◎あやふやな身体のための演劇入門(バイエル)
小澤英実
劇場という「何もない空間」と、そこで行われる公演の関係。それは例えば、劇場が器・容れ物で、公演が容れ物の中身というふうにたとえられる。そのとき劇場は演劇と日常の境界線になる。岸井大輔がここ三年ほど断続的に続けてきた「ポタライブ」シリーズは、様々な現実の街中を散策しながら観劇するというユニークな上演スタイルを特徴とする。その「ポタライブ」が寺山修司の「市街劇」の意匠を今に引き継ぎつつそれと異なるのは、岸井が舞台空間を劇場から現実の街へと解き放つとき、その主眼が、寺山のように「虚構の烙印を付された演劇を、歴史と同じ高みに押し上げること」ではなく、あくまで固有の場所性を備えた具体的な空間に対する異化、「場の劇化」に向けられていることだ。