忘れられない一冊、伝えたい一冊 第23回

◎『うみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81』(佐々木マキ 太田出版)
  鳥山フキ

 イラストレーター・絵本作家としても知られるマンガ家・佐々木マキさんのマンガ集です。
 実験的なマンガで、読むのは少しむずかしいです。
 本を開いた時、あまりにもわからなそうなので絶望的な気持ちになりましたが、比較的簡単そうな話から読んでいったら、読めました。

 ストーリーのわかりやすい「六月の隕石」や「バッド・ムーン」あたりから読み始めて、「うみべのまち」「セブンティーン」「分類学入門」と読み進めて行ったと思います。
 特に好きなのが「六月の隕石」(絵が静かな感じ・お話しに陶酔できる)、「ぼうや、かわいい ぼうや」(口を手でふさいでいる人などキャラクターが魅力的・少ない吹き出しの言葉が全部いい)、「分類学入門」の中の「赤頭巾チャン」(音楽的)です。

 あとがきに

私のマンガについて言えば、初めは普通の風刺マンガを描いていたが、そのうち、コマとコマが因果関係や時間の流れを表わすのではなく、詩の中でコトバとコトバが響き合うように、コマとコマが響き合う、そんなマンガが描けないものかと思うようになった。

とあります。
 自分も少し似た気持ちで劇を作っています。

 「うみべのまち」は発売直後に買いました。台本を書いている時です。
 台本を書いている期間中は、いつも見境なくガンガン本を買います。普段は店員さんにお願いして中身を見せてもらいますが、中身を確認せずにどんどん買います。とにかくいっぱい買ってしまいます。少しおかしくなっているんだと思います。そして、この「うみべのまち」のような本を求めてるんだと思います。

 自分は優等生的なところがあるので、悪く思われたくないという気持ちが強いのでしょうか?(欲望のままに書いたら、多分道徳の教科書のような台本ができると思います)書きたいものにたどりつく事をせず、びっくりするくらい表面的なところで書いてしまおうとする時があります。

 書くにあたって血眼になって何かを探したり、本を買い漁ったりするのは「何をやってもいい」「好きにやっていい」と言ってくれる人を探しているんだと思います。私には、本当に思ってる事を書いてもいいと言ってくれる人が必要なんです。人とは、本やマンガや映像や音楽の事です。実験的な本はそう思わせてくれる。自分をとばしてくれる…。

 これは自慢じゃないのですが、今自分は台本を書くのに毎回毎回心臓を潰すような思いなんですね…。出来上がるのはたいした話じゃなくて、雑談みたいな話なんですけど‥。書くのがホントに辛いんですよ。自分だけでなく、みんなそんな風に書いてるのだと思うのですが、でもこんな自慢みたいなこと書いてる人、どこにもいない…。みんなそうでもないんでしょうか?それとも我慢してるんでしょうか?

 オートマチックに書けないだろうか? といつも考えています。順序通りにやったらできた! という風にしたいんですよ。算数みたいにしたいんです。そのために、ある程度過去の記録をとったりしてるのですが、結局ある程度の記録じゃ間に合わないんですよ。もっとちゃんとした記録がないと、忘れて、いつもどうやって書いてるんだっけ? みたいな事になるんです!

 自分の台本ができるまでの流れ、工程をもっとしっかり把握し、できることならその詳細をまとめたいと思っています(というより、まとめた情報を読みたいと思っています)。それは「戯曲の書き方」のようなものではなく、どの時期に、何を考え、どういう傾向の本を読もうとし、人の話はどの程度聞いて、何を優先させて、どんな精神状態で、どのくらい寝ているか、という記録です。脳内と生活の詳細です。

 自分だけでなく、他の何かを書いてる人についても知りたいです(書き方は人によって全然違うので、参考にはならないのですが…)。自分の脳内について言えば、台本の内容について考えている時、何かを意識的に考えたり、考えないようにしたり、考えの傾向や色彩を少し細かめに設定していると思います。おそらく他の人もこれをやっているはず…、でもやっていないのか?やっているのかいないのか、やっている人はどのような段階でどのようにやっているのか、知りたいです。すごく知りたいんですよ。ここまでくると「オートマチックに台本を書きたい」という目的からはずれて、単なる好奇心になりますが…。

 でもその内容を他人から聞き出すには、もっとスキルが必要なんだと思います。自分についても把握できてない位なので…全然ダメです。

 佐々木マキさんのマンガや絵本を読んでいると、その都度頭の中に「広場」ができる気がします。自分にしか分からない自分だけの広場です。この広場が実際に役に立ったんですが、どう役立ったか説明できないな…と考えつつ、日頃思っていることを書いてみました。

 あとがきを続けて読むと、実験的なマンガを描く事で、軋轢もあったんだという事がわかります。また、生計を立てて行く事とご自身のやりたい事が、必ずしも一致しなかった事もうかがえます(佐々木マキさんほどの人が…と思うのですが、ずっと「上」にいるように思われる人でも、ご自身の才能や努力を、上手く状況と擦りあわせて作品を作っているんだと思わされます)。独自の道を歩いているマンガ家さんの、生の声が聞こえる貴重なあとがきです。

 最近、自分の作風は万人受けするものじゃないのかな? と感じていて、それでいい!という気持ちとそれじゃダメだ! という気持ちが半々にあります。色々と迷う事はあるのですが、台本を書く時は、その時に思った本当の気持ちを書きたいなと思っています。

【著者略歴】
鳥山フキ(とりやま・ふき)
 1977年東京生まれ。ワワフラミンゴ主宰。
 2004年より活動。不思議な世界観と思わせるのを得意とし、気楽に楽しく見られる娯楽作品を作っている。近年はギャラリーなど外の見える空間を主な舞台としている。
 2012年鳥山フキ個人企画立ち上げ。個人企画ではワワフラミンゴとは方向の異なる作品作りを志向している。

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