悼む言葉と鳴り止まない拍手と 扇田昭彦さんを送る会

扇田昭彦さんを送る会
【扇田さんを偲ぶ野田秀樹さん。東京芸術劇場。 ひばりタイムス提供 禁無断転載】

 演劇評論家の扇田昭彦さんが5月22日に亡くなって1ヵ月余り。東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウス(中ホール)で7月6日(月)夕、演劇関係者ら約600人が集まって「扇田昭彦さんを送る会」が開かれた。扇田さんが好きだったというベートーベンの交響曲第6番「田園」が流れるなかで、故人との印象深い出会いを語り、突然の別れを悼む言葉が舞台上の遺影に手向けられた。
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ワンダーランドサイト休止のお知らせ

◎4月からサイトとセミナーを休みます

ワンダーランドは今年2015年4月からしばらく、劇評サイトを休止します。劇評を書くセミナーの新年度の予定もありません。サイトは2004年にスタートして10年余り。セミナーは2008年に始まって7年たちました。ともに年末まで休みを取り、あらためて積み残しの課題に取り組めるのか、取り組むならどうするかなどを検討することにしました。活動はほぼ3月いっぱいが区切り。これまで支えていただいた読者、執筆者のほか、観客や劇場、演劇関係者の方々の厚意に感謝します。温かい支援に応えられなかったことを残念に思います。

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年頭のあいさつ

 あけましておめでとうございます。

 ワンダーランドは今年12年目を迎えます。2004年のスタートから「舞台の記録を劇評の形で定着させたい」と活動を続けてきました。10年余りの試行錯誤からさらに、「観客が書く」意味があらためて問われたと考えています。今年はその転換点になるかもしれません。
 今年のマガジン・ワンダーランドは1月14日(水)発行が最初になります。
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劇団チョコレートケーキ「サラエヴォの黒い手」

◎歴史に向き合う自然な演技
 (鼎談)芦沢みどり(戯曲翻訳)、チンツィア・コデン(演劇研究)、北嶋孝(編集部)

「サラエヴォの黒い手」公演チラシ
「サラエヴォの黒い手」公演チラシ

北嶋 今年は第一次世界大戦の引き金になったサラエヴォ事件からちょうど100年になります。1914年6月28日、当時オーストリア=ハンガリー帝国に併合されていたボスニアの都市サラエヴォで、オーストリアの皇太子夫妻が暗殺されました。犯行グループの青年たちをセルビアが支援したとみたオーストリアは7月28日に宣戦布告。それがドイツやロシア、フランス、イギリスなどを巻き込んだ戦争に発展しました。
 劇団チョコレートケーキの「サラエヴォの黒い手」公演はこの史実に正面から取り組みました。過去の公演では、第一次世界大戦後から第二次大戦にかけて、主にドイツで起きた歴史にスポットを当てた舞台が続いていました。今回はその源流をたどる趣もあります。
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連載「もう一度見たい舞台」第1回
遊園地再生事業団「ヒネミ」

 小説、美術、映画、音楽など他の芸術ジャンルと比べたとき、舞台作品は後に残らないのが特徴と言える。他ジャンルが時を超えた形で鑑賞され、またその傾向が一層強まっているのに対し、舞台は非常に不完全な形でしか記録を残すことができない。かつて無数の公演が行われてきたが、DVD等で残っているものはほんの一部であり、また映像が残っていたとしてもそれは実際の公演とは全くの別物である。ワンダーランドも劇評を通じて貴重なアーカイブとしての役割を果たしているが、取り上げられる作品はほんの一握りである。
しかし舞台の「記録」「記憶」を後に残すことは貴重である。表現の様式や内容などのアイディアを残すことは、未来の創造につながる土壌となる。
わたしたち演劇を見るものひとりひとりの中にある記憶を呼び覚まし、舞台というものの魅力に目覚めた作品、光を放つ作品を取り上げることで、明日の舞台への橋渡しをしたい。また、知られざる素晴らしい作品の再評価につながれば、とも思う。原則として毎月1回、定期的に掲載していきたい。(編集部)

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遊園地再生事業団「ヒネミ」” の
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鵺的「この世の楽園」

◎嫌な男たち、抗わない女たち
 チンツィア・コデン × 北嶋孝(対談)

