演じるレイヤーが複雑に絡み合う 現代口語演劇を「観察」したら
「観察映画」を提唱する想田和弘監督が青年団の撮影に入っているという話はだいぶ前に聞いていた。あらかじめ作られた台本なし、状況説明のナレーション抜き、情景を盛り上げるBGMなどを排した「観察映画」の手法によって、現代口語演劇や青年団がどのように浮き彫りにされるのか。上映時間が約6時間という映画制作の格闘と軌跡を想田監督に聞いた。
(聞き手:北嶋孝、ワンダーランド編集部)
演劇の「方法論」に関心
-「演劇1」「演劇2」の試写を6時間かけて拝見しました。疲れました(笑)。でも心地よい疲れでした。平田オリザと青年団は注目すべき作家であり劇団なので、ワンダーランドでも拠点のこまばアゴラ劇場の活動と共に取り上げる回数が多く、平田さんへのインタビューも載せています。そこで、映画に関連していくつかお話を伺いたいと思います。映画のプログラムにも載っていますが、最初に『東京ノート』をご覧になったのは2000年。その後、二度目に青年団をご覧になったのは、2006年にニューヨークですね。
(編注) 平田オリザ(青年団、アゴラ劇場)インタビュー「100人の活動を2億円で支える アゴラ劇場と青年団の26年」(ワンダーランド 2010年9月14日掲載)
想田 そうです。2006年に見たのは『ヤルタ会談』と『忠臣蔵・OL編』です。
-ずいぶん間隔が空いていますね(笑)。2000年で動き出したのではなく、2006年に見て動き出したんですね。
想田 1本だけだと、青年団が凄かったのは偶然かもしれないと思って(笑)。僕はニューヨークに住んでいるので、なかなか日本に帰る機会がなく、特にそのころは、年に1回か2年に1回くらいしか帰れない時期でした。だから、帰ったときにタイミングよくということでもなければ、なかなか生の青年団の演劇を見るわけにはいかなかったんです。
それに当時はテレビ番組を作るディレクターでしたから、最初は舞台に衝撃を受けても、青年団についての映画を作るという発想にならなかった。(初めてのドキュメンタリー映画)『選挙』が2007年公開で、『選挙』を撮った後ならそういう発想になったかもしれないですけど。当初はただ一ファンとして、おもしろいなという印象でした。
―では、青年団の映画を撮ろうと思ったのは、『選挙 』(2007年)や『精神 』(2008年)を撮り終えた後なんですか。
想田 2006年に見たときには、まだ具体的に企画を考えたわけではなくて。友だちの近藤強さんが2008年に俳優として青年団に入ったと聞いて、おっ! という感じですね(笑)。『選挙』はもう世に出ていて、『精神』を編集中でした。そういうときに近藤さんの入団のニュースを聞き、映画を撮りたいと具体的に思って、話を持ち込みました。
―近藤さんは、映画にも出ていますね?
想田 出ています。『冒険王』の稽古の時に出てきます。「台詞を同時に言わないでくれ」って、秋山さんという俳優さんに言われている俳優さんです。彼はずっとニューヨークで俳優をされていて、妻(柏木規与子)のダンス作品に出演したことがあった。その彼が青年団に入ったっていうので、それまですごく遠くにあった青年団ががぜん身近に思えました。そこで近藤さんに手紙を託して、平田さんに会ってもらえることになったわけです。
-きっかけにこだわるようですが、かつて青年団の芝居を見ていたということと、知り合いが青年団に入ったということの二つからでは、そのまますぐに「映画を撮る」ってことにはなりにくいですよね。それが映画になるっていう直感、あるいは撮りたいというモチベーションって、もう少し具体的にありそうですが。
想田 そうですね、近藤さんの件は単なるきっかけで、モチベーションとしては、とにかく、「どうやって芝居を作ってるのかな、知りたいな」っていうのがありました。映画を作っているひとりの作り手として、どうやったらこんな演劇が可能なのかを見てみたいっていうのが一番大きかったと思います。ドキュメンタリーの作家ですから、目の前にある現実にカメラを向けて、あるがままを切り取りたいという意識でカメラを回すわけなんですけど、結構難しいんですよ。生の現実であるにもかかわらず、カメラを向けたとたんにぎこちなく見えてしまったり、臨場感が死んでしまったり。映像になったとたんに変質してしまうっていう難しさを、ずっと経験しているんですね。
演劇っていうのは、例えば素人さんを舞台に上げて「何かやってください」って言って即興で演じたからといって、生の現実が描けるとは思えない。ドキュメンタリーよりも演劇の方が、生の現実というか、見たまま、ありのままを描くことは難しいはずだと思うんです。その難しいはずのことを、いとも簡単にやっているように見える。これは何だ? っていうのがあったんです。
しかも平田さんの本を読むと、明らかに、現代口語演劇という理論と方法論のもとに作品を作っている。僕も「観察映画」という方法論をもとに作品を作っていくというスタイルですけど、もともと、方法論を意識化している作家がすごく好きなんです。方法論というのは思想であり哲学であり、この世界にどう自分が向き合うか、ってことですよね。それがしっかりしている上で作品を作っていく作家に対して、スケールの大きさを感じる。アドホックに毎回変えちゃう人よりも、哲学性を感じるっていうんですかね。そこに弱いんですね、僕は(笑)。だから、それも含めてじっくり見たいって、そういう動機だと思います。
-なるほど。戦術もさることながら、戦略の確かさ、視野の広さ、射程の長さは、平田オリザ・現代口語演劇の方法論にあるので、そこに僕もとても興味があります。想田さんの観察映画も、そういうコンセプトが、実際に撮ったり編集したりして映画を作る中で、だんだん形になってくるっていうのがよく分かるので、平田さんの稽古場へ、内輪へ入ると、ただ適応しているだけではなく、だんだん自分の方法論を付加して、もっと具体化するというプロセスに触れることができたのではないかと思いますね。
想田 はい、おっしゃる通りです。>>
「#12 想田和弘(映画「演劇1」 「演劇2」監督)」への1件のフィードバック