戯曲のポテンシャルを多層的に抽出 退任飾る「近代演劇」の傑作

◎SPAC「別冊 別役実 -『AとBと一人の女』より」
大岡淳(演出家・演劇批評家)

「鈴木忠志の軌跡」公演チラシこの3月31日をもって、演出家・鈴木忠志が(財)静岡県舞台芸術センター(SPAC)芸術総監督を退任した。彼の監督時代の最後の演出作品となったのが、この『別冊 別役実 ―「AとBと一人の女」より』である。若干のテキレジと、演出上の工夫が施されているとはいえ、基本的には、戯曲『AとBと一人の女』をストレートに演出した作品である。

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ドルイド・シアター・カンパニー「西の国のプレイボーイ」(J.M.シング作)

◎分厚い下塗りの上に描かれる牧歌的笑劇
片山幹生(早稲田大学非常勤講師)

「西の国のプレイボーイ」公演チラシアイルランドの西北部の寂れた漁村を舞台とする牧歌的笑劇。『西の国のプレイボーイ』を見た印象を一言で表現すればこうなる。ダブリンでの初演時(1907年)にそのスキャンダラスな内容ゆえに暴動騒ぎになったことが不思議に思えるほど他愛ない話なのだ。観客の視覚に強く訴えるような斬新なスペクタクルもあるわけでもないし、意外性のある仕掛けが演出で用意されているわけでもない。しかしその古典的様相の穏やかさにも関わらず、この作品は私を大きな演劇的感興で満たすものだった。この芝居に私が感じた面白さと充実感は何に由来するのだろうか? 上演を企画した東京国際芸術祭(TIF)のウェブページ上の資料、芸術祭事務局から提供していただいた字幕原稿、および戯曲の原作および翻訳などを読んで上演舞台をじっくり反芻し、その魅力の源泉について考察してみたい。

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仏団観音びらき「宗教演劇」

ご無沙汰しております。 かなり久しぶりの登場です。 公演から半年も経過していて恐縮ですが ずっと心に残っていた仏団観音びらきの 第6回公演「宗教演劇」の劇評を執筆しました。 初めて仏団を観たときの エピソードも含めて書き … “仏団観音びらき「宗教演劇」” の続きを読む

ご無沙汰しております。
かなり久しぶりの登場です。
公演から半年も経過していて恐縮ですが
ずっと心に残っていた仏団観音びらきの
第6回公演「宗教演劇」の劇評を執筆しました。

初めて仏団を観たときの
エピソードも含めて書き出してみました。
読んでいただけたら嬉しいです。

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最後まで隙のない映画とエンゲキの演劇

◎KUDAN Project 「美藝公」  鈴木麻那美 脚本・演出:天野天街の二人芝居。 「くだんの件」「真夜中の弥次さん喜多さん」に続き、三作目にして最終章とのこと。 原作は筒井康隆。 舞台は映画産業中心の社会。スーパ … “最後まで隙のない映画とエンゲキの演劇” の続きを読む

◎KUDAN Project 「美藝公」
 鈴木麻那美

脚本・演出:天野天街の二人芝居。
「くだんの件」「真夜中の弥次さん喜多さん」に続き、三作目にして最終章とのこと。

原作は筒井康隆。
舞台は映画産業中心の社会。スーパースターの美藝公。
…という設定を原作から拝借した、あくまで天野ワールドな舞台。

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生田萬キラリ☆ふじみ芸術監督インタビュー

「インタビューランド」コーナーに久しぶりに新しい演劇人が登場しました。この4月から富士見市民文化会館キラリ☆ふじみの芸術監督に就任した生田萬さんです。
生田萬さんは「ブリキの自発団」という風変わりな名前の劇団を率いて1980-90年代の小劇場シーンで活躍しました。アメリカのSF作家フィリップ・K・ディックの影響を受けた作品を次々に発表し、「過去はいつも新しく、未来は不思議に懐かしい」というフレーズは鮮烈な印象を残しています。最近は劇団活動を休止していたはずなのに、どんなきっかけで芸術監督に転身したのか、なぜ地域の公共ホールを拠点にするのかなど、現代演劇に対する希望と構想を率直に語ってもらいました。>>

COLLOL「きみをあらいながせ~宮澤賢治作「銀河鉄道の夜」より」

◎主題と変奏のシフトで複数化された物語
中村昇司(雑誌編集者)

COLLOL「きみをあらいながせ」公演チラシきみをあらいながせ。
そのタイトルを聞いて、おかしな言葉だな、と思った。主体と客体がねじれているような違和感がある。きみをあらいながす、のであれば丸く収まったのだが、ここには「きみ」をあらいながすべき「私」(あるいは「きみ」)以外に、もうひとり私にそれを促す私がいる。「きみ‐私1」の関係から「私1‐私2」に、途中で主客がシフトしている。独白か、対話かも知れない、ちょうど曇った鏡に言葉を掛けるような彼此の不確かさをもつ、あやうい言葉だ。

