地点「三人姉妹」

◎戦う身体、動かす言葉
 水牛健太郎

 

「三人姉妹」公演チラシ
「三人姉妹」公演チラシ

 会場に入ると、巨大といっていい大きさの強化プラスティックの透明パネルが目に入る。目測で1枚あたり高さ2メートル50センチ、幅は1メートル20センチぐらいの透明な強化プラスティック板を、9枚横につないでいる。全体で横10メートルを超えるパネルだ。2か所に木の扉が備え付けてある(ただし、上手側の扉は最後まで開かなかったし、把手もなかったので、扉とは言えないかもしれない)。パネルは窓にこびりつく雪を思わせる白い汚しが入れてあり、向こう側はぼんやりとしか見えない。それから白樺の大きな枝がたくさん、天井から吊り下がっている。葉は白みがかっており、枯死しかかっているようにも見えて、生命感は感じられない。
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趣向「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」

◎失われた場所に描く永遠と一瞬
水牛健太郎

「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」公演チラシ 舞台は平場で、シアタートラムの高い天井、舞台奥の機構も露わにされている。中央に建物の廃墟のような石積みの一部を模したセットがあり、そこに地下への四角い入口がある。その少し奥に木製の椅子が積み上げられ、同じ椅子が一つ、天井からロープで吊り下げられている。上手側手前には傾いた椅子が一つ。セットの周囲には白い砂が敷かれており、椅子はその砂に埋もれていくように見える。教会の鐘の音が鳴り響いて、開演前の注意がアナウンスされた。
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鳥公園「空白の色はなにいろか?」

◎主人公の空虚と呼応する男性の危機
 水牛健太郎

鳥公園公演チラシ 今回の公演「空白の色はなにいろか?」製作の途中の工程にあたるショーイング公演については昨年、劇評(なにものかへの別れのあいさつ――鳥公園「空白の色はなにいろか?」)を書いた。ショーイング公演は大阪の造船所跡地(クリエイティブセンター大阪)で行われており、広大な敷地を生かした演出が印象的だった。今回は打って変わってSTスポットという、小劇場の中でもかなり小さめのスペースなので、違う作品になることは十分予想できた。 “鳥公園「空白の色はなにいろか?」” の続きを読む

クリストフ・シュリンゲンジーフ「外国人よ、出て行け!」

◎大成功したアート・プロジェクトの記録
 水牛健太郎

 現実の政治社会状況と切り結んだアート・プロジェクトとして名高いクリストフ・シュリンゲンジーフによる「オーストリアを愛せよ」。F/T14の映像特集の1本として上映された「外国人よ、出て行け!」はその記録である。
 このプロジェクトは2000年のウィーン芸術週間の1作品として、隣国ドイツから気鋭のアーティスト・シュリンゲンジーフを招いて制作したもの。1週間にわたりウィーン歌劇場の真正面に設置されたコンテナ・ハウスの中に12人の亡命希望者を滞在させ、通りすがりの人が小窓から彼らの生活を見ることが出来るようにした。さらにビデオカメラによる内部の映像が24時間ネット中継される。そして、視聴者の投票により、彼らのうち1日に1~3人ずつを国外追放するという触れ込みである。1週間後に残った最後の1人にはトップ賞として賞金とオーストリアへの滞在許可が与えられる、とされた。コンテナ・ハウスのてっぺんには、「外国人よ、出て行け(Ausländer, raus!)」と書かれた大きな看板が。
 この悪趣味極まりない見世物は、初日こそ新聞に小さな記事が出る程度だったが、すぐに爆発的な反響を引き起こし、連日メディアに大きく取り上げられた。周囲には様々な立場の市民が集まり、激論を繰り広げ、興奮のあまり、相手を叩くといった騒ぎも多発した。夜間にコンテナへの侵入を企てた形跡があったり、正体不明の液がまかれたり。4日目には「移民を解放する」と称するデモ隊に襲撃されて、移民たちが緊急避難する事件も発生した。
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九十九ジャンクション「本間さんはころばない」

◎そして、飯島君にさようなら ~こんにちは、土屋さん~
 宮本起代子(因幡屋通信発行人)

【チラシデザイン=大田真希男】
【チラシデザイン=大田真希男】

【九十九ジャンクション】

 この風変わりな名の演劇ユニットは、プロデューサーHこと原田大輔、ツクモ芸能編集長こと大竹周作によって結成された。ふたりはいずれも演劇集団円所属の俳優である。公式サイトには「演劇づくりの各セクションに一切の制限を持たず、演劇界だけでなくあらゆる分野からの参加により、新たな風、新たな流れ、新たなワールドを生み出すことを掲げ、発足」とある。プロデュース形式をとり、書き下ろし作品を中心に今後5年間活動するとのことだ。
 おもしろい企画やリクエストを「大募集!!」と呼びかけつつ、原田大輔がうんと言わなければ採用されないというから、ゆるいのかきついのかわからない。しかし新人劇作家デヴューのチャンス、新作の本邦初演の場にもなりうるということであり、大いなる可能性を秘めているわけである。
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世田谷パブリックシアター「炎―アンサンディ」

