ミナモザ「エモーショナルレイバー」

◎ベランダから見える景色
  水牛健太郎

「エモーショナルレイバー」 公演チラシ そう言えばマンションのリビングにはなぜ、必ずと言っていいほどベランダがあるのだろうか。そのマンションにもベランダがある。ベランダの向こうは隣のビルの壁だ。空は見えない。幹線道路からのざわめきだけが聞こえる。都内。何となく渋谷とか六本木あたりに思える。
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相模友士郎「DRAMATHOLOGY/ドラマソロジー」

◎天使としてのお年寄り
 水牛健太郎

「DRAMATHOLOGY/ドラマソロジー」公演チラシ 昨年のフェスティバル/トーキョーで注目の作品「ドラマソロジー」が「七十歳以上のお年寄りの自分語りで構成された作品」であると初めて聞いた時、自分がどのように反応したかよく覚えている。私は「それはずるい」と言ったのだ。これには説明が必要だろう。
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MU×ミナモザ×鵺的「視点 vol.1 Re:TRANS」

◎見ごたえあった短編コンペ
 水牛健太郎

「視点 vol.1 Re:TRANS」公演チラシ
「視点 vol.1 Re:TRANS」公演チラシ

 短編をいくつかの劇団が持ちより、コンペ形式で上演するという、MU主宰のハセガワアユムによる企画の第一回目。今回参加した三劇団(MUのほかに、高木登主宰の鵺的、瀬戸山美咲主宰のミナモザ)は、カトリヒデトシ氏の三分類に言うところの「を」派(完成したテキストを元に上演する、ほぼ戯曲=作家中心主義と言ってよい形態)に属する劇団で、主宰が作・演出を兼ね、出演はしないという共通点がある。だから、主宰がまずは戯曲の完成度を高め、しかるのちに演出で自分の中にある像を実現しようと努める…という作業工程が見えやすく、また各俳優の仕事も、「役」というものを基準にそれをいかに表現したかという形で捕らえやすい。
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趣向「皇帝」

◎演劇的な魅力と批評性を兼備
水牛健太郎

趣向「皇帝」公演チラシ舞台の中央に、直径2-3メートル、高さ30-50センチほどの赤い円形の台が据えられている。それは色々な使われ方をするが、基本的に主人公である二人の皇女の御座所を示している。人々はその周辺に集まり、言葉を交わし、時に踊り、ぐるぐると周囲を歩き回ったりもする。皇女を巡る様々な人々-廷臣、SP、家庭教師、有識者、権力者、皇室にあまり関心のない一般人まで、それぞれの人がそれぞれの立場から発する言葉が交差し、まるで渦のように二人の皇女を巻き込んでいく。

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南河内万歳一座「S高原から」 青年団プロジェクト公演「青木さん家の奥さん」

◎俳優の役割や魅力とは 青年団・南河内万歳一座共同企画
水牛健太郎

青年団・南河内万歳一座共同企画公演チラシ芝居にかかわる人間は数多いが、私たちが舞台の上に見出すのは役者だけだ。当然のことではあるが、しかしそれが再確認される時点で、既にそれ以外の人たちが舞台の隠れた「主役」となっている事態を示唆しているといえる。演劇の設計図を書く劇作家、そしてそれを舞台の上に実現していく上で、主導権を握る演出家。ことに日本では「作・演出」という形で両者を兼ねるのが、小劇場を中心に一般的な形式になっている。何よりもまず、「作・演出」個人の作品として、芝居が理解されているゆえんだ。

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五反田団「すてるたび」

◎「父」を殺して「大人」になる 「挫折」を乗り越える自己セラピー
水牛健太郎(評論家)

