NODA・MAP「南へ」

◎分からないことにチクッとする自虐的嗜好への思慕
 岡野宏文

「南へ」公演チラシ 野田秀樹の演劇は面白い。
 野田秀樹の演劇は分からない。
 このふたつのフレーズを上手に貼り合わせると、こういう命題が出現する。

 世の中には、さっぱり分からないくせに飛びっ切り面白いものがある。

 なかなか頼もしい言葉ではある。とくに演劇を愛し、志すものにとって。
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維新派「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」

◎小さい人 途方もない世界
 岡野宏文

「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」公演チラシ 維新派の舞台の最大の特徴は、人がみんな「小さい」ということである。三、四十人も登場する人物たちが、その数の多さを裏切るように、みなあまりにも小さい。白塗りの少年たちがいくら喜びの中を疾走しても、スーツに身を包んだ若者たちがいくら粛々と歩もうと、その小ささは圧倒的だ。

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劇団 Ugly duckling「照準Zero in」

◎ステキにもつれた劇世界 虚無の風、ひやりと背中を
岡野宏文

「照準Zero in」公演チラシ親というのはほんとうによく分からない。子育てにビジョンがないのである。
人様に迷惑さえかけなければどんな人間になってもいいからねなどと喋った舌の先すら乾かぬうちに「医者になれ」などと抜かすから油断が出来ない。なれるのか今さら、医者に、オレが。だいたい、なりたくともなれないのが医者という職業の世の常であるのは十二分に承知の上で、かかる矛盾した見解を涼しい顔で言ってのけるのは、そもいかなる神経のなす技であることか。

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突劇金魚「ビリビリ HAPPY」

◎サリngROCK の優美な凶暴さ
岡野宏文

「ビリビリ HAPPY」公演チラシ今年も、年間の最低映画に贈られるゴールデン・ラズベリー賞が決まった。めでたく受賞してくれたのは「トランスフォーマー/リベンジ」であるが、なにより油断できない気にさせるのは、この映画が「当たった」という畏るべき事態である。巨大なレゴ・ブロックのごときロボットたちが、せわしくパーツを組み替えながらめまぐるしく変身してみせる、というか変身してみせるだけのこの映画は、映画を観ているというよりグラフィック・アプリケーションのデモ画面を見せられているような、侘びしくも場違いな気分を我々に味あわせる。にもかかわらず、その退屈を求めて映画館に人は詰めかけたのだ。世の中はまだからくりの手の内がすっかり透けた玩具がお気に入りらしい。2012年など飛んでもない。まだまだ人類は滅べまい。
久しぶりに、素晴らしくヘンテコなオモチャと出くわした悦びも持った。しなやかな筐体からいくつもの手足や頭が生えているくせに、どれを触るとどれが動くか想像のそとなのである。これにふれると……エッこっちが動くの! だったらこれだと……エエッなんでそれよ!とすこぶる振りまわされる観劇体験。突劇金魚の「ビリビリ HAPPY」、サリngROCK 作・演出である。

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大型影絵芝居「スバエク・トム」(カンボジア)

◎驚き、不思議、カンボジア 影絵芝居で神に逢う
岡野宏文

「スバエク・トム」公演チラシまだかなりわたしがコマかったころ、全校生徒を講堂に呼び集めて人形劇を見せたりする恐ろしいたくらみがたびたびあった。ものは糸あやつりである。演目はたいてい「アラジンと魔法のランプ」とか「イワンのバカ」とか、「肉体の門」なんかはなかなか来ないのであるが、まあまあ見てやってもいいかなというレベルのお題ではあるので、おとなしく腰を下ろすのであった。腰を下ろさないあまたのご学友たちは、上履きをぶつけ合っちゃ奇声を上げるという華やかないとなみにすっかりご執心であられ、実に幸せそうに見えた。人の幸せをむげにひねりつぶすこともあるまいにと思うものの、無慈悲な教師たちに頭などはたかれて彼らの幸福は泡とはじけていくのだった。

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唐組「盲導犬」

◎テント通いはとまらない
岡野宏文

「盲導犬」公演チラシこういう歌がございます。

猫を娶らば 才長けて 見目麗しく 情けある
犬を選ばば 書を読みて 六分の狭義 四分の熱

猫は美の生き物だから存在が本質なんであります。犬は情の生物ゆえに本くらい読まないとダメなのですね。
片方で犬のやつは、人類の最古にして最良の友と呼ばれたりしますが、奇妙なことにもう片方では犬なる文字のついた言葉にろくな手合いがないのであります。犬死に、犬ざむらい、犬畜生(なんと理を知らぬケダモノの代表選手)、負け犬などなど、犬儒派なんてのもあったっけ。

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イキウメ「図書館的人生 vol.2」

◎手に負えない、もっと大きなものと格闘を
岡野宏文(ライター&エディター)

「図書館的人生 vol.2」公演チラシ超科学と呼ばれる一連のものごとが好きなんである。
心霊、オーパーツ、超能力、UFO、古代文明は宇宙人が作った説、火星の人面岩、スカイフィッシュ、ミステリーサークル、などなどしこたま。信じているのではない。信じているならむしろ、つぎはぎだらけであるにしろ科学の冷静さの方に軍配があがる。

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オフィス3〇〇「りぼん」

◎頭が下がる演出力 錯綜した長丁場を長い暗転なしで走り通す
岡野宏文(ライター&エディター)

「りぼん」公演チラシ私はパニック症候群である。
劇場や映画館、エレベーターなどの閉じられた空間で、人があふれてくると故なくして甚大な恐怖に襲われ、いても立ってもいられなくなる哀れな人類なのである。群集の中で、ときどき鏡に囲まれた蝦蟇ガエルの気持ちになる。たらーりたらりと汗をかきつつ、このまま気が遠くなって死んでしまうのではないか…理不尽な恐怖と戦い続けているのだ。

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だるま食堂「お床と女」

◎大らかに、笑ってくれればいい 芸歴20数年の覚悟と間合い
岡野宏文(ライター&エディター)

「お床と女」公演チラシ人間、うれしいことばかりではない。楽しいことばかりでもない。ちょっと憂鬱だったり、人を見たら泥棒だと叫びたくなったり、たまには犬も歩けば棒にガンガンぶち当たるような辛さもあり、つまり劇場に行くのがどうにもおっくうなこともあるものだ。

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