あうるすぽっと「季節のない町」

◎貧困と退廃の牧歌
 片山幹生

「季節のない町」公演チラシ
「季節のない町」公演チラシ
宣伝美術:早田二郎

 都会の吹きだまりのようなスラムは、パステル調の色彩に塗り分けられた美術によってファンタジックに彩られている。戌井昭人は貧困の情景をある種の甘美なメルヘンとして提示し、そこに自堕落な生活がもたらす安逸を表現した。しかしその甘美さには、健康をむしばむ人工甘味料のような毒が含まれていた。

 『季節のない街』の原作は山本周五郎の連作短編小説である。原作の小説は昭和37年(1962)に執筆された。この原作を黒沢明が昭和45年(1970)に『どですかでん』の題名で映画化した。原作小説では各編でそれぞれ別の人物に焦点が当てられ、都市の片隅の貧民街に暮らす住民の生態が三人称体で綴られている。黒沢明の『どですかでん』では、原作からいくつかのエピソードを取り出し、それらのエピソードをさらに細分化して再構成したものになっていた。
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shelf 「構成・イプセン-Composition/Ibsen」

◎現代の象徴劇としての『幽霊』
 片山幹生

「構成・イプセン」公演チラシ
「構成・イプセン」公演チラシ

序 写実劇から象徴劇への変換
 shelfの『幽霊』にはねっとりとした重みがあった。イプセンの精密な写実主義を決然と拒み、作品に含まれる様々な象徴の核を取り出して、それを隙間なく再構成することで新しい『幽霊』を提示しようとしているように感じられた。役者の演技は表現主義的にデフォルメされており、その過剰さがシンプルでスタイリッシュな舞台空間と対比をなしている。
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ままごと「わが星」

◎『わが星』、ことばと音によるノスタルジア
 片山幹生

 「わが星」公演チラシ作品の概要
 柴幸男作・演出の『わが星』は作者が主宰するままごとによる第一回上演作品として2009年10月に今回の東京公演と同じ三鷹市芸術文化センター星のホールで上演され、好評を博した。作品はこの初演のあと、2010年2月に第54回岸田戯曲賞を受賞している。
 『わが星』というタイトルから明らかであるように、この作品はソーントン・ワイルダーの『わが町』に触発されて生まれた作品であり、平凡な日常のかけがえのなさを「死」を対比させることで浮かび上がらせるという点に両作品の共通点がある。作品の世界観には『わが町』の影響は明瞭ではあるが、ラップ・ミュージックとダンスとことばを融合させた複合的な表現を用いて宇宙の100億年の歩みを団地に住むある女の子の生涯に重ねて描き出すという構図によって『わが星』はきわめて独創的で斬新な劇世界を作り出している。
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国分寺大人倶楽部「ホテルロンドン」

◎退廃と欺瞞のむこうがわにある風景
 片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

「ホテルロンドン」公演チラシ 劇場に入った瞬間から不穏な雰囲気に胸が騒いだ。ちらしの文字が読めないほど暗く照明が落とされた場内ではブランキー・ジェット・シティの音楽が大音量で流れている。舞台は対面式ではなく、三台のダブルベッドが劇場空間の三方の離れた場所に置かれていた。これが演技が行われる舞台となる。ベッドを中心にラブホテル内の三室が暗い会場内でぼんやりと照らし出されている。客席はこの三つの舞台の合間に設置されている。見上げるとミラーボールが光り、天井一面には女性の服や下着などが無秩序にぶら下がっている。BGMの音量がさらに上がり、ほとんど耳をつんざくような大音響になると暗転。芝居が始まる。
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ハイリンド「華々しき一族」/「お婿さんの学校」

