◎研究は創作であってはならないが、創作は研究からも生まれる
松岡智子
チラシを一見しただけでは、坂手洋二作・演出による燐光群の新作だとは気がつかなかった。そして観に行きたいとも思わなかった。白地にあっさりとモノトーンのイラストがあしらわれたチラシは地味だし、「ハシムラ東郷」という題名も地名なのだか人の名前なのだか意味不明。燐光群といえば現実の社会問題を真正面から捉えた、どちらかというと硬派な作風という印象を持っていたが、「百年前、アメリカでもっとも人気のあった日本人を、知っていますか」というキャッチコピーからは、単なる過去の人物の伝記のように思える。全然面白そうに思えなかった。料金も決して安くはないし、おそらく劇評セミナーの課題に挙げられなければ観に行かなかっただろう。でも、観劇が進むにつれ、この作品に立ち会えたことに感謝した。でも、全編夢中になって見入ったというわけではなく、正直なところ、膨大な台詞のシーンに意識が遠のいてしまうこともあった。それなのになぜか、決して良く眠れたからとかではなく、観劇後の気持ちが爽快だった。なんだか「演劇」という表現方法の自由奔放さがとても痛快だったのだ。