振り返る 私の2008

◇鈴木励滋(舞台表現批評、「記憶されない思い出」)

  1. 「CASTAYA」公演百景社「A+」演出・構成/鈴木史朗(A.C.O.A.)(SENTIVAL!
  2. 東京デスロック「演劇LOVE 2008~愛の行方3本立て~」から倦怠期「CASTAYA」
  3. 「UNPUBLIC IMAGE LIMITED」(三軒茶屋Heavens Door、12月14日)

傑作を三本選ぶのであれば、時間堂「三人姉妹」・ハイバイ「て」・三条会の「近代能楽集連続公演」だが、記憶に残る公演となると上記3本となった。
ベケットの「ロッカバイ」を分解して最小限の言葉と説得力に満ちた身体で再構成し、老女の孤独な最期の時間を、祝祭であるかのように見せた1。
無言で女優を40分立たせた後、意表をつく言語で喋らせ、解説を装いさらにもう一捻りする。解釈すること、さらには「本当」とは何かまで問うた2。
松本じろのギターと歌声はいつ聴いても男惚れする。高橋啓祐のVJも素晴らしく、そこで東野祥子・黒田育世・室伏鴻らが踊る奇跡の夜。山川冬樹のパフォーマンスに度肝を抜かれた。3の首謀者スカンクにひたすら感謝! 年間観劇本数180本。

◇高木龍尋(wonderland執筆メンバー)

  1. 「審判員は来なかった」公演ペンギンプルペイルパイルズ「審判員は来なかった
  2. 桃園会「お顔」
  3. France_pan家族っぽい時間

干支一周り居座り続けた大学から離れて、全く時間感覚の違った場所に移ったこともあり、芝居を観に行くために使う時間も変わってしまった。おかげで観た本数も微減というところ。さておき、PPPPについては以前にメルマガに載せていただいた文章があるので割愛。桃園会の公演はB級突撃隊の佃典彦の作を深津篤史が演出した作品であった。人の顔を認識するというのは人間にとって特殊な能力なのだと聞いたことがあるが、それを如実に嫌な雰囲気で思い出させてくれた。France_panについてはいずれ書くつもりでいるのだが、一個人にとって「家族」という最も身近でありながら最も異質な関係を、これまた嫌な感じで舞台に載せていた。なぜか芝居の出来としてではなく、嫌な感じの芝居を選んでいるような気がする。今年の観劇数はおよそ60本ほど。

◇芦沢みどり(戯曲翻訳)

  1. 「死の天使」公演ヤン・ファーブル「死の天使
  2. チェルフィッチュ「フリータイム」
  3. ダンスシアター他動式「いつかの休日」

非正規労働者メッタ切りの嵐が吹きまくる年の暮れ。メディアは連日、路頭に迷う若年労働者の姿を伝えている。身の置き場がない、身を切られる等々、身体にまつわる慣用句が身に沁みる年の瀬ではある。気になる身体表現の舞台を3つ挙げてみた。1は映像の中でただずむフォーサイスと、極小の舞台でうごめくダンサーを組み合わせ、男と女、生と死などの境界をあいまいにすることで観客を挑発した刺激的な舞台。2はファミレスでの出勤前の30分が自由な時間だという派遣社員の女性の話。いつもの身体表現が現実味を増して来た。3は黒沢美香と5人のダンサーが港大尋の音楽に乗って知的に軽やかに踊る。自由への憧れをかきたてる闊達なダンス。年間観劇本数75本。

◇徳永京子(演劇ライター)

