振り返る 私の2005

■柳沢望 (「白鳥のめがね」サイト主宰、wonderland 執筆者)

  1. サ・カ・マ・ル・ン・ドⅦ(若尾伊佐子)
  2. (ポタライブ)

見ている舞台も少なく、偏っているので、以下あくまで極私的な回顧である。まず、ダンスでは、荒木志水、竹部育美、安次嶺菜緒、アダチマミなどの新しい才能に注目したが、公演としては若尾伊佐子の「サ・カ・マ・ル・ン・ドⅦ」を挙げたい。動きが瑞々しく息づいている状態を持続して見られるという、稀な機会が得られた。彼女のその後の模索が作品に結実する日を待ちたい。演劇で注目したのは、ポタライブだった。作品を一つ選ぶなら、「断」を挙げたい。路上を舞台とし、虚構の鏡に街の歴史を浮かび上がらせる手法を開拓した功績は大きいはずだ。もう一本選ぶ約束だが、その枠は今年見られなかった多くの舞台のために空欄としておきたい。

■高野しのぶ(「しのぶの演劇レビュー」サイト主宰)

質の高い新作を生み出した若手の脚本・演出家は青木豪氏(『海賊』)、岡田利規氏(『目的地』)、桑原裕子氏(『南国プールの熱い砂』)、田村孝裕氏(『ゼブラ』)、前田司郎氏(『キャベツの類』)、本谷有希子氏(『乱暴と待機』)。特筆すべき企画は『ニセS高原から』。三条会の関美能留氏など演出家の力を見せつけた。注目の演出家・西悟志氏が『ニッポニアニッポン』を最後に演劇創作から離れているのが残念。
AAF戯曲賞ドラマリーディングTOKYOSCAPEなど、東京と他地域との交流企画が充実。人と人とをつなぐ演劇の輪をさらに広げてもらいたい。
(注)ことしの3本は小劇場公演(客席数300席以下の劇場での自主製作/ただし劇場プロデュースを含む)の中で、私が観た作品から選出。12月23日時点の2005年観劇本数は275本。文中のタイトル・人名・企画名はあいうえお順。

■鈴木麻那美 (wonderland 執筆者)

  1. 百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん(KUDAN Project
  2. 炎のメリーゴーランド(KATHY
  3. 君のオリモノはレモンの匂い(ゴキブリコンビナート

1. 実際のところは約170人が出演。舞台上に群がる、だけど、ひとりひとりがそれぞれに「イキテ イキシテ イキテイル」天野ワールドを体現していて、その様は脳裏に焼き付いています。圧巻でした。
2. 小劇場系ではめずらしい(?)女の子エッセンスも満載なエンタテイメント。そしてキテレツ。だけどメルヘン。
3. なんていったらいいかわからない全編ミュージカル、で実際なんて言っていたかわからない。地下なのにまるで野外なセットと、その情熱がとにかくすばらしかったです。
今年も振り返らせていただきましたが、なんだかインパクトだけで3本決めてしまった感じもあります。3本目はどうしようかと正直迷いました。野鳩『お花畑でつかまえて…』も、一転、ウェルメイドでよかったなあと思います。だけどとにかくインパクトで決めてみました。

■河内山シモオヌ (サイト公開準備中:中身は国内外の舞台や関連書籍・珍画像の記録、別名義での仕事/月刊誌インタビューなどについてwonderland 執筆者

・今年の3本─なし

いくつかの小劇場の舞台に、スリルを感じながら観客として立ち会うことができました。成功だったとは言いにくい実験もありました。どちらも1年という輪切りの枠を設けて等区画に作品を収め、眺めてみるには適さないものでしたので「なし」とします。小劇場演劇を含めた「コンテンポラリー=同時代の」作品は、作家(演出家)の思想や感受性なり、ものの見え方にじっくりつきあう時間と空間が必要だろうと思います。そうやって思考と洞察を積み重ねることで、実社会の今に伝わる言葉が生まれてくる、と私は考えています。
参考:アーカイブ「カイコに寄す」 http://www.wonderlands.jp/archives/11989/

