◎貧困と退廃の牧歌
片山幹生
都会の吹きだまりのようなスラムは、パステル調の色彩に塗り分けられた美術によってファンタジックに彩られている。戌井昭人は貧困の情景をある種の甘美なメルヘンとして提示し、そこに自堕落な生活がもたらす安逸を表現した。しかしその甘美さには、健康をむしばむ人工甘味料のような毒が含まれていた。
『季節のない街』の原作は山本周五郎の連作短編小説である。原作の小説は昭和37年(1962)に執筆された。この原作を黒沢明が昭和45年(1970)に『どですかでん』の題名で映画化した。原作小説では各編でそれぞれ別の人物に焦点が当てられ、都市の片隅の貧民街に暮らす住民の生態が三人称体で綴られている。黒沢明の『どですかでん』では、原作からいくつかのエピソードを取り出し、それらのエピソードをさらに細分化して再構成したものになっていた。
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