  1. 「紙ひこうき」公演ファビアン・ブリオヴィユ+バレエ・ノア「紙ひこうき」
  2. サモ・アリナンズ「洞海湾」
  3. ハイバイ「て」

奇跡を目撃している、と客席で心臓がバクバクした『紙ひこうき』。日本人女子高生が、ヴッパタール舞踊団のダンサーとワークショップを経てつくり上げた作品だが、今、女子高生が立たされている断崖の切り立ちの深さ、そこから見える絶望の風景をクールなダンスで見せつけられた。演劇全体では、いくら若くて力が安定していないとは言え「前回あれほど良かったのに、なぜ今回は」と愕然とさせられるケースが目立った。その一方で「全作が当たりだと思われても困る」と言いながらハイスコアを叩き出し続けるケラリーノ・サンドロヴィッチ、相変わらずの大作大量演出で気を吐く蜷川幸雄は頼もしい。若手で演出家として著しい成長を感じたのは田村孝裕。観劇数年間約200本。

◇ハセガワアユム(劇作・演出家、MU主宰、プロデューサー、俳優・ナレーター、「プチレビュー地獄」)

  1. 「機械と音楽」公演reset-N「閃光
  2. Bunkamura「どん底」(上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)
  3. 風琴工房「機械と音楽

戦ってる作家が好きです。
1. 「私演劇」と言って構わない曝け出しっぷりと、それらをメタ構造やナレーションでカットアップしながら、虚も実も交えて等身大のファンタジーを創り出したことを讃えたい。
2. 海外小説に「意訳」や「超訳」などの挑戦はあったが、演劇界でゴーリキーを現代にリライトするなんて、それがKERAだなんて! 古典を演出のみでなんとかしようとしていること自体がナンセンスに見えてしまう程、作家が戦って証明した秀作。
3. 100年前のロシアを舞台に建築家たちのロマンを描いているが、知識や情報のカタログにはさせないという気概を感じる。半径5メートルの生活まんまや、既存のパロディしか書けない劇作家の貧乏さに辟易しているので、どれも演劇ならではの挑戦が「作家」視点であったのが頼もしいです。年間観劇本数=60本。

◇高田匂子

  1. 「焼肉ドラゴン」公演新国立小劇場「焼肉ドラゴン」(鄭義信作 梁正雄/鄭義信演出)
  2. 劇団「劇作家」「若草物語」(佐藤喜久子作、山本健翔演出)
  3. 熊本・劇団0相「アクワリウム」(河野みちゆき作 宮沢章夫アドバイザー)

まず何といっても日韓合同公演「焼肉ドラゴン」。逃げず、おもねず、さからわず、こんなにも真正直に正面から在日社会を描ききって、渾身の力作である。彼の作品は、しっかりとした構成の中に、いつだって少数派に対する思いやり、共感、励ましが散りばめられ、観る者の胸をせつなく揺さぶる。さすが、鄭義信である。
次に「若草物語」。この作品は、劇作家の集団、「劇団劇作家」が始めた「劇読み」の1本で、ここで佐藤喜久子は、等身大とおぼしきミッションスクール出身の同級生3人の中年女性を登場させ、みずみずしい感性で観る者に迫ってくる。
そして、もう1本は、「アクワリウム」。地方とはいっても、土匂う文化といったものではなく刺激を発信しているという感覚・・・、水俣病の「み」の字さえ決して言ってなくとも、ああ・・と思わせる演劇的ひろがり。その3ヵ月後に観た「hg」との違い。
この3本以外では、タイニイアリス、韓国南北競演のどれもが素晴らしかったし、三条会「綾の鼓」の「エロって、いやあね。」のリフレイン。シナリオ的手法を使いそれを演劇化した競泳水着の上野友之、柿喰う客、中屋敷法仁のナルシストとパワフルさ。乞局の下西啓正、こゆび侍の成島秀和、明治大学の友寄総市浪など気になる存在である。
最後に、チャリT企画「ネズミ狩り」。いつもの楢原君とは違う感じの作品であったが、今、演劇をするということを考えさせられ、彼の演劇への思いに胸が痛かった。年間観劇数はリーディング以上、演劇未満も含めて147本でした。

◇山内哲夫(編集者、「100字レヴュー」「小劇場カレンダー」)