5月9日にアトリエヘリコプターで五反田団の「すてるたび」を見た。昨年11月に初演された作品だが、ベルギーのフェスティバルに持っていくということで、その準備の一環として、1日だけ東京でプレ公演をするということだった。昨年見たときもいい作品だと思ったが、決して見やすい作品ではなかったから、1回見ただけでは消化できなかったところもたくさんあった。再び見ることによって、過去と現在、夢と現実が境もなく入り混じるその作品世界をよく味わうことができた。1時間余りの上演時間中、ずっと心地よく集中して楽しんで見られた。

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三条会「ロミオとジュリエット」

◎知的刺激は受けたけど、泣かせてほしかったロミオさま
(鼎談)水牛健太郎+杵渕里果+芦沢みどり

三条会「ロミオとジュリエット」公演チラシジュリエット芝居-どんな上演だったか

芦沢みどり:ワンダーランド鼎談第2弾は、下北沢のザ・スズナリで上演された三条会の『ロミオとジュリエット』。三条会は知的なたくらみと遊び心に満ちた演出と、俳優それぞれに個性があって魅力的であることが定評になっています。さて、今回はどういう『ロミオとジュリエット』だったか。公演チラシには「むかしむかしロミオとジュリエットという人がいました。2人とも恋をしました。2人とも死にました。もしかしたら1人だったのかもしれません」というナゾめいた言葉が置かれています。公演パンフレットの方では、「今回の台本は、ジュリエットが登場している場面だけを抜粋して構成しました」と言っている。原作のうち、ヴェローナの広場や街路での立ち回り(喧嘩)、乳母の長セリフ、マキューシオの長セリフ、修道士ロレンスの長セリフなどがばっさりとカットされています。登場人物は八人。ロミオとジュリエット、あとはキャピュレット、キャピュレット夫人、乳母、パリス、ロレンス修道士、ティボルトですね。キャストは全員ジュリエットを演じるシーンもあります。

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tpt「ウルリーケ メアリー スチュアート」

◎理想を追い求めたが故の破綻 英王権争闘に日独赤軍派を重ねて描く
水牛健太郎(評論家)

「ウルリーケ メアリー スチュアート」公演チラシ間もなく取り壊されるベニサンピット。ここを主な活動の場にしてきたTPTにとっては、ベニサンでの最後の公演である。空間の高さと奥行きを活かした印象的な舞台となった。

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世田谷パブリックシアター「友達」(作:安部公房、演出:岡田利規)

◎鼎談 不条理劇、岡田演出、個性派俳優のブレンドの味
芦沢みどり、香取英敏、水牛健太郎

「友達」公演チラシ世田谷・シアタートラムで開かれた「友達」公演(2008年11月11日-24日)は、芝居好きの間で事前にかなり話題になりました。安部公房の代表的な戯曲を、チェルフィッチュ主宰の岡田利規が演出するうえ、小林十市、麿赤兒、若松武史、木野花、今井朋彦ら人気、実力、個性の際だった俳優が登場するからです。不条理劇と岡田演出と個性派俳優陣との組み合わせが注目されたのでしょう。その結果はどうだったのか、ワンダーランドの寄稿者3人が舞台をさまざまな角度から検証しました。(編集部)

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多摩川アートラインプロジエクト実行委員会「多摩川劇場」

◎図らずも裏切る強度と悪意を 「町づくり」参加アーチストに望む
水牛健太郎(評論家)

多摩川アートラインプロジエクトチラシ電車の通路に、5人の人物がほぼ等間隔で立っている。電車が東急蒲田駅を出るや、5人は、揺れるような緩い動きをはじめる。体をねじったり、手を振ったりする。やがて、ある一人の動きが、隣の人に連動しているのが分かってくる。しかしそれは、連動しているかのような、していないかのような伝わり方だ。時には一人間を置いて連動したり、まったく連動しなかったりもする。緩やかな関係性。遊び続ける体。電車は矢口渡、武蔵新田、下丸子、と進んでいく。駅に停車すると、窓から見えるホームでは、親子連れやカップルが不思議そうな顔で見ている。しかし、扉は開かないので、彼らの世界とこちらの世界は通じ合うことがない。

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