たない組織
・実現目標の達成をもってのみ存在意義を得るのではなく、異なる関心を持った成員の多様な活動を通して有機的に継続する組織
・ネットワークの内部で小規模のサブ・ネットワークを作ったり、ネットワーク間でネットワークを形成したりできる組織

 この場合の「オープン」とは、組織を構成する条件を満たす者(この会の場合、舞台制作者であること)であれば自由に入退会ができるという意味です。考え方の異なるメンバーがネットワーク内に入ることによって生み出される多様な価値観と活動を、積極的に取り入れようとする組織形態です。

【委員会とサブ・ネットワークについて】

 具体的なネットワークの動きとして、一つは委員会という活動が提示されました。会員が参加してリサーチ、議論を行なう場として、定期的に開催される活動です。

・劇場法
・アーツカウンシル
・助成金
・アーティストの活動環境
・制作者の活動環境/人材育成
・国際交流・共同製作環境
・アジアおよびインターナショナルなネットワーキング
・地域との連携の在り方
・表現の自由
などのトピックが挙げられました。

 また、委員会のほかにもう一つ、「サブ・ネットワーク」という形が提案されました。この二つのグループの在り方について、発起人の川口聡さん(Next)は、このように述べてています。
 「このネットワークの中で立ち上がる『委員会』というのは、複数あることを想定しています。たとえば、劇場法に関して研究をしたいので、僕が『委員会』の委員長に立候補をする、それに対して一緒に研究したいという人がいてグループ(委員会)が立ち上がる。
 それぞれがたとえば3年といった期間を通して、ある一つの提言を練り上げるようなことができる。
 一方、『サブ・ネットワーク』で、例えば僕がいろいろと研究する仲間が欲しいというとき、もし予算を申請しない形で進行するのであれば、承認などなくても、この場を利用して課題を共有する人を見つけて自由にやっていけばいい、と考えています。」

 専門性を突き詰める部分と、ゆるやかな部分が並行する在り方が、ここで提案されています。

舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングから
【写真は、舞台芸術制作者オープンネットワーク キックオフ・ミーティングから。撮影=筆者
提供=舞台芸術制作者ネットワーク・ミーティング(仮称)準備会 禁無断転載】

【アジアとの交流】

 後述の三ヵ年計画の中に「アジアでのミーティング開催」という言葉が出てきますが、このネットワークは日本国内のみを対象にしたものではなく、国際的なネットワークとしての役割が持てるようにと、発起人からの提案がなされています。
 丸岡ひろみさん(国際舞台芸術交流センター[PARC])はこの点について、
 「アジアの中でのはっきりしたネットワークの必要性を、アジアの舞台人たちは意識し始めています。今後継続していけば、例えば2014年にアジアの日本以外の場所でミーティングを開催といった可能性も考えられ、日本以外の人も会員となり委員会を作っていくようにならないか、といったイメージをも持っています。」と話しました。
 これに対し、韓国からのゲストスピーカー、コ・ジュヨンさんは、
「今の世代は、国際交流は当然のように行われているので、何らかの形での交流は始まると思うのですけれども、国際交流と言ったら国の代表になりがちじゃないですか。そういうネットワークではなくて、一緒の仕事をしている仲間、ほかの所に住んでいる仲間という感じで交流ができればというふうに思っています」
と語っています。

【今後の活動】
 今後三ヵ年の計画として、以下の内容が提示されました。

2012年度
組織の骨子を固めるための検討、運営主旨の策定、規約・活動内容案の策定、組織発足の周知。最終的な規約、活動内容の策定は2月の総会で発表。
2013年度
法人設立を目指したテスト・ラン・イヤー。各委員会開催など。
2014年度
法人設立、アジアでのミーティングの開催など。

 このキックオフ・ミーティングの後、発足に向け、2013年2月14日、設立総会を行うことが決定しました。

(注1)キックオフ・ミーティング開催の時点での名称は「舞台芸術制作者ネットワーク・ミーティング(仮称)」でしたが、発足に伴い、正式名称を「舞台芸術制作者オープンネットワーク」に変更しました。

(注2)本レポートは、キックオフ・ミーティング議事録より抜粋し、紹介をしております。
議事録の全文はこちらに。>>

(注3)
■発起人氏名(五十音順)
伊藤達哉(ゴーチ・ブラザーズ 代表取締役/プロデューサー)
大平勝弘(STスポット館長)
小倉由佳子(アイホール[伊丹市立演劇ホール]ディレクター)
川口聡(Next[有限会社ネビュラエクストラサポート])
齋藤啓(鳥の劇場)
塚口麻里子(国際舞台芸術交流センター[PARC])
中村茜(株式会社プリコグ代表取締役/NPO法人ドリフターズ・インターナショナル理事)
野村政之(こまばアゴラ劇場制作)
橋本裕介(KYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター)
藤原顕太(Next[有限会社ネビュラエクストラサポート])
丸岡ひろみ(国際舞台芸術交流センター[PARC])
横堀ふみ(Dance Box プログラムディレクター)

また、キックオフ・ミーティング終了後、以下の発起人が加わり、13名となりました。
鈴木拓(Art Revival Connection TOHOKU[ARC>T]事務局長)

(注4)2月13日・14日の「舞台芸術制作者オープンネットワーク」設立総会・設立イベント開催の案内、及び本ネットワークへの入会方法、活動内容等の詳細情報は以下のウェブサイトに。>>

【筆者略歴】
藤原顕太(ふじわら・けんた)
 1980年、神奈川県生まれ。有限会社ネビュラエクストラサポート(Next)勤務。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください