連載企画「外国人が見る小劇場」 第2回

◎多様性あふれる小劇場 競い合って個性を磨く
 ラモーナ・ツァラヌさん(ルーマニア)

専門は能楽研究

-いま大学院で勉強しているそうですね。

ツァラヌ 早稲田大学文学部の大学院です。最初の1年間は研究生でしたが、(2013年)2月に試験に通って正規生になりました。文部科学省の奨学金をいただいてこちらで3年間勉強できることになりました。

-研究テーマは世阿弥でしたか。

ツァラヌ 世阿弥の能作品と芸能論における「本説」の研究です。世阿弥が作った謡曲だけが魅力的でなく、彼が残した能芸論が演劇そのものについて深い考察を含んでいるので、世界中の劇作家、演出家が参考にしているんです。解釈はいろいろ人によって異なり、翻訳によっても結構異なるところが多いので、世阿弥が何を作ろうとしていたかをもっと深く知りたいと思っています。

-『風姿花伝』を主に取り上げるのですか。

ツァラヌ そうですね。『風姿花伝』や『三道』、『花鏡』、『申楽談儀』などになります。「本説」といいますと、世阿弥以前に成立した『平家物語』や『伊勢物語』などが能の題材となります。舞台芸術である能の題材になると、文学(物語)が少し変更されます。その変更、変化に興味があります。世阿弥はその変化を芸能論でも語っていますし、謡曲にも反映されているので非常に興味深いと思います。

-そうですか。講義を受けたいくらいですが、今日はひとまずおいて(笑)現代演劇の話をしましょう。

個性的な劇団が生き残る

-能や歌舞伎などの伝統芸能の舞台を見ていると思いますが、小劇場にも随分通っているようですね。どんな舞台をご覧になっていますか。

ツァラヌ 日本の芝居は本当に多様です。ともかく何でも見るようにしています。

-やはり芝居は見ないと始まらない面があります。ある程度多く見ないと傾向も特徴もつかみにくいでしょうね。

044ツァラヌ 去年(2012年)は30本から35本、今年(2013年)は現在50本ぐらい。まだ50本(笑)。ただ数をこなすだけでなくて、舞台を見て考えることも大事なので、時間をきっちり取って観劇した演目の分からないところを調べたり考えたりするようにしています。そうしないと、うまく理解できませんから。

-なるほど。どんな芝居を見ようとしたのですか、見てきましたか。

ツァラヌ 最初のころは、前に所属していたドイツのトリアー大学で知ったチェルフィッチュや青年団、それに野田秀樹さんの作品とか…。そのほか早稲田大学の先生のお勧めの作品があったりします。あと大学の演劇博物館に置いてある公演のチラシを見て、興味があったら行きます。例えば2013年は寺山修司没後30年なのでいろんな記念行事がありました。とても興味深い劇作家、演出家なので催しがあればできるだけ参加しました。あと演劇祭があると、演目を調べてできるだけ見るようにしました。

-王子小劇場スカラシップ(注1)を受けていますね。王子小劇場に登場する劇団は比較的若くて評価の定まらない劇団、舞台がほとんどだと思いますが。

ツァラヌ そうですね。今年から始まった制度です。王子に登場するのは若い劇団も多いし、地方から来た劇団を見る機会もありました。それがありがたかったです。地方に行く機会があまりありませんから。

-どこを拠点にしている劇団でしょう。どんな特徴がありましたか。

ツァラヌ 北海道の劇団があり、大阪や名古屋の劇団もありました。小劇場の劇団は競争が激しくて、自分たちの個性を確立しなければならないというプレッシャーを感じているようです。自分にしか出来ない舞台、自分たちの方法論を作ろうとしているように見えます。そして個性を持っている劇団しか生き残らないと思います。物語などの内容だけでなく、演じ方に個性を求めていますね。おもしろいと思ったのは、2、3年前までチェルフィッチュがやっていた、ダラダラした身体と超日本語の演じ方があるんですけど、伝統芸能の能のような「型」の仕草をする、独特の身体性ですね。半年の間に王子小劇場で何回も似たような演じ方を見たことがあります。とても印象に残りました。なるほど、そういう方面から攻めるのか、と思いました(笑)。

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【略歴】
ラモーナ・ ツァラヌ(Ramona Taranu)
 1985年ルーマニア生まれ。ブカレスト大学で日本語日本文学・ドイツ語ドイツ文学を専攻。同大学大学院で東アジア学を研究。修士論文のテーマは三島由紀夫の「近代能楽集」。2010年からドイツのトリアー大学博士後期課程で能楽を研究。現在、早稲田大学大学院文学研究科の博士後期課程在学中。

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