■清角克由 (「SayCorner!」サイト主宰)

  1. 博多湾岸台風小僧(劇団桟敷童子
  2. 海賊(グリング
  3. 12人の優しい日本人(三谷幸喜作・演出、PARCO劇場

桟敷童子は、2002年に初めて見て以来期待させていただいている劇団です。今年は初テント公演等もあり、注目されましたが、作品的にはスズナリ進出作である本作を選びました。役者・脚本もさることながら装置の素晴らしさは舞台を見るものの楽しみだったりします。周囲で評判がよかったもののなかなか見に行くことが出来なかった劇団にも今年は足を運びました。中でもグリングの本作品は、主演の中野英樹さんはすごい役者さんだと思いました。再演作の多かった(ちょっと変わった所では、唐組の「カーテン」もその実再演でした)中では、やはり三谷さんのこの作品を選びました。来年は、野田さんも三谷さんも新作を期待したいところです。

■UK (「小劇場系」サイト主宰)

  1. 海賊(グリング
  2. 俺は人間(小指値
  3. 吾妻橋ダンスクロッシング2005(企画・構成:桜井圭介)

小劇場系演劇実践は今、従来的な〈物語系演劇〉への回帰と表象をイジる〈身ぶり系演劇〉への志向とにはっきりと枝分かれしつつある。2005年における前者の代表としてグリング『海賊』、後者の代表として小指値『俺は人間』を上げてみた。前者は口コミで話題となったこと自体が話題となったが、同様の現象はスパンドレル/レンジの〈物語系演劇〉『家族喪失』でも起きた。その種の演劇への観客の枯渇感や回帰願望が感じられた。後者は初見で印象的だったので上げた。ここ数年、チェルフィッチュ、野鳩、シベ少、三条会、地点等々、表象をイジる演劇が増えてきたが、小指値は特にコンテンポラリー・ダンス的実践に近づく可能性を胚胎していると現時点では感じている(でなければ現在の評価はひっくり返る)。後者におけるジャンル溶解現象を象徴するかのような上演として『吾妻橋ダンスクロッシング2005』を上げておく。文句なく素晴らしい企画だった。

■吉田ユタカ (wonderland 執筆者)

  1. オセロー(ク・ナウカ
  2. 仮面軍団(南河内万歳一座
  3. 海神別荘(茂山逸平ほか

[悲喜こもごも、三者三様の愁嘆場] 夏場以降、仕事と労働組合活動に追われたことを言い訳として「ことし下期になんとか観劇できた3本」になっています。
1は本サイトでもレビューが紹介済み。本公演では能の演技技法までを採用したわけではなく、そもそも能舞台にも重厚な情動の表出があるので「能舞台であるから情動の表出は殺がれてる」との感想は二重の誤解。 2は17年ぶりの再演となった若者と老人の話。バブル景気で我が世の春を謳歌していた当時の日本と、人口減に突入するらしい2005年の日本を比べるにつけ、内藤裕敬の時代を見る目のするどさをあらためて実感。 3は狂言・能・現代演劇のコラボレーション。泉鏡花の幻想世界を加納幸和があでやかにコミカルに再構築。能面姿で美女を演じた味方玄の演技に感嘆。昨年のシリーズ1作目は「高野聖」だったようなので、「夜叉ヶ池」か「天守物語」で次作を期待。

■かわひら (「休むに似たり。」サイト主宰)

