振り返る 私の2014

今井克佳(大学教員)

  1. 東京芸術劇場「障子の国のティンカーベル」(奥村佳恵バージョン)
  2. テアトロ・デ・ロス・センティードス「よく生きる/死ぬためのちょっとしたレッスン」(ふじのくに⇆せかい演劇祭公演)
  3. SPAC「マハーバーラタ」(KAAT公演)

チラシ52 諸事による多忙で、観劇回数も一時期の半減以下になりここに投稿するのも恥ずかしいが、まとめとして書く。1は野田秀樹の幻の戯曲を盟友マルチェロ・マーニが演出。皮肉にも企画を温めてきた毬谷版より若い奥村版の演技に感嘆。2は体験型演劇で、参加者に擬似的な「死」を体験させてくれる。こういうのは問題意識を喚起し、常識を疑うといったコンセプトが多いが、これはむしろ瞑想的で終わった後リフレッシュされた感があった。3は今年の演劇的事件として外すわけにはいかない。アヴィニョンまで行けなかったのは残念だが横浜の凱旋公演も素晴らしかった。その他、tamagoPLIN「さいあい〜シェイクスピア・レシピ」、新国立劇場「マニラ瑞穂記」、文学座「信じる機械」、ナイロン100℃「パン屋文六の思案」、KUNIO11「ハムレット」、悪魔のしるし「わが父、ジャコメッティ」、地点「コリオレイナス」、同「光のない」などが印象に残った。関連する話題として今年からNT Liveが映画館で始まり、本場の舞台映像を手軽に鑑賞できるようになったのは嬉しい。
ロンドン日和+帰国後の日々」(休止中、2015年再開予定)
(年間観劇数 約50本)

堀切克洋(演劇研究 ・批評、パリ第7大学博士課程)

  • ヴァンサン・マケーニュ「白痴! なぜなら愛し合うべきだったから」(パリ市立劇場)
  • ジョエル・ポムラ「うちの子は」(ブッフ・デュ・ノール劇場)
  • アンジェリカ・リデル「ユア・マイ・デスティニー」(国立オデオン劇場)

 2014年はほとんどの時間をフランスで過ごした手前、本サイトの読者と経験がほとんど共有できない演目を列挙するのはいくぶん気がひけたのだが、日本国内に限っても同様の現象は起こるわけで、そういう意味では上記3はいずれも少なくともフランスの新聞や雑誌で十分に取り上げられたものである。したがって、これ以上に凡庸なチョイスはない。ただ逆に「みんなちがって、みんないい」的な態度は、どこまでいっても個人的な総括にしかならないのであって、私が読みたいのは「舞台芸術全般」を観察し、なるべく大きな問題系を設定できる批評家の文章である。総括すべきは「演目」ではなく、そこからどういう美学的・歴史的・社会的な問題を引き出しうるかということ。
(年間観劇数 約200本) 

中西理(演劇舞踊評論、中西理の下北沢通信)

  1. 悪い芝居「スーパーふぃクション」
  2. 鳥公園「緑子の部屋」
  3. Cui?「止まらない子供たちが轢かれてゆく」

waruishibai_superfiction00a 今年は最近では珍しく豊作な1年。3本に絞り込むのは困難を極めた。アビニョン演劇祭で大きな成果を残したSPAC(宮城聰)を筆頭に維新派、青年団、ミクニヤナイハラプロジェクト、マームとジプシーらベストアクト常連組はいずれも好舞台を見せてくれたが、「振り返る私の2014」では今後の演劇界を引っ張っていきそうな勢いを感じさせた若手の舞台を選んだ。
 ここ数年関西で面白いのはと聞かれると悪い芝居と木ノ下歌舞伎と答えてきた。昨年(2013年)「東海道四谷怪談 ~通し上演~」の上演などで木ノ下歌舞伎が躍進。悪い芝居はやや水を開けられた感があったが、今年(2014年)は「圧倒的な虚業を目指す」と宣言する主人公を登場させた一風変わった音楽劇「スーパーふぃクション」で突き抜け、山崎彬(=悪い芝居)は一気にこの世代のトップランナーに躍り出た。 一番勢いのあった頃の大人計画、ナイロン100℃を思わせる迸るようなエネルギーを感じさせた。
 一方、さらなるネクストジェネレーションの萌芽を感じさせたのが鳥公園(西尾佳織)とCui?(綾門優季)。いずれもままごとやチェルフィッチュなどが手掛けてきた叙述や劇構造の実験性をさらにもう一歩推し進めようというような作風で今後の活躍が期待できそう。
中西理の下北沢通信
(年間観劇数 150本) 

武藤大祐(ダンス批評家)

  1. 黒沢美香&ダンサーズ「jazzzzzzzzzzz-dance」(11月、横浜中華街 同發)
  2. 指輪ホテル「あんなに愛しあったのに~中房総小湊鐵道篇」(4月、小湊鐵道)
  3. 三陸国際芸術祭2014/「三陸・韓国・インドネシア、郷土芸能の競演」(8月、大船渡 碁石海岸キャンプ場)