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舞台美術展2007が開催中 現状と課題を考える連続シンポも

舞台美術展2007チラシ舞台美術展2007が15日まで、東京・世田谷文化生活情報センターで開催中です。日本舞台美術家協会(JATDT)主催でほぼ4年ごとに開かれる企画展で、「舞台美術市場」コーナーには舞台装置、舞台衣装、基になったデザイン画、映像など約100点が展示されています。
今回は初の試みとして「舞台美術屋台村」と名付けた連続シンポジウムで、小劇場を中心に舞台美術の仕事の現状や課題を話し合います。
舞台美術市場は世田谷文化生活情報センター生活工房(キャロットタワー4F)で開かれます。入場無料。
舞台美術屋台村は同5Fで午後6時-8時(第7回のみ午後5時から)。一般入場料は各回500円。主な内容は次の通りです。詳しくは、「JATDT 舞台美術展2007」webサイトをご覧ください(http://homepage.mac.com/oshimas/id/)。

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「浮力」(作・演出 北川 徹)

◎今、欲しいのは浮く力。次に欲しいのは、
村井華代(西洋演劇理論研究)

「浮力」公演プログラム1999年以来、(財)地域創造と東京国際芸術祭(TIF)が続けてきたリージョナルシアター・シリーズ。「東京以外の地域を拠点に活躍し、地域の芸術文化活動に貢献している若手・実力派劇団を紹介する企画」(公演パンフより)である。これまでは複数の地方劇団の出張公演のような形だったが、今年度は企画を一新し、「リーディング部門」と「創作・育成プログラム部門」の二部門制となった。前者に参加した団体の中から特に選ばれた一名の作家もしくは演出家が、後者において翌年度TIFでの舞台上演のスカラシップを受けることができるという仕組みだ。俳優やスタッフは在京劇団の中から招集、しかもベテラン演出家がアドバイザーとして後方支援してくれるという。(財)地域創造とTIFは「より質の高い創造的な演劇と芸術文化環境づくりを地域で推進し、全国に発信していくために」(同上)方針を一新したとのこと、それにしても選ばれた当人にとっては夢のチャレンジだろう。

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「The Very Best of AZUMABASHI」と「奥州安達原」に写真追加

すでに掲載している吾妻橋ダンスクロッシング「The Very Best of AZUMABASHI」(木村覚)とク・ナウカ「奥州安達原」(田中綾乃)の公演評に写真を追加しました。いずれも舞台のようすがよく掴める出来映えだと思います。提供していただいた主催側のご協力に感謝します。念のためですが、これらの写真や画像の著作権は撮影者や主催団体にあります。転載など使用希望の際は必ず許諾を得てください。ほかの公演評に掲載した写真なども同様です。無断使用は禁物です。

悪い芝居 『イク直前ニ歌エル女(幽霊みたいな顔で)』

◎徹底したドライな視線 バカバカしい。なんともバカバカしい。観劇しながら常に思ったことである。それは、今年で三年目を迎える若い劇団にありがちで、挑発的でポップなチラシに充満するふざけ具合の通りの印象なのだが、その徹底的な … “悪い芝居 『イク直前ニ歌エル女(幽霊みたいな顔で)』” の続きを読む

◎徹底したドライな視線

バカバカしい。なんともバカバカしい。観劇しながら常に思ったことである。それは、今年で三年目を迎える若い劇団にありがちで、挑発的でポップなチラシに充満するふざけ具合の通りの印象なのだが、その徹底的なバカバカしさが最高でしかも意外にしたたかな手つきをしていることにちょっと驚かされたのだ。それがこの劇団のいつものスタイルで且つ実力によるものなのかは初見であるが故に判然としない。舞台をから感得したこととは、キャラ作りは達者でも演技のアンサンブルという面ではお世辞にも決して上手いとは言えない俳優、我々若い世代の虚構のノスタルジックを喚起させて止まない布施明や尾崎紀世彦といった昭和歌謡の劇中使用、演劇的約束事を平気で異化せんがためのパロディと映像を用いたギャグ(『となりのトトロ』の、雨の日にカンタがサツキに傘を貸すシーン映像にアテレコすることで生じるズレた笑い等)である。こういったくだらなさが全編とおして速射砲のように繰り広げられるダイナミズムさに私はとにかく底知れぬパワーを皮膚感覚で体験したのだ。俳優達と共に汗を流すほどに熱さが充満した要因は確かに気候だけによるものではなかった。

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