「この世の楽園」公演チラシ デザイン=詩森ろば
「この世の楽園」公演チラシ
デザイン=詩森ろば

「この世の楽園」ではない

北嶋 公演の率直な印象はいかがでしたか。
コデン タイトルが気になりました。「この世の楽園」でしょう。文字通りの「楽園」はどこにもないし、登場人物の会話にも楽園のような雰囲気は出てこない。見終わってどういう関係があるのかと考えました。
北嶋 そうですね。楽園ではないことは間違いありません。あんな緊張関係に満ちた「楽園」には暮らしたくない(笑)。地獄だとは思いませんが、登場する3人の男女はともに薄ら寒い関係だったので、むしろ皮肉っぽいし、反語的な意味が強いのではないでしょうか。高木さんの作品は案外意味のこもった強いタイトルを付けますね。鵺的の1回公演「暗黒地帯」も、文字通り「暗黒」が塗り込められているような世界が露出しました。その後は「不滅」「カップルズ」「荒野1/7」と続きます。小細工なしですね。
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忘れられない1冊、伝えたい1冊 第4回

◎「芸術立国論」(平田オリザ著、集英社新書)
 北嶋孝

「芸術立国論」表紙 「芸術立国論」が刊行されたのは2001年10月だった。
 もともと平田演劇論は「演劇と市民社会」「参加する演劇」などの言葉をよく参照する。「現代口語演劇のために」(1995年)や「演劇入門」(1998年)では、「演劇世界のリアル」と「現実世界のリアル」が交差するには、作品と観客の出会いが重要だと繰り返し述べていた。社会にとって芸術は必要であり、芸術にとって社会の支持は不可欠だ、というのが平田理論の核心だった。そこから補助線を少し引けば、本書で展開される「芸術の公共性」や「国家の芸術文化政策」はすぐ間近に見えてくる。
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連載「百花夜行」 賞を選ぶ、賞を読む(上中下)

 「百花夜行」という連載始めたのは昨年秋だった。毎月掲載の予定が9月にスタートした後しばらく中断してしまった。申し訳なくて2月は2回、引き続き岸田國士戯曲賞にまつわる話をまとめた。ノイズの多いスタイルにしたいと思ったら案の定、話がずるずる長くなる。岸田賞選考を取り上げたといっても選考の実態にはトンと疎いから、賞選びに内在する問題を考えようと思った。マガジンワンダーランド掲載時のタイトルを「賞を選ぶ、賞を読む-評価と授賞の狭間で」に差し替え、3回目を追加補充してサイトに掲載することになった。
 連載タイトルはもちろん「百花繚乱」と「百鬼夜行」の掛け合わせ。鬼でもないし、繚乱というほどきらびやかでもない。要は、騒々しいほど賑やかで怪しいイメージが滲み出ればもっけの幸いというに過ぎない。ご寛容を。(北嶋)

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震災で考えることできること

 北嶋孝(ワンダーランド代表)

 東日本大震災が3月11日に起きてから1週間あまりが経ちました。死者行方不明が2万人に近づいています。それでもまだ被災、被害の全貌が見えていません。東京電力の福島第一原発も依然として危機レベルにあります。
 小劇場関係者にももちろん影響が出ています。その一端でも伝えたいと願ってワンダーランドは3月13日から小劇場を中心とした「演劇震災関連情報」ページを立ち上げ、安否情報を含む関係者の状況を刻々掲載してきました。
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「初日レビュー」を中止しました

 3月の初日レビューは3月16日に青山円形劇場で開演したカンパニーデラシネラ「あらかじめ」を取り上げる予定でしたが、計画停電に伴う交通の途絶などを考慮して中止しました。この公演については劇評として取り上げる予定です。ご期待ください。
 初日レビューは言うまでもありませんが、必ず初日公演を見ることで成立します。つまり特定の日時、会場に、限られた評者が集まることを前提にした企画です。それだけに、鉄道の運休など不確定要素の多い状況では、あらかじめお願いした評者の出席が難しくなります。それに加えて帰途の安全も確保されなければなりません。残念ながら今回は見送らざるを得ないと判断しました。4月以降も今後の状況をみて続行できるかどうか検討します。(ワンダーランド代表・北嶋孝)