チラシ55(jazzzz武藤) いつかまた見たい、忘れがたい上演をピックアップしてみたら、劇場ではない場所で行われたものばかりになった。「ジャズズ…」はいかがわしい空間に過剰な高密度でひしめく群舞、こんな悶絶寸前の体験は生涯で初かも。三陸もフィナーレは鹿踊と韓国の農楽とバリ・ガムランが共演してしまう未曾有のカオス。色々な思いが音と踊りになって渦を巻いていた。指輪は電車まで振付を施された祝祭的な「動き」のドラマ。終演後、千葉の山間の谷でしばらく蛙の声を聴いていた。他に、劇団どくんご「OUF!」(4~11月/全国各地)、かもめマシーン「おはよう日本」(2月/福岡 冷泉荘)も素晴らしかった。
サイト
(年間観劇数 公演数=118、作品数=207)

矢作勝義 (穂の国とよはし芸術劇場 事業制作チーフ)

  • KAKUTA「痕跡」(作・演出:桑原裕子、青山円形劇場)
  • 北九州芸術劇場「彼の地」(作・演出:桑原裕子、北九州芸術劇場小劇場)
  • ロ字ック「荒川、神キラーチューン」(作・演出:山田佳奈、サンモールスタジオ)
    (順不同)

チラシ56(痕跡 矢作) KAKUTAの桑原裕子さんの特徴とされる群像劇というスタイルで描かれた、誰か一人の主人公にフォーカスするのではなく、様々な人々の日常が交錯する中から浮かび上がる生き様というものが、こちらにひしひしと迫ってくる2つの作品「痕跡」と「彼の地」でした。特に東京とは異なる時間の中で、現地の俳優・劇場と作品づくりをした経験はとてもプラスになったと思います。
 また、ロ字ックの山田佳奈さんも、今後が楽しみな作家・演出家の一人と思わせる作品でした。
 番外で、自分の劇場企画ですが「穂の国の『転校生』」。地元の高校生たちと平田オリザ作の「転校生」をアマヤドリの広田淳一さんの演出により上演しました。高校生だからと言って一つも手を抜くことなく作り上げた舞台は、今この時の彼女たちにしか表現できないものになりました。関わった高校生達にはとても重要かつ重大な経験になったようですが、地域における劇場の役割を改めて確認できた作品でした。
(年間観劇数 約120公演)

山下治城(やました・はるき)(映像プロデューサー・ディレクター)

  1. 東京グローブ座「夜中に犬に起こった奇妙な事件」鈴木裕美 演出(@世田谷パブリックシアター)
  2. 城山羊の会「トロワグロ」(@ザ・スズナリ)
  3. 青森中央高校演劇部「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら」畑澤聖悟 作・演出(F/T14@にしすがも創造舎)

チラシ57(城山羊 山下)今年は4月から5月にかけて肺炎になってしまい、観劇をほとんどすることが出来なかった。
とはいえ、その体調の悪い中、観た舞台がベストワン!数週間、演劇を見ないで
いい舞台を見ると舞台のすべてがココロの中に沁みこむように感じる。
この感覚に浸りたい!というのが私が演劇を見続ける一番の理由かもしれない。
また、今年は、優れた劇作家や演出家たちがこれ以上演劇を続けてていいのか?
ということを真剣に考えているという話を何度か聴いたことがある。
これは観客側の私たちの責任でもあるし、その根っこにはさらに
深い問題があるのかも知れない。
芸術表現を見たり体験したりすることによって
助けられている私のような人間がいるのだから
社会全体で芸術を支えていく仕組みができないか?と時々考える2014年でした。
(個人演劇ブログ「haruharuy劇場」主宰)
(年間観劇数 73本)

萬野展(OfficeBanno主宰)

  • クロムモリブデン「曲がるカーブ」
  • 財団、江本純子「人生2ねんせい」
  • ゴジゲン「ごきげんさマイポレンド」
    and
    ロ字ック「媚媺る、」

チラシ58(曲がるカーブ 萬野) 芝居を見に劇場に出掛けていくこと自体がとてもストレスフルなことで、なぜならそれが電波や回線の向こうで勝手にリピートされているものを見るような行為と違い、生身の人間に会いに行くことだから。
 それは、時代が進んでいかに受付業務や客あしらいが洗練されても、そういうこととはあまり関係がない。お金を払ったり貰ったりすることとも、あまり関係がない。
 ましてやこちらはひとりで、相手は何を考えてるかわからない(たぶんに怪しからぬことを考えているであろう)徒党の人たちが、企んで準備して待ち構えている。
 コミュニケートは基本的にストレスを含んでいる。
 そしてたぶんそれを感じなくなるほど芝居を見るということが自分にとって洗練されてしまえば、自分は劇場に行かなくなるだろう。
 よくわからない、会ってみるまで会いたいかどうかもはっきりしない相手と、かなり一方的なコミュニケーションをとりに電車やバスに乗ってでかけ、それでもなにかしら「ああ、そういえばあのときあんなこと言ってたな」とか「なんかあの顔をなぜだかときどき思い出しちゃうんだよな」と、消えてしまった傷跡がうずくように残っているもの。
 そういう個人的な基準での、今年の3本(プラス1)です。
officebanno
(年間観劇数 30本)

