城山羊の会「効率の優先」

9.優先するのは…(平井千世)

 会社では私情は不要なのか。会社では何よりも仕事が優先されるのか。会社では犠牲が付きものなのか。仕事は人命より大切なのか…

 ここはある会社のオフィス。会社の選りすぐりのエリートたちが集められている企画部。登場人物は、会社の専務(岩谷健司)と企画部の社員8人。女性は、美人で仕事ができる部長(石橋けい)、かわいらしい声がチャームポイントのきれいな女、神崎(松本まりか)、目立たないタイプの事務員 高橋(吉田彩乃)。男性は、部長の腰ぎんちゃくの課長(鈴木浩介)、最近結婚した男 秋元(金子岳憲)、最近離婚した男 田ノ浦(岡部たかし)、総務から異動してきた若い男 佐々木(松澤匠)、デカくて、力が強く、強面の男 添島(白石直也)の5人だ。
 女性部長の厳しい態度や恋愛感情のもつれによるストレスが部内に蔓延し鬱積した感情が、やがて、事故や事件を生む。最後には、女性部長までが…

 城山羊の会主宰の山内ケンジは、「ソフトバンクの白戸家シリーズ」などCMディレクターとしても数々の作品を手がけており、CM界のヒットメーカーでもある。『効率の優先』はオフィスを舞台にしているが、舞台演劇ではオフィス物は少ないようだ。実際、演劇関係者は会社員経験がない者が多く、オフィス物の舞台は会社員にとって違和感がある作品が多いと言われる。電通映画社出身で会社員経験が10年あるという山内だからできたのだろう。『効率の優先』にはどこかにありそうなオフィスが描かれていた。こんな会社あるわけないと思いながらも、まったくないとは言えないな、いや、ありそうだ! なんて思いを巡らせながら引きこまれ、見入ってしまう芝居だった。

 この舞台で気になったのが登場人物の3人の女性だ。女性部長は、男性社員が「すごいパワフルで頭が上がらない」と言うほど仕事ができる。よく通るきれいな声で言いたいことをズバズバ言う、スタイル抜群で眼鏡が似合う美人。神崎は、重要な仕事をたくさん任されバリバリと仕事をこなす美女だが、人によって発言を変え、意味深なことを匂わせ甘い声で男の気を引こうとする。高橋は、おとなしくて痩せぎすで薄幸な感じ。悪いことが起こると何でも自分のせいにしてしまう、男が守ってあげたいと思うようなタイプだ。

 この女性たちを見ていて、3人とも女性が嫌いなタイプの女だと思った。一般的に女性が嫌う女の要素は、空気が読めない、ぶりっこ、人の悪口を言う、うそつき、自慢ばかりする、男にこびる、下品、サエない、性格がきつい…などだという。部長は、性格がきつく自分に辛くあたる女。神崎も高橋も辛らつな部長の言葉を受け、陰では「部長が大嫌い」と言っている。神崎は、裏表があり男にこびる女。課長のことが大好きで不倫しているのに秋元に「課長にセクハラを受けている」とうそを言いみんなを混乱させる。高橋は、自分が悪くなくても何でもすぐに謝ってしまうサエない女。悲劇のヒロインになりきって意味もなく謝られたりすると他人はイラっとしたり不愉快になったりするものだ。

 しかし、女性が嫌いな女は気になる女でもある。部長しかり、神崎しかり、高橋しかり。そして、女性が気になる女は男性が心をひかれる女でもある。スタイルが良くてセクシーな眼鏡美人、男にかまってほしがるかわいい女、守ってあげたい弱いタイプの女… 彼女らは男性が放っておけない女性に違いない。部長は、「仕事以外の要素を持ちこまないで」と言っていたが、このように、気になる異性ばかりいるオフィスで、健康な若い男女が恋愛感情を持たない方が無理な話なのかもしれない。

 だが、実際、仕事、仕事というわりに、このオフィスではほとんど仕事をしていない。終始、色恋沙汰の愛憎劇である。『効率の優先』とは、なんとも皮肉が効いているタイトルだこと!

 事故・事件が表沙汰になると業務に支障をきたすので、救急車も警察も後回しにする場面は、会社にとって業務のためにヤバいことを隠ぺいする体質を皮肉っているのか。木を見て森を見ずというように、ここでは細かいことは気にするが、大きいことは気にしない。このような体質が物事を崩壊に導くということを暗示しているのだろうか。

 かつて、高度経済成長期を支えたサラリーマンたちには家庭を顧みず働き、仕事が生きている証しだという人が多くいた。彼らが定年になり職を失うと、生きがいをなくし、家でも居場所がなく粗大ごみと言われ、抜け殻のようになってしまうことは社会問題になっている。このタイトル『効率の優先』が何よりも会社業務を優先することを皮肉っているとしたら、かつてのモーレツ社員も批判しているのか。仕事以外の大切なことを考えるように示唆しているのだろうか。

 会社では、多くの人がいて、いろいろなことが起きる。生きていく上で仕事は大切だし、労働は人間の義務であり、会社は生きる糧を生む場所でもある。しかし、会社の中での常識が世間の常識と一致するとは限らない。人生にとって何を優先させるべきなのか、何が重要なのかは、会社のものさし以外で測って自分で決めなければならない。
 シュールな愛憎劇のなかで、飽きることなくハラハラ、ドキドキしながら1時間50分を過ごしたが、そこでは仕事について、生きることについて、また、いろいろなことを考える機会が与えられていた。
(2013年6月12日15:00の回 観劇)

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