◎全てが自己完結した者の「自我」 屹立する「乞局」の世界
松井周(青年団リンク「サンプル」主宰)
今回の公演は純粋な乞局の公演ではないが、乞局で上演した作品『耽餌』の再演でもあるので、やはり、世界は乞局であった。「キラリ☆ふじみで創る芝居」と冠されたこの舞台は、13人の登場人物の内、10人近いメンバーをオーディションにより選出したらしい。その甲斐あってかどうかは私にはわからないが、乞局の世界を、その世界が持つポテンシャルを目の当たりにすることが出来たと思う。俳優の演技の質は高く、癖のある下西氏の文体を見事に消化していて、乞局の世界に流れる独特のトーンを途切れることなく体現していた。つまり、面白かった。しかし、これはその世界に入っていきたくなったとか、登場人物に感情移入できたとかいうことを意味しない。あくまで乞局の世界は乞局の世界で屹立していた。その屹立ぶりを改めて確認することが出来たのが、今回の収穫だった。