  1. 「リズム三兄妹」公演五反田団といわきから来た女子高生「あらわれる、飛んでみる、いなくなる。」(アトリエヘリコプター)
  2. 岡崎藝術座「リズム三兄妹」「はやねはやおき朝御飯
  3. サンプル「家族の肖像」(アトリエヘリコプター)

※ダンス公演は除き演劇限定で選出。
今年は新国立作品が失敗企画を連発で、五反田団もそれに巻き込まれた格好ですが、アゴラとヘリコプターでは、ここ数年でも文句なしに面白い公演。とくに、五反田のアトリエは、昨年のハイバイの傑作連発やむっちりみえっぱり復活の功績もあり、国内有数の小劇場スペースに育ったと思います。岡崎藝術座の様々な試みが花開いたのも今年。同時期の東急電車の走っている車両を使った多摩川劇場も面白い試みでした。ほかに、霊感少女ヒドミ、苛々する大人の絵本はユニークで素晴らしい。松尾スズキ(女教師は二度抱かれた)と平田オリザ(眠れない夜なんてない)の高みも美事でした。チャリT企画の「ネズミ狩り」、アトミック・サバイバーなど社会派もよかったですね。年間観劇本数204本。

◇高橋楓(マガジン・ワンダーランド【レクチャー三昧】担当)

  1. マミノ・ノゾミ三部作公演青年座「赤シャツ」(再演)
  2. 木ノ下歌舞伎「三番叟/娘道成寺」
  3. 水族館劇場永遠の夜の彼方に

その他、リミニ・プロトコル『ムネモパーク』、燐光群『シンクロナイズド・ウォーキング』、庭劇団ペニノ『苛々する大人の絵本』。芝居ではないので<番外>に早稲田大学『60年代演劇再考』。年間観劇数は約百本。

◇楢原拓(劇団チャリT企画主宰・劇作家・演出家)

  1. 「メスブタ」公演ハイバイ「て」
  2. 劇団文化座てけれっつのぱ
  3. 犬と串「メスブタ」

不勉強ながら、今年もほぼ関係者の芝居しか観ておらず、大層なことは申し上げられませが、その中でも特に印象に残った3本を挙げたいと思います。
ハイバイは初見でしたが、主宰の岩井さんの役者としての魅力が強く印象に残りました。
文化座はバリバリの新劇系老舗劇団ですが、「明日も頑張ろう」と思わせられた数少ない作品です。
犬と串は早大劇研の後輩劇団で今年旗揚げしたばかりですが、センスの良さと役者のバカテンション具合に圧倒されました。今後が楽しみです。
素晴らしい舞台はもっとたくさんあったのでしょうが、ことごとく見逃しました(T.T)。来年こそは…。年間観劇本数=72本。

◇玉山悟(王子小劇場)

  1. 「機械と音楽」公演風琴工房「機械と音楽
  2. 快快「ジンジャーにのって」
  3. カミナリフラッシュバックス「OL祭り」

えこひいきしているわけではなく、毎年自分とこの劇場が上にくる。自分でプログラム選んでるんだからそりゃそうか。わたしがいたるところで『東京でイチバンおもしろい』といっている快快をおさえての1位は風琴工房。時代に翻弄される芸術家の魂の叫びの向こうに、現代で演劇に取り組んでいるこの世界の人たちを重ねてみてしまいました。
「OL祭り」はそういう公演があった、というのではなく、カミナリフラッシュバックスがイベントでよくやっているOLが大暴れする出し物。これは必見ですよ。
他に印象に残ったのは「市電うどん」とエビビモpro「川中島cats」ぬいぐるみハンター「髪型があ」smartball「Kiss me,deadly」。夏場に脚を2回骨折したこともあって、今年の観劇本数は100から200のあいだ。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」年末回顧特集2008臨時増刊号(2008年12月21日、22日発行)
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