◎物語的想像力の場としての中東
 水牛健太郎

 舞台はカナダのモントリオール。中東系移民の女性ナワル・マルワン(麻実れい)が死に、公証人エルミル・ルベル(中嶋しゅう)が子ども2人を呼んで、遺言を伝える。それは、彼らの父と兄を探し出して手紙を渡してほしいという内容。双子の娘ジャンヌ(栗田桃子)と息子シモン(小柳友)は、これまで母親に過去の話を聞かされておらず、戸惑う。しかし、エルミルの説得もあり、まずジャンヌが、次いでシモンが中東へと旅立つ。それは父や兄を探すと同時に、祖国の内戦に翻弄された母の過去を知る旅ともなっていく。

 「炎 アンサンディ」はレバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドの作品だ。作品中に特定の国名は出てこないが、レバノン内戦を題材にしたものであることは、まず間違いない。作品には、内戦の様々なエピソードが出てくる。難民の乗ったバスへの銃撃、処刑される3人の子どものうち1人だけ助けると言われ、指名するよう迫られた母親の話、難民キャンプでの虐殺事件などだ。

 そうしたことから、この作品を、中東出身の劇作家が現地の悲惨な状況をリアルに描き出したものとして理解するのが自然かもしれない。作者ムワワドはレバノン出身者として「向こう側」に属しており、その立場から先進国(「こちら側」)に住む私たちに「中東の現実」を教えてくれるのだと。

 しかし、私はむしろ、逆なのかもしれないと感じた。つまり、作者ムワワドにとっても、リアルなのは中東ではなくて先進国での暮らしではないか。そして、中東は彼の物語的想像力が飛翔する、非日常の場なのではないか、ということだ。
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革命アイドル暴走ちゃん「騒音と闇 ドイツ凱旋ver.」

◎変わらないこと、変わったこと
 水牛健太郎

 二階堂瞳子が主宰していたバナナ学園純情乙女組(以下、バナナ学園)が公演中のトラブルにより、活動を休止したのは2012年の末のこと。それから1年9か月を経て、「革命アイドル暴走ちゃん」(以下、「暴走ちゃん」)なる新団体を率いて二階堂が東京に戻ってきた。ドイツで公演を成功させて戻ってきたという触れ込みだ。公演では「逆襲」という言葉も使われており、バナナ学園のリベンジ戦という位置づけを、堂々と打ち出している。
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バック・トゥ・バック・シアター「ガネーシャVS. 第三帝国」

◎問われる境界と私たちの慣性―演劇、障害、好奇、当事者性を架橋するメタシアター
 水谷みつる

 アイディアは、そして作品は、誰のものか? 誰が意見を言い、誰が決定を下すのか? そこにあるのは支配と搾取なのか? 彼らは演じさせられているのか? 演じているのか? そもそも演じるとは何か? リアルとは? フィクションとは? 稽古場で起こる本気のぶつかり合いが台本に組み込まれ、繰り返し演じられる時、その演技は「リアル」なのか? 「障害者」「健常者」とどちらも一括りにされがちな人々のなかに否応なく存在する多様性/差異は、グループの関係性に何をもたらすのか? 「できる」「できない」が両極とそのあいだのリニアなグラデーションではなく、複雑に絡み合い、時に反転さえするものだとしたら、互いの役割もまた揺らぎ、交換され、共有されるものではないのか? そして、それら一部始終をあちら側で見ている観客こそが、好奇の目で覗き見し、果実を掠め取っていく簒奪者ではないのか? いや、それとも…?
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笑の内閣「福島第一原発舞台化計画~黎明編~超天晴!福島旅行」
地点「光のない。」
フランソワ・シェニョー&セシリア・ベンゴレア「TWERK」

◎あなたたちとわたしたち――KYOTO EXPERIMENT 2014報告(最終回)
 水牛健太郎

 KYOTO EXPERIMENT最終日19日も京都はもったいないくらいに晴れた。この日は回る場所も多く、自転車に乗った。午前から夜まで、京都を北から南まで。最高の一日になった。
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地点「光のない。」
フランソワ・シェニョー&セシリア・ベンゴレア「TWERK」” の
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ルイス・ガレー「メンタル・アクティビティ」
木ノ下歌舞伎「三人吉三」
番外 She She Pop アーティストトーク

◎モノの魂――KYOTO EXPERIMENT 2014報告(第3回)
 水牛健太郎

 私が京都に行ったのは11日(土)、台風19号はまだ沖縄にあり、京都は気持ちよく晴れていた。これまで3週、雨には一度も降られていないのはありがたい。
 今回、諸事情により予算を切り詰めており、来週も含め4週とも宿泊はなく、滞在は1日きり。食事は基本カロリーメイトだし、観光らしいこともしていない。空き時間は公園などで本を読んだり、原稿を書いたり。これはこれで、後々懐かしく思い出すような気がして、しみじみとした幸福感を味わっている。
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木ノ下歌舞伎「三人吉三」
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