金塚さくら(美術館勤務)

  • 新橋演舞場「空ヲ刻ム者」(スーパー歌舞伎Ⅱ 脚本:前川知大)
  • CSB International「Shingo Yoshimoto Solo Dance Performance 『Happy days』」
  • あうるすぽっと「マクベス」(子どもに見せたい舞台シリーズvol.8 脚本・演出:加納幸和)

チラシ59(空ヲ刻ム者 金塚)広義でインパクトあった演出の3本。
「空ヲ刻ム者」:脚本にイキウメ前川知大、主人公は仏師。地味そうで心配したが、強引に宙乗りもこなした。大胆すぎる展開がありつつも、人物の気持ちの流れは丁寧で、仏師が辿り着く境地は深い。が、当代猿ノ助が佐々木蔵之介と手をつないで宙を飛ぶ演出に度胆を抜かれ、その記憶しか残らない。
「Happy days」:バレエダンサー吉本真悟が一編の物語を踊りで綴るソロ公演。小柄ながら確かなテクニックとダンスの域に収まりきらない幅広い表現力。キュートでコミカルな前半をひっくり返す構成に目論み通り泣かされるも、途中『津軽海峡冬景色』を熱唱しながら踊った光景があまりに異常で忘れ難い。
「マクベス」:子ども向けだが使う台本は坪内逍遥訳。そもそも選ぶ演目が四大悲劇。衣裳はTシャツまたはスーツで、舞台装置は冷蔵庫に洗濯機。沙翁生誕記念も兼ねる企画趣旨に対してどこをとっても大胆極まりないが、作品の核心を見事に描き、子どもたちも、何を思ったかは不明だが熱心に観ていた。
(年間観劇数 だいたい40本くらい)

でんないいっこう(自由業)

  1. 新国立劇場「ご臨終」モーリス・パニッチ作。吉原豊司訳。ノゾエ征爾演出。
  2. 青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクト「変身・アンドロイド版」カフカ原作。平田オリザ作・演出。KAAT
  3. シアターコクーン「火のようにさみしい姉がいて」清水邦夫作。蜷川幸雄演出。
    次点。「パン屋文六の思案~続・岸田國士一幕劇コレクション~」「わたしを離さないで」「背信」「昔の日々」「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと———」

チラシ60(ご臨終)1.卑屈な甥と無口な叔母の物語。間が多いが、どんでん返しが面白い。温水洋一さんがぐちぐち愚痴を言うのもぴったり。何でもよい、かまって貰えればとばかりに生きている老女をほとんど台詞が無く表現する江波杏子さん。円形状の舞台と多方向の階段出入口。途中べッドの向きを変えて観客へのサービスもあり、脚本、演出、俳優と味わいあるお芝居でした。
2.カフカの「変身」はどう表現されるのか、どれも興味がある。今回の作品は、あまりに可愛いロボットちゃんのザムザ氏で意表を突かれてしまった。また異国語で聞こえてくるが、慣れた日本語が字幕で目に入るとセリフがやさしく心に響くのも面白かった。
3.同じ役者であった年上の妻と、故郷に残した姉とが生まれ育った場所で出会う。成功した役者の男は疲れ切った無意識の心の中の狂気が対話で炙り出される。幻想シーンが美しく、二人の姉の対比が面白い。
(年間観劇数 41本)

中村直樹(会社員、総合批評誌「ヱクリヲ」所属)

  • SPAC「マハーバーラタ」
  • BONUS 「超連結クリエーション」
  • 「多摩1キロフェス2014」

チラシ61(多摩1キロフェス 中村) 今年はびっくりさせられた三本ということで選びました。KAATの劇場で観劇した「マハーバーラタ」では理屈を越えたワクワク感を感じました。ここまでのワクワク感は初めて! 「超連結クリエーション」はダンスの可能性を探るというもの。「雨を歌えば」の有名なシーンを解体して新たな作品を作ったり、即興でダンスを作ったり、そのダンスをその場で批評したり、ウインカーに繋がったヌンチャク状の木材、人間、gifアニメが一つとなって踊る様をみんなで見て、観客も一緒に意味を一緒に考えようというイベントでびっくりさせられました。「多摩1キロフェス2014」はここまで街とフェスが溶け込んだとびっくりさせられました。
 今年一年、良いものが見られました。来年も良いものが見られることを期待しています。
(年間観劇数 100本超)

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【注】
・記憶に残る3本は「団体(個人)「演目」」を基本とし、劇作家、会場、上演日時などを追加した場合もあります。
・演目名は「」でくくりました。
・ブログやツイッターのアカウント情報などはコメント末尾に記しました。

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