範宙遊泳「さよなら日本 瞑想のまま眠りたい」

◎喪失がもたらした転回
 落 雅季子

「さよなら日本」公演チラシ
「さよなら日本」公演チラシ

 これは「喪失」を描いた物語なのだと、観ている途中でわかった。舞台上には、かつて私が誰かを失ったときの情景があり、これから失うものがあるとすればこうだという予言があり、ではいったい現在地では何を所有しており、何を確かだと思って暮らしているのか、という問いがあった。息をするのも忘れるほど見入っていたが、同時に、どうしようもなく怖い、という感覚におそわれた。水が欲しいと思ったときには、すでに身体の水分は枯れていると聞いたことがある。深層心理の認識はいつも遅れるので、自分では渇いていることに気づいていなくとも、思いもかけない水流を前に、久しく覚えがないほど惹きつけられたのかもしれない。どうしてこんなに怖いと思うのか、それなのにどうして惹かれたのか、考えているうちに二度も観に行ってしまった。
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かもめマシーン「スタイルカウンシル」

◎ドキュメンタリー演劇としてのかもめマシーン
  夏目深雪

「スタイルカウンシル」公演チラシ
「スタイルカウンシル」公演チラシ

 かもめマシーンは不思議な劇団だ。観た後はたまらなく感動して好きだと思うのに、いざその感動を言葉にしようと思うとなかなか言葉が出てこない。新作である『スタイルカウンシル』も同じだと思った。身体性が強いから? 一種のドキュメンタリー演劇だから? そういえば、ちょっと前に観たブルーノプロデュースの『My Favorite Phantom』も同じような隔靴掻痒感を味わった。これは何か新しい批評的枠組みが必要とされているのではないか。
 かもめマシーンの(暫定)主宰である萩原雄太は1983年生まれ、ブルーノプロデュース主宰の橋本清は1988年生まれである。若い世代に、震災後新しい動きが出てきているのではないかという前提で話を進めてみたいと思う。
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ハイバイ「て」

◎劇評を書くセミナー 東京芸術劇場コースII 第1回 報告と課題劇評

 ワンダーランドの「劇評を書くセミナー東京芸術劇場コースII」第1回は6月15日(土)東京芸術劇場のミーティングルーム7で開かれました。取り上げたのはハイバイ「て」公演、講師は批評家の佐々木敦さんでした。セミナーはまず、劇評の狙いなどを執筆者に聞いてから佐々木さんがコメント。参加者からも意見を出してもらう形で進められました。当日提出された劇評は17本です。以下、了解の得られた原稿を掲載しました。ご一読ください。(編集部)
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