◎古典喜劇の時代錯誤と普遍性の両方を味わう
片山幹生

「華々しき一族」/「お婿さんの学校」公演チラシポップで洒落た感覚で作品を照らし出すことによって、日仏の古典喜劇の普遍的な魅力を浮かび上がらせた優れた舞台だった。
ハイリンドは加藤健一事務所の俳優教室出身の男女4人の若い俳優による演劇ユニットである。毎回、公演のたびに異なる演出家を呼び、既存の戯曲を上演する。今回は中野成樹を演出家として招き、森本薫の「華々しき一族」とモリエールの「お婿さんの学校」の二本立て公演を行った。上演時間は前者が1時間20分程度、後者が30分程度の短い作品だった。

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三条会「いやむしろわすれて草」「若草物語」(四姉妹)

◎異質なコンテクストから浮かび上がる ギミックに満ちた独創的公演
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

アトリエ公演「四姉妹」チラシ千葉を活動拠点とする三条会は、今、首都圏の小演劇ジャンキーの間で最も注目されている団体の一つではないだろうか。三条会の極めて個性的で癖のある表現スタイルには、中毒になるという言い方がぴったりはまるような強烈な吸引力がある。

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イプセン原作「野鴨」(タニノクロウ演出)

◎消長する森が作品世界を映し出す 明晰なテクストから背後の深い闇へ
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

「野鴨」公演チラシ細部まできっちりと作り込まれた美術と、日常生活を精密にトレースしたかのような動きとことばによって超写実的な舞台空間を創造し、その中でマメ山田という小人俳優を媒介にグロテスクで不気味な人間のありようを描き出す「暗黒」演出家、というのが私の抱いていた演出家タニノクロウのイメージである。
メジャーリーグの主催公演でタニノクロウが外部演出家としてイプセンの戯曲を上演すると知ったときの私の期待は、精巧な細密工芸品をも連想させるイプセンの世界をタニノクロウがどのように消化し、庭劇団ペニノ風に悪趣味なものへと変形させるかにあった。

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青年団リンク RoMT「the real thing」

◎説得力ある人物造形に成功 洗煉された舞台表現のセンス
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

「the real thing」公演チラシ『the real thing』は、『ハムレット』の登場人物による不条理劇『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(1967年)の作者として知られるトム・ストッパードが1982年にロンドンで発表した作品である。日本では1986年に文学座で『リアルシング』のタイトルで上演されている。活発なことばのやりとりの中で虚実があいまいになっていく、いかにも一筋縄ではいかなそうな演劇的仕掛けに満ちた刺激的な作品だった。ことばによって幻惑されるスリリングな展開に観客も気を抜くことができない。
田野邦彦が主宰する青年団リンクRoMTの公演を見るのはこれが初めてだった。演出家はこの難物を丁寧に読み解き、戯曲に仕掛けられた技巧を効果的に増幅させた上で、説得力のあるリアルな人物造形に成功している。スピーディな展開の中で、様々な趣向をスマートに提示する洗煉された舞台表現のセンスも印象的な舞台だった。

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ウジェーヌ・イヨネスコ劇場「授業」

◎迫力に満ちた暴力と狂気の表現 作品の潜在的可能性と現代性を開拓する
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

「授業」公演のチラシ今回四度目の来日となるイヨネスコ劇場は、ルーマニアの東側に位置する旧ソ連邦の国、モルドヴァの劇団である。モルドヴァ語での上演だったが、この言語は隣国の公用語であるルーマニア語と実質的にほぼ同一の言語だということだ。

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青年団「別れの唄」(日仏合同公演)

◎異文化摩擦の齟齬をコミカルに、そしてリアルに
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

青年団「別れの唄」(日仏合同公演)チラシ平田オリザの新作だが、フランスの地方都市にある国立演劇センターから委嘱された作品であり、当初からフランスの劇場、フランス人観客のために構想された作品であることは強調しておく意味はあるだろう。言語芸術である演劇ジャンルにおいて、使用言語の異なる国・地域の人間に新作を委嘱することはかなり異例であるように思われるからだ。今回の委嘱は、平田の劇作家としての資質が言語を超えた普遍的なものであることをフランスの演劇人が認めたことを示している。

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