振り返る 私の2009

ハセガワアユム(劇作・演出家、MU主宰、プロデュー サー、俳優・ナレーター)

  1. 「エモーショナルレイバー」公演ミナモザ「エモーショナルレイバー」
  2. 該当無し
  3. 該当無し

振り込め詐欺の裏側をマンションの一室で描く会話劇。フライヤーの藤沢とおるの漫画のように、台詞はフキダシの如く細かく繊細、なのに舞台上では大胆な異人種交流が行われる。ギャル、ネカフェ難民、元高学歴、自意識過剰系の地味な女など、接点が無いだろう人種が「犯罪」で繋がることで、彼らが自分の「セカイ」に居ただけでは起こりえない会話が生まれる。演劇村では擁護されることが多い「自分探してます」的なネカフェ難民を、ギャルが「この人の話つまんなーい」と一言で砕くエッジってすごいじゃん。演劇村崩壊だけど、それがリアル。しかもこのギャルが「男達は銃の代わりに携帯電話を持って戦争をしている」と「セカイ」を越えて「世界」まで踏み込んで来てキリキリする。年一回のスローペースなので未見の方も多いだろうが、だからこそ僕は推す。いまだに自意識が蔓延する「セカイ」的な演劇が多い中、「世界」の夜明けを感じる。この光に馴れないと。
年間観劇本数 50本。

北嶋孝(ワンダーランド編集発行人)

  1. キレなかった14才 りたーんず」(6人の演出家による連続上演)
  2. フェスティバル/トーキョー09春「転校生」(平田オリザ作、飴屋法水演出)
  3. 渡辺源四郎商店「どんとゆけ

「キレなかった14才 りたーんず」は企画が日ごとに膨らみ、参加者の裾野も広がる自主自発、創意発展のひな形バージョン。この企画全体が劇場であり舞台であり作品だったと言っていいだろう。特に「14歳の国」の杉原邦生演出には新鮮な強度を感じた。
「転校生」は飴屋演出の切れ味もさることながら、最初に彼を引き出したSPACの宮城聡芸術監督、再演を企画した相馬千秋FTプログラムディレクターの「発見」が光る。
柴幸男、神里雄大の作品や劇団堀出者の公演も記憶に残るが、最後の枠に小細工なしの「どんとゆけ」を選んだ。東京公演は昨秋だが、今年2月に広島公演、12月にNHKBSで放映された。軽い言葉と華奢な論議に決着を迫る凄みの一作。
年間観劇本数 約150本。

高田匂子(専業主婦)

  1. うずめ劇場「ねずみ狩り
  2. 演劇集団 円「コネマラの骸骨
  3. 座・高円寺「旅とあいつとお姫様

1 は、シンプル・イズ・ベスト。2 は座付き翻訳家、芦沢みどりのこなれた台詞。3 は美しく、そして毒がある…。この作品を、杉並区の全4年生に招待した座・高円寺の志の高さに脱帽。
それから燐光群「BUG」西山水木の熱演、青年団国際交流プロジェクト2009「交換」とつづくのだが、気づいたらみんな翻訳劇。本当は私、日本の創作劇が好きなのに…。中津留章仁、畑澤聖悟、相馬杜宇と気になる作家がつづくのだが、「いつだって おかしいほど 誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」の三浦直之は、特に注目。けど、年末、最後の最後に、やってくれました。スポーツ演劇「すこやか息子」。やはり中屋敷法仁、ただもんじゃない。
今年の観劇数、267。

黒澤世莉 (演出家 / 時間堂主宰)

  1. DULL-COLORED POP「ショート7
  2. La Compagnie An「月いづる邦」
  3. フェスティバル/トーキョー実行委員会「地獄篇 (神曲3部作)」

2009年も例年通り、順位にそれほどの意味はない。選外にも佳作は多かった。例外は「エリクシールの味わい」。ダントツに良かった。戯曲はどれも良かった。作家は本当にたくさんいる。演出家としてはロメオ・カステルッチ、松井周が素晴らしい。スケジュールの都合でF/Tをほとんど見られなかったが惜しまれる。
年間観劇本数 89本。

水牛健太郎(ワンダーランド編集長)

(観劇順)
演劇との縁は深まり、毎日何かしら演劇に関することをしているのに、観劇本数は減り、そして不機嫌な観客になったような気がする。「うれしい」「楽しい」ことが減り、「苦しい」そして何より「眠い」ことが増えた。そうした中で文句なく見る楽しさ、興奮を味わわせてくれた作品を選んだ。  年間観劇本数 約50本。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第171号(2009年12月23日発行)の「年末回顧特集2009」から。
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