◎「鬱」(花村萬月著 双葉社 1997年)
中屋敷法仁
姉が買ったのだろうと思う。高校時代に居間に置いてあった小説『ゲルマニウムの夜』に出会った僕は、そのまま著者・花村萬月氏の狂信者となった。
平凡な情景描写でありながら、どこかグロテスク。過激で醜悪な場面なのに、恐ろしく美しい。愛と暴力、性、宗教、歴史、組織―あらゆるテーマを軽快なテンポと重厚な文体で描く。中毒性の高い花村文学に完全に心酔していまい、貪るように氏の作品を読み漁った。それから大学に入学してからの数年間というもの、花村氏以外の小説は読んでいない。(いや、読んでいたかもしれないが、全く記憶に残っていない)
“忘れられない一冊、伝えたい一冊 第20回” の続きを読む