青年団「革命日記」

◎強力で甘美な物語
小畑克典

「革命日記」公演チラシ「革命日記」は、集団が共有する大きな物語と個人に属する小さな物語を対置し、その二元対立が生み出す緊張やうねりを推進力とする、強力かつ甘美な物語である。その力強さ・甘美さは確かに観客をひきつけるが、同時に何かしら居心地の悪さを感じさせた。

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青年団「革命日記」

◎立花の背中が幻視させる非「革命」的な時間
プルサーマル・フジコ

「革命日記」公演チラシ『革命日記』はまず何を差し置いても立花という女性の役を演じた鄭亜美が真面目さと切なさと色っぽさを抑制しつつも振りまいていて、革命闘士も支援者も町内会のおばさんたちもひっくるめた全ての登場人物の中でいちばんマトモな人間であるその彼女が、革命組織の異常さを客席に背を向けたまま糾弾するシーンが素晴らしい。

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燐光群「ハシムラ東郷」

◎ここはどこ? あの人はだれ?  都留由子  さすがに現在ではどうかわからないが、ちょっと前なら、アメリカの子ども向けカトゥーンなどを見ていると、めがねをかけて、歯が出ていて背の低い、細い目がつり上がった男性が、着物とも … “燐光群「ハシムラ東郷」” の続きを読む

◎ここはどこ? あの人はだれ?
 都留由子

 さすがに現在ではどうかわからないが、ちょっと前なら、アメリカの子ども向けカトゥーンなどを見ていると、めがねをかけて、歯が出ていて背の低い、細い目がつり上がった男性が、着物とも何ともつかないものを着て、下駄を履いて登場することがあった。それはもちろん「日本人」で、妙な格好に加えて、刀やヌンチャクを振り回したり、空手や少林寺拳法の技を繰り出したりして、おいおい、なんだこれは? と思うことも多かった。

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燐光群「ハシムラ東郷」

◎研究は創作であってはならないが、創作は研究からも生まれる  松岡智子  チラシを一見しただけでは、坂手洋二作・演出による燐光群の新作だとは気がつかなかった。そして観に行きたいとも思わなかった。白地にあっさりとモノトーン … “燐光群「ハシムラ東郷」” の続きを読む

◎研究は創作であってはならないが、創作は研究からも生まれる
 松岡智子

 チラシを一見しただけでは、坂手洋二作・演出による燐光群の新作だとは気がつかなかった。そして観に行きたいとも思わなかった。白地にあっさりとモノトーンのイラストがあしらわれたチラシは地味だし、「ハシムラ東郷」という題名も地名なのだか人の名前なのだか意味不明。燐光群といえば現実の社会問題を真正面から捉えた、どちらかというと硬派な作風という印象を持っていたが、「百年前、アメリカでもっとも人気のあった日本人を、知っていますか」というキャッチコピーからは、単なる過去の人物の伝記のように思える。全然面白そうに思えなかった。料金も決して安くはないし、おそらく劇評セミナーの課題に挙げられなければ観に行かなかっただろう。でも、観劇が進むにつれ、この作品に立ち会えたことに感謝した。でも、全編夢中になって見入ったというわけではなく、正直なところ、膨大な台詞のシーンに意識が遠のいてしまうこともあった。それなのになぜか、決して良く眠れたからとかではなく、観劇後の気持ちが爽快だった。なんだか「演劇」という表現方法の自由奔放さがとても痛快だったのだ。

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岡安伸二ユニット「2008年版『BANRYU』蟠龍-いまだ天に昇らざる龍」

◎黙して花
金塚さくら

「BANRYU 蟠龍」公演チラシ目に美しい舞台であった。
開演を待つステージ上はまるで神社の内陣のようだ。暗がりの深い空間に小さな賽銭箱が置かれ、その奥にはつつましく祭壇が設えてある。とぐろを巻いて口をカッと開いた、それでいて格別の迫力があるというわけでもない小さな金色の龍の像が、祭壇の中央にちょんと鎮座していた。

