「化粧 二幕」

◎「劇」を動かしているものは何か 「母性」が観客と出会うとき
坂本俊輔

「化粧 二幕」公演チラシ『化粧 二幕』の公演を見終えた後、ワンダーランドのセミナーの一環として、主演の渡辺美佐子さんと舞台監督の田中伸幸さんから直接話を伺う機会が得られた。海外公演での観客の反応、「ゴキブリ」のくだりが生まれるきっかけとなった地方公演のエピソード、渡辺さんの演技に対する姿勢など様々な話を聞くことができ、舞台とは異なる面から劇を理解する上でも大変参考になった。気がついたのは、お二人の話には観客との距離に関係したものが多く、すし詰めの観客を間近にして行われた下北沢のザ・スズナリ劇場での初演を、渡辺さんはとても感激した、と感慨深く語っていたことや、逆に1000人を超えるような地方の大ホールで公演を行った際は、舞台を客席に近づけるよう田中さんが苦心された話など、観客との「近さ」にこだわりをもっていることが感じられた。

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イヨネスコ「瀕死の王」

◎王の死はフレイザー『金枝篇』を思わせ、そして…
大泉尚子

「瀕死の王」公演チラシ「瀕死の王」は、文字通り死を眼の前にした王ベランジェ一世が、生に強く執着をもちながら、ついには死を受け入れるというお話。あくまでも威厳をもって王らしく死ぬことを突き付ける、第一王妃マルグリットと医者。より多く寵愛を受けているせいか、嘆くばかりの第二王妃マリー。それに、お世話係の侍従にして看護婦のジュリエットと衛兵。この6人が登場人物となる。

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イヨネスコ「瀕死の王」

◎揺さぶられた芝居観 公演の終わりは、混沌
浜崎未緒

「瀕死の王」公演チラシ劇場に行って、まず公演予定時間の掲示を探してしまう。ほとんど儀式のように近づいて、公演にかかる時間を確認する。2時間を超えているとがっかりだ。途中休憩があれば尚更。いつからか私の身体には、「休憩なしで2時間以内に終わる芝居はいい芝居(短編集やオムニバス公演を除く)」との持論が、染み付いている。2時間という時間の枠にギュウギュウに詰めこまれる方が、主題の際立つ「濃い」お芝居になる。そう、2時間以上かけて「薄い」お芝居をみることが、いちばん嫌いだ。なぜこんな苦痛を味わわなければいけないのか、と悔しい想いをしたことが何回もあった。『瀕死の王』は、休憩なしの2時間15分の予定だが…。

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イヨネスコ「瀕死の王」

◎台詞=言葉を支える声とからだ 稀有なオーディエンス体験
鴨下易子(アトリエ・ドミノ主宰)

「瀕死の王」公演チラシ『瀕死の王』のチラシは、縦長の金色のフレームに入った写真だ。2人のティアラをつけた喪服姿の女性の間に、頭に王冠を載せた男性が車椅子に座っている。王冠からタイトルにある王様のようだが、パジャマを着て病人に見える。ティアラや王冠がなければ、喪服もパジャマも普通で、写真館で撮った家族写真に見えないこともない。その家族写真の金枠にかかるように、「死っ!死にたくねぇ!」と書かれている。初めて見る不条理劇は、チラシにも奇妙さがあり変に印象的だった。

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イヨネスコ「瀕死の王」

◎瀕死の、殿
杵渕里果

「瀕死の王」公演チラシ「あと1時間40分で、王様はお亡くなりになるのです。このお芝居の終わりには」
舞台に、体調を崩した老齢の王が登場すると、王妃と侍医にこう宣告される。余命1時間40分。終演とともに昇天の予定。
「何を申す。縁起でもない」
王は、機嫌を損ねる。なるほど、タイトルどおり『瀕死の王』である。

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風琴工房公演「hg」

◎加害/被害…二元論の先へ
 鈴木励滋

 障害がある人たちが過ごす施設の現在を描いた二場冒頭、およそ50年前のチッソ水俣工場内を舞台とした一場で工場長や付属病院長を演じた俳優が、水俣病患者として登場したという仕掛けは、少なからぬ観客を当惑させたに違いない。その仕掛けが意図していたのが転生、つまり彼らに業を負わせるためのものであったとすれば、障害者が因果応報によって生まれるというえらく古い曲解に基づくこととなり、はたまたそれが罪に対する罰を表していたとしたら、障害そのものが悪であるということになってしまうのだから。

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風琴工房「hg」(下)

「劇評を書くセミナー」春季コースの課題公演となった風琴工房「hg」評を前回に続いて掲載します。講師の西村博子さん(アリスフェスティバル・プロデューサー)と岡野宏文さん(演劇専門誌「新劇」元編集長)の二人が選んだ劇評を基に構成しました。前回4編、今回5編の計9編で、公演のさまざまな輪郭と奥行きが浮き彫りになったはずです。(編集部)

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風琴工房「hg」(上)

ワンダーランドは今年の4月から7月まで毎月2回のペースで「劇評を書くセミナー」(全8回)を初めて開きました。劇作家・演出家の話を聞く+劇評を書く+講師のコメントを聞きつつ討議する、という三位一体の講座でした。遊園地再生事業団「ニュータウン入口」、三条会「邯鄲」「綾の鼓」、それに風琴工房「hg」が課題公演に指定されました。この3回の公演評は無署名で書いてもらいました。書き手の属人的要素を捨象してテキスト自体に注目しようとの狙いがあったからです。毎回十数本の劇評が提出されましたが、もっとも評価が分かれたのが「hg」公演評でした。どこでどのように分岐したかは、これから2回にわたって紹介する劇評を読むと分かってもらえるはずです。以下、最初の4編を掲載します。セミナー講師の西村博子さん(アリスフェスティバル・プロデューサー)と岡野宏文さん(演劇専門誌「新劇」元編集長)の二人が選んだ劇評を基に構成しています(編集部)。
(注)10月に新しい劇評セミナーを開きます。>> 詳細ページへ

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Port B「サンシャイン62」

◎ひたすら歩く、ただとにかく、前へ、前へと
米山淳一

「サンシャイン62」公演チラシPort Bのツアー・パフォーマンス『サンシャイン62』を観た。といってもこの公演、東池袋に昨年新たに出来た劇場「あうるすぽっと」を集合受付場所とはするものの、観客は劇場の客席に座って舞台を観ていればいいのではなく、むしろ大部分の時間を劇場の外、池袋の街という舞台をひたすら自らの足で歩かなくてはならない。だから観たというよりは、参加したという方がむしろ実情に即しているだろう。

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A.C.O.A「人間椅子」

◎観客の半分は女なのだぁーっ!
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

アトリエセンティオは東武東上線・北池袋駅から歩いて五分、路地の突き当たりの線路際にある。これが比ゆでなくマジで線路のすぐ横なのね。かつて舞踏グループが稽古場にしていた小屋だと聞けばナルホドと思うけど。開場までの数十分、ひっきりなしに通過する夕方のラッシュの車両を、暮れなずむ路地裏で眺めているうちに不安になった・・・こんな場所でまともに芝居が観られるのかなぁ。

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