  1. パーフェクト・キッチン(リュカ.
  2. ブラウニング・バージョン(自転車キンクリートSTORE)
  3. おかしな二人(Super☆Grappler

(1) リュカ.は、2つの小公演を重ね、自信の再演作を。独立した兄弟たちを軸にすえて、家族の物語を描くというのは王道のやり方ですが、ありがちな葬儀の場を使わず、全体をスタイリッシュに仕上げるというセンスの良さ。
(2) じてキンはテレンス・ラティガンの3本を3人の演出家という企画公演の一本。定年近くの厳格な老教師の心の奥底にあるガラスのように繊細さにあたしの気持ちが底から震えるのですが、まさか翻訳劇でこの体験とは。
(3) スパグラは小劇場では最近なかなかないエンタメ系。観客の気持ちに沿ってすすむストーリーラインが気持ちよく。衣装や開演前のスライドなど貧乏くさく見せないよう、隅々まで心配られているのが、すてきなのです。

■葛西李奈(「女子大生カンゲキノススメ」サイト主宰、wonderland 執筆者)

  1. 女殺駄目男地獄(仏団観音びらき
  2. オタンジョウ日警報(女体道場
  3. ニセS高原から(蜻蛉玉

三団体、共に女性が主宰を務める劇団である。全ての男女キャストを書き換えることによって女性の視点から「S高原から」を描き出した『蜻蛉玉』、学習障害など難しいテ―マを扱いながら社会に適応する事が出来ない人々の真実を見せつけた『女体道場』、駄目男にハマる女性心理を徹底的に笑いに昇華させエンターテイメントに仕立て上げた『仏団観音びらき』、いずれも生活の中で見落とされている痛みを、丁寧に拾い上げ作品に取り込んでいる姿勢が感じられ、好感が持てた。いろいろと考えた末に、私の趣味嗜好に素直に寄り添い三本を選ぶことを決めたのだが、あまりにもそれが露骨に表れていてお恥ずかしい限りである。

■熊上みつみ(「X-ray」サイト主宰)

  1. わが町(小鳥クロックワーク最期公演)
  2. トルコぷ呂伊勢海老(P情サロン)
  3. スロウライダー机上風景ブラジル乞局あたり

1.2.は再演。1.は「ただ歩くだけのこと」に、何やら説明のつかない高揚感に包まれ、観劇後、ワイルダーの戯曲をネット古書店で探し、映画のビデオをレンタル、劇中、使われた音楽に浸ったり。汗と涙と唾液と鼻水にまみれた丹羽克子さんの表情を思い浮かべたり。いずれも、久々に「舞台を反芻すること」を楽しめる公演だった。
3.は、旗揚げ5年、公演回数10回を超えて、中堅に足を踏み入れ、これから真価が問われる一群といったところ。2007年、どう変化していくのか、見守りたい。

■吉田俊明(「デジログからあなろぐ」サイト主宰、wonderland 執筆者)

  1. SL(劇団千年王國
  2. 百千万(劇団鹿殺し
  3. ケンちゃんの贈りもの(弘前劇場

昨年の後半から始まった観劇のルーチンワーク、徐々に本数を増やしながら今年は年間170本を越える作品数を達成してしまった。就職活動と並行しながらの観劇の所為でGWには体調を崩すなどの難所もあったが何とか乗越えつつ、地道に数をこなした。その中から上の3つを選んだ理由は東京以外の地域出身(の良作)ということだけだ。基本的に他地域から東京にやってくる劇団は質が高い、良い作品を持ってきてくれる。だから私は敢えてこう言う「折角東京に住んでるなら、地方の芝居を見なさいよ」と。年の瀬の今、論文の執筆で芝居は観れない、来年からは就職で芝居が観れない、そんな私ですが来年もよろしくお願いします。

■北嶋孝(wonderland 編集人)

  1. アトリエこけら落とし公演 2005年日本近代らりぱっぱ4部作(山椒太夫、砂の女、班女・卒塔婆小町、ひかりごけ)(三条会
  2. 「S高原から」連続上演会(「ニセS高原から」、五反田団組、蜻蛉玉組、ポツドール組、三条会組)+青年団
  3. ポタライブ・シリーズ(特に吉祥寺編「源」「断」)(ポタライブ