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岡安伸二ユニット「2008年版『BANRYU』蟠龍-いまだ天に昇らざる龍」

◎見事な技を見た、しかし。
宮武葉子

「BANRYU 蟠龍」公演チラシ日本劇作家協会プログラム岡安伸治ユニット公演 2008年版「BANRYU 蟠龍―いまだ天に昇らざる龍―」を観た。93年に劇団世仁下乃一座で初演され、以降、形を変えながら数多く上演されてきた作品ということだが、評者はこれが初見である。

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タカハ劇団「モロトフカクテル」

◎現代っ子と「あの時代」
金塚さくら

「モロトフカクテル」公演チラシ高校時代、母校の生徒手帳には「生徒会規約」ではなく「生徒会自治要綱」と書かれていた。自治、なのだ。
制服着用の義務づけはすでに撤廃が勝ち取られ、生徒は思い思いの私服で登校していた。卒業式と入学式では日の丸掲揚および君が代斉唱の強要に抵抗するのが毎年の恒例行事で、「卒業式・入学式対策委員会(卒入対)」という他校には見られない珍しい委員会が中心となり、全校生徒を巻き込んだ大討論会が開催されたものだ。中学時代はPPMやサイモン&ガーファンクルなどを好んで聴いていた私は、高校生になると日本のフォークソングも聴くようになり、物理教師の弾くギターに合わせてピアノを弾いたりして放課後を過ごした。モロトフ火炎瓶の作り方については、入学した年の新入生歓迎会で部活紹介の時間に、何部かの先輩がホワイトボードに図を描いて説明してくれた。作り方そのものは忘れてしまったものの、実話だ。

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タカハ劇団「モロトフカクテル」

◎時代を超える翼をください
大泉尚子

「モロトフカクテル」公演チラシ客入れの音楽はフォークソング。「あれっ、これってPPMの『花はどこへ行った』かな?」なんて思いながら、60-70 年代の回顧ものかと想像を巡らす。
舞台は、広めでやや雑然とした部屋。中央にストーブ、上手に長めのテーブルとイス、下手の赤いソファには、熊のぬいぐるみがポツンと置かれ、その前にあるのはキーボードだろうか。後ろの壁には棚があり、ゴチャゴチャといろんなものが詰め込まれている。家具は、そこそこ簡素というか間に合わせ的な感じがあり、ここが住まいやお固い業種のオフィスなどではないことをうかがわせる。壁沿いにつけられた数段の階段の上にはドアがあるから、もしかしたら半地下なのかもしれない。と、ここまではとても具象的な装置なのだが、背面の大きな壁は全く趣が違う。幾何学的な模様が描かれた、かなりの面積の壁面が、そそり立つようにある。白っぽいグレーを基調とした色合いの、小洒落てアート風な雰囲気。
両者の対照に、幕開け前から、この芝居のリアリズム加減がいかほどのものなのかと、興味をそそられる道具立てである。

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虚構の劇団「ハッシャ・バイ」

◎娘の物語、母の物語
都留由子

「ハッシャ・バイ」公演チラシお芝居の中には、人生のある時期に観ると、激しく心を揺さぶられ、強い印象を残すものがある。鴻上尚史が主宰する若い劇団、「虚構の劇団」の『ハッシャ・バイ』は若いうちに観たかった作品であった。初演を観ていないことを、本当に残念に思った。第三舞台による初演は23年前のことである。

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虚構の劇団「ハッシャ・バイ」

◎真摯だけれど何か物足りない 清志郎の歌を聴きながら
直井玲子

「ハッシャ・バイ」公演チラシ今年の5月2日からずっと、忌野清志郎の歌ばかりを聴いている。この日、清志郎が亡くなったのだ。大人になって長い間その存在を忘れかけていたけれど、清志郎は私の少女時代のアイドルだった。連日CDやDVD、もちろんYouTubeを見続けいていると、新たな発見がたくさんあってやめられなくなる。

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