流山児★事務所「浮世混浴鼠小僧次郎吉」

◎相対化された「子之刻」=日本の「ゼロ時間」
村井華代(西洋演劇理論研究)

「浮世混浴鼠小僧白き地」公演チラシ今回の流山児★事務所公演は佐藤信の1970年の戯曲『浮世混浴鼠小僧次郎吉』である。演出は流山児★事務所五度目のゲスト演出となる天野天街。社団法人日本劇団協議会の「次世代を担う演劇人育成公演」枠の公演でもあり、事務所のアトリエSpace早稲田開場10周年記念公演第二弾にも当たる。流山児祥によれば、Space早稲田は、この戯曲が初演された「アングラ」発祥の地・六本木アンダーグラウンドシアター自由劇場の当時の空間に「そっくり」なのだそうだ。

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新国立劇場「エンジョイ」(岡田利規作・演出)

◎ 「演劇をやってほしい」という熱い周囲の期待を、岡田利規はどのように裏切ることが可能か?
森山直人(京都造形芸術大助教授)

「エンジョイ」公演チラシ“verisimilar”という英単語がある。「迫真的」という訳語をあたえられたりもするが、もともとは“very similar”、つまり、「非常によく似ている」「本物そっくりである」という意味である。
いまや「リアル」という言葉が、あまりに手垢にまみれてしまったとすれば、「本物そっくりである」というこの単語の切り口は、岡田利規(チェルフィッチュ)が、近年高く評価されているその一端を確実に言い当てていると言える。

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青年団「ソウル市民」三部作

◎成熟と喪失-舞台表現と「歴史」との困難な“出会い”  松本和也(近・現代演劇研究)  2006年、「歴史研究の中でも、帝国主義と植民地主義をめぐるテーマほど、人間の熱意と感情を刺激するものはない。」というマーク・ピーテ … “青年団「ソウル市民」三部作” の続きを読む

◎成熟と喪失-舞台表現と「歴史」との困難な“出会い”
 松本和也(近・現代演劇研究)

 2006年、「歴史研究の中でも、帝国主義と植民地主義をめぐるテーマほど、人間の熱意と感情を刺激するものはない。」というマーク・ピーティーの言葉を実証するかのように、平田オリザが『ソウル市民 昭和望郷編 Citizens of Seoul 1929:The Graffiti』を新作として書き下ろし、『ソウル市民 Citizens of Seoul』・『ソウル市民1919 Citizens of Seoul 1919』と併せて『ソウル市民』三部作の連続上演を行ったことは、演劇界で小さからぬ話題となったものでした。『その河をこえて、五月』のような、韓国との国際交流プロジェクトを2度も成功に導いた平田オリザですから、話題性ばかりでなく観客の期待も高く、青年団らしからぬ(といってよいのでしょう)「完売」公演が続出し、追加公演もうたれたようです。

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ポツドール「恋の渦」

◎舞台の上に充満する「空気」 内在化された想像上の他者の視線
松井周(青年団リンク「サンプル」主宰)

「恋の渦」公演のチラシポツドール的なるものを挙げるとすると、以前なら例えば暴力やエロといった言葉が浮かぶこともあっただろうが、今となってはそういったことを切り口にポツドールを捉えようとしてもどこか本質を取り逃がしてしまう気がする。本質というと何か実体がありそうだが、そういうものでもなく、あえて言うなら「空気」と呼ぶような目に見えないものである。舞台の上に充満する「空気」を感じるために私たちはポツドールを観ているのだろう。観客だけでなく、俳優、スタッフ、演出も含めて全ての者がその「空気」に奉仕しているような感覚を受ける。

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パラダイス一座「オールド・バンチ  男たちの挽歌」

◎真の主役は「演劇愛」 温かさに包まれた一座の船出
村井華代(西洋演劇理論研究)

「オールド・バンチ 男たちの挽歌」公演チラシ流山児★事務所の『狂人教育』を観に行ったら、にわかには信じられないようなチラシが挟まっている。キャスト・戌井市郎、瓜生正美、中村哮夫、肝付兼太、本多一夫、高橋悠治。映像出演に観世榮夫、岩淵達治。箔つきの大御所ばかりではないか。この人々が高齢者劇団「パラダイス一座」を旗揚げし、山元清多のホンで共に12月、演出・流山児祥でスズナリの舞台に共に立つのだという。しかもチラシ写真と題字がアラーキー。美術は妹尾河童と書いてある。

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山田せつ子公演「奇妙な孤独vol.2」

◎〈要約できない豊かさ〉に触れつづけることへの戦い  森山直人(京都造形芸術大学助教授)  このダンス作品を見て、「地図を見る感覚」を連想した。なぜそうなったのかを振り返ることで、劇評にしたいと思う。

◎〈要約できない豊かさ〉に触れつづけることへの戦い
 森山直人(京都造形芸術大学助教授)

 このダンス作品を見て、「地図を見る感覚」を連想した。なぜそうなったのかを振り返ることで、劇評にしたいと思う。

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松田正隆作、平田オリザ演出「天の煙」

 財団法人地域創造と各地の公共ホールが共同で企画・製作(公共ホール演劇製作ネットワーク事業)した、松田正隆作、平田オリザ演出「天の煙」が10月末から12月初めまで各地で開かれています。皮切りの埼玉公演をみた牧園直さんから、力のこもったレビューが寄せられました。以下、全文です。

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