連載企画「外国人が見る小劇場」第4回

-日本の舞踏にはどういう特徴があるのか、どういう可能性があるのか、どういう方向へ向かっているのでしょうか。

チェントンツェ はい、そうですね。わたしは、土方さんの肉体性に非常に興味を持っています。土方さんの60年代の活動を中心に研究していますが、なぜかというと、60年代の土方さんの舞踏は、メッセージとしてだけではなく、具体的にダンスの歴史に本当の革命を起こしたと思うからです。土方さんはダンスを通して、ダンス(という表現)を選んで、表現はちょっと強いかもしれませんが、政治的な革命を起こそうとしたと考えています。土方さんは全学連には参加していなかったし、政治的活動もしてなかったし、政治的発言はしなかったかもしれません。彼にはそういうものは必要なかった。彼は自分の芸術だけで革命を起こしたと思います。ラディカルな考え方(思想)だけではなくて、土方さんは、実際に芸術で(現実を)変革する力を持っていたんです。演劇ではなくダンスを選ぶことは勇気が必要だったとわたしは思います。演劇は言葉で世界を開くことができると思いますが、ダンスは、思想が通じるかどうかという点で、表現の世界ではいちばん難しい、非常に厳しい領域です。(世界の側が)それを解釈できるかどうかにもいろいろ壁があると思うし。でも土方さんはそれを選んだのです。
 それは世界的に考えても、他にない活動だと思います。その後、70年代の舞踏は様式化を受けて、ちょっと違うことになると思います。それも土方さんの歴史ですので、何とも言えません。ダンスを考えると、ダンスだけではなく文化論としても、60年代の舞踏はすばらしいと思います。

舞踏の変容

-70年代になってからは、土方さん自身も、集団としての暗黒舞踏も、60年代とはやや違うというお考えですか。

チェントンツェ そうです。「肉体の叛乱」までで土方さんは革命を起こしたかもしれない。その後はどうなったのかという疑問を持っています。土方巽の舞踏における60年代の革命と70年代の革命の違いについて、60年代は「肉体」の時代で、70年代は「身体」の時代に入ると思います。70年代は構成的・計画的な部分が強くなる。60年代は非常に実験的でしたね、確かに。ただ、そのころの映像があまりありません。ですから、わたしの妄想です(笑)。でも、どこかにそういう力があったと思います。

-60年代の後半は、若い人たちの間で「革命」文化が広まりました。舞踏を選んだ人にとってはそれは必然の道だったかもしれませんね。

チェントンツェ 確かに。

-現在の日本で、土方時代の「肉体の叛乱」と言えるような舞踏が、若い人たちの間に生き残っているのですか、あるいは根付いているのでしょうか。それとも時代が違っていているので、時代に合った肉体性・身体性のようなものがあらたに芽生えているのでしょうか。いま日本で活動しているグループや個人で、舞踏ではなくコンテンポラリーダンスでもいいのですが、これはおもしろい、刺激的で可能性があると感じている人はいますか。

チェントンツェ ひとつ問題があるんです。舞踏だけではありませんが、公演を見すぎると感覚がちょっと鈍くなってしまいます。それで、自分がどう感じたか、ときどき分からなくなってしまうのです。同じ公演なのに、きょうはおもしろかったのに次の日はあまりおもしろくないということもあるし…。
 一般的に挙げられるのは上杉満代さん、室伏鴻さん、小林嵯峨さん、武内靖彦さん、もちろん笠井叡さんと大野義人先生、首くくり栲象さん、川口隆夫さんたちですね。わたしはそんなに見ませんが、大駱駝艦や山海塾もよく知られていますね。若い人たちの間では、入江平さんとか、上杉さんのお弟子さんで踊っているラヴィさんとか。上杉満代さんのお弟子さんたちは、みんな女性なんですけど、ラヴィだけじゃなくてみんなおもしろい舞踏家になると思います。ほかには第42回舞踊批評家協会賞を受けた百合子さん、亞弥さん、それに相良ゆみさんとか、若者たちの舞踏もすごくおもしろいです。それぞれの性格が見えていて、それもおもしろいと思います。

-どこがおもしろいと思われたのですか。

【写真は、カティア・チェントンツェさん 撮影=ワンダーランド 禁無断転載】
【写真は、カティア・チェントンツェさん 撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

チェントンツェ 動き方と質感ですね。そう言ってしまうとちょっと単純すぎるかもしれませんが、身体の使い方が中心です。身体の使い方だけでなく、空間の作り方、どこまで空間を作れるかということにも、とても集中していて、それは非常に大事な点だと思います。この女性たちは媚びて踊るのではなくて、いつも自分に挑戦しています。毎回成功するわけではありませんが、本当に深く自分の体を捉えなおしている。ダンスでは、特に女性の場合には、美しい動きやエロティックな動きをすると満足されがちですが、そういう安易なことではなくて、実際に身体に挑戦しています。それが見える、その面白さがあると思います。

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