<からだ・ことば・こえ・うごき>+<いま・ここ>が希有に出会った「ひかりごけ」は圧倒的だった。「ニセS高原から」は平田オリザの戯曲・演劇論が広く深く浸透していることを示す好企画。ポタライブは不定型な可能性にひかれた。チェルフィッチュの活動が注目されたように、今年は日常と地続きの「語り口」を取り入れた芝居やダンスが広がった。パパ・タラフマラ「三人姉妹」はまた別の入り口から、その語り口を具体化したのではないだろうか。トリコ・Aプロデュース「潔白少女、募集します」はこれからが楽しみな才能。三浦基の「地点」は「雌鳥の中のナイフ」などで力は示したけれど、昨年の「三人姉妹」のインパクトが強すぎた。TextExceptPHOENIX+steps「ニッポニアニッポン」公演も飛躍のカオスを感じる。

■西村博子(タイニイアリス・プロデューサー)

私は惚れっぽいせいか、どの芝居も、創る人のそれを創らないではいられなかった心がポンと響いてくると、なぜそう感じたかということと手法との関係ばっかり考えていて優劣には頭がいかない。上は順序なしの上演順です。
翻訳劇や名作の新演出のほとんどは結局、現在に不満のない人の教養あるいは知的楽しみにすぎないと私は思う。変える力はない。芝居は、どんなに貧しく無理算段でもやっぱりオリジナル。その、ないないが魅力に転化する瞬間こそ劇的である。ひそかにマークしてる劇団、まだまだ多いです。
上海戯劇学院「三生石」は羨ましかった。舞台に在ったのは転化する智恵と、身体についた魅力的な芸能(technology+ability)と、物語性も含めて自国の伝統への関心。日本の小劇場演劇(Alternative Theater)も負けないで!!

■鈴木雅巳(デザイン+フォト)

  1. あ・うん(下町ダニーローズ)
  2. 海賊(グリング
  3. 伝統と創造「邦楽とダンスの今」(真島恵里,トチアキタイヨウ,三浦宏之,JOU,他)

「あ・うん」落語家、舞台役者、映画俳優、コメディアン、活弁士、ミュージ シャン、アイドル、有象無象の劇団が、笑えて泣けてという喜劇の王道で挑ん だ向田邦子作品。笑えたし泣けた。稽古からスチール撮影で立ち会ったのだ が、撮っていてもグッと来てしまうことも度々だった。向田さんの遺族、テレ ビ局のバックアップを得て今年12月に再演決定。
「海賊」グリングは役者のバランスがとてもいい。脚本も巧みな構成になって いるのだが、芝居も脚本も「巧いな~」と唸ってしまうイヤらしを感じなかっ た。伝える術より、伝わる感情が大事。それが逆の芝居の方が評価されがちだ が。
「邦楽とダンスの今」琴ってこんなに激しい楽器だったのか、踊りというのは 精神の反射神経を試すものなのか、などと感じながら観る。演者、観客双方に 発見がある、正しいコラボレーションの形。

■志賀信夫(「舞踏批評」サイト主宰、舞踊批評家)

  1. 禁色(伊藤キム×白井剛、世田谷パブリックシアター
  2. ダヴァン(サシャ・ヴァルツ&ゲスツ、びわ湖ホール
  3. 目的地(チェルフィッチュ、びわ湖ホール

『禁色』は賛否両論だが、美しい舞台だった。シンプルなデュオで同性愛を示しつつ、チンチンダンスで笑わせる。キムの動き、白井の動きともに非常に見応えがあった。白井もこれ以降、その力量はさらに高まったことが、『質量,slide,& .…』再演にも現れていた。『ダヴァン』はサシャ・ヴァルツ振付ではないが、リアリズム、社会性、前衛性など本当に多様な読みができ、かつ神秘的で美しいという稀有な舞台。見逃した人は惜しい。岡田利規はNHKで放映され、小説も発表するなど注目されているが、『目的地』は日常と混沌と地域性を巧みに組み合わせた作品で、実験的でありつつ物語も面白く、引き込まれてしまった。