手塚夏子「プライベートトレース2009」

◎眼差しが照り返されて生のありように向けられる
武藤大祐(ダンス批評)

東京芸術見本市2009プログラム表紙どれだけ「斬新な」ダンスか、どれだけ「秀逸な」作品か、などということより、それに立ち会うことが自分の日々の生活にどれだけ深刻な影響や衝撃をおよぼすか、ということを基準にして、作品なりダンスなりに立ち会いたい。いいかえれば、日々の瑣末事や社会の中の諸々の出来事とともに生きている自分の身体をきちんと携えたままで作品やダンスに行き当たりたい。そんな気持ちを目覚めさせてくれたという意味では、まるで湯水のように「作品」が大量消費される年度末の東京の不毛な公演ラッシュにも感謝せずにいられない気さえする。

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リミニ・プロトコル「カール・マルクス:資本論、第一巻」

◎「本人」が演じる「ウソ」と「本当」 演劇への根源的な問いかけ
第二次谷杉(劇作家)

「カール・マルクス:資本論、第一巻」公演チラシ●巧みなウソとぎこちない本当
すばらしい風景を眼の前にして思わず「まるで絵のよう」と言った事はないだろうか。あるいは「音楽が聞こえてきそう」だと思った事はないだろうか。絵画や音楽、それは時として褒め言葉として使われる。
では「芝居がかっている」「お芝居みたい」というのはどうだろう? ここには人が他者を演じる=演技に関するうさんくささ、不信が表われてはいないだろうか?

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劇団印象「青鬼」(再演版)

◎「妻の愛情物語」ではもったいない とびぬけた舞台になったけど
西村博子

「青鬼」(再演版)公演チラシこの4月2日、ある劇評セミナーの帰り、途中まで地下鉄をごいっしょした劇団印象のプロデューサーまつながかよこさん。あの日「愛の物語になっちゃったね」とひとこと言って私は帰ったという。横浜相鉄本多劇場の「青鬼」を見せてもらった日のことである(2009年3月21日所見)。その作・演出鈴木厚人さんもいっしょだったので自称び探検隊長の私はヤッホー!(二本の指でV字作って)のご満悦だった。

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劇団印象「青鬼」(再演版)

◎愛おしい存在を食べざるをえなくなるつらさ
風間信孝

「青鬼」(再演版)公演チラシ劇が始まって、イルカの着ぐるみを着た俳優が登場したときは、「この舞台は、安手の三流芝居か、バラエティ番組のワンコーナーかよ!?」と思ったが、杞憂に終わった。最後には、主人公とその夫が追い詰められて、これは未遂に終わるのだが、共食いにいたりそうになったり、遂には愛おしい存在を食べざるをえなくなるという重いテーマを、観客に問いかける作品だった。

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パラドックス定数「インテレクチュアル・マスターベーション」

◎「わくわくした。以上」から踏み出して「一抹の淋しさ」を考える
川口典成(劇団地上3mm主宰)

「インテレクチュアル・マスターベーション」公演チラシパラドックス定数は、私が上演を楽しみにしている、小劇場界では数少ない劇団のひとつである。数年前に渋谷のスペースエッジという場所で上演された、薬害に関する公開講座を扱った話を観劇して以降、ほぼすべての公演に足を運んでいる。このパラドックス定数という劇団の演劇が、他の劇団の追随を許さぬほどに舞台芸術として洗練されており、硬質な台詞によって役者の魅力を最大限に引き出しているということは特筆すべきことであろう。毎度毎度、期待しながら劇場に向かう。劇団員の役者を、また見たくなってしまう。そういうひとつの中毒である。この劇団の「レビュー」を執筆するに当たって、はじめ、私は以下のようにこの文章を書き始めたのだった。

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劇団サーカス劇場「カラス」

◎抒情から喜劇へ 新生サーカス劇場の挑戦
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「カラス」公演チラシ見えるかい 亀が歩いてる
時間という名の亀が
少女を惑わすウサギより速く
アキレスの眼にもとまらぬほどに
三〇世紀 東京は森
見てごらん 鉄の木立の上に 一千万のカラスがとまる

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劇団サーカス劇場「カラス」

◎「友達」を探し求める物語 ガード下に漂う甘いにおい
小畑明日香(学生)

「カラス」公演チラシバイクが上手でうなる音から幕開き、ガードレールの隙間を自転車とバイクが走り抜けて歌。♪時は三十世紀トーキョー♪とのことだが歌ってる大女は長いざんばら髪にポシェット下げて要するに舞台は荒廃した未来、である。が、アングライメージの意匠をちりばめつつも「カラス」はにおいがはっきりちがった、字義通りの意味でそのことを書きたい。

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マレビトの会「声紋都市―父への手紙」

◎棲みついた〈坂〉と言葉 〈ノスタルジック〉な身体をめぐって
森山直人(京都造形芸術大准教授)

「声紋都市―父への手紙」公演チラシ
坂道をよく夢に見る。二十年近く前に引っ越して以来一度も訪れたことのない、生まれ育った場所の坂道が、いまだに時々夢の中に、はっきりそれと分かるように出現する。道添いに立っている家々の風景はでたらめで、ほとんど毎回違うのに(ようするにウロオボエなのだが)、子供の足にはかなりの急勾配と感じられ、途中から二股に分かれる坂がつくる地形だけは、私の身体に、すでに深く棲みついてしまっている。-これはたんなる私の個人的な夢にすぎない。けれども、たとえばこんなふうに、誰もが〈坂〉というものについて、なにがしかの記憶をもってはいないだろうか?

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河村美雪+伊東沙保+岸井大輔「play away」

◎複数的な創造プロセスを切り出すパフォーマンス
柳沢望

様々な舞台芸術を見続けてきて、良い舞台を見たときだけに生まれてくる、特有の感覚が私にはある。
それは、舞台の空間がしんと静まり返り、時間の感覚がどこまでも透明になって、意識の集中が空間全体に広がるような、そんな感覚だ。いつだって、その感覚を探して、舞台を追いかけてきた。
『play away』の上演中、まさに、その感覚に包まれた。そのゆえんを探ってみたい。

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【レクチャー三昧】のカレンダー版スタート

 週刊「マガジン・ワンダーランド」の連載企画【レクチャー三昧】のwebサイト版(カレンダー版)を4月1日から掲載しました。大学や自治体、財団、研究所などが開く舞台芸術、映画、美術、思想などの講座、セミナー情報を幅広く収集 … “【レクチャー三昧】のカレンダー版スタート” の続きを読む

 週刊「マガジン・ワンダーランド」の連載企画【レクチャー三昧】のwebサイト版(カレンダー版)を4月1日から掲載しました。大学や自治体、財団、研究所などが開く舞台芸術、映画、美術、思想などの講座、セミナー情報を幅広く収集、選択して掲載しています。右サイドの案内画像をクリックすると表示されます。
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