忘れられない一冊、伝えたい一冊 第30回

◎「貧者の宝」(M.メーテルリンク著 平河出版社)
 吉植荘一郎

【「貧者の宝」表紙】
【「貧者の宝」表紙】

 韓国演劇を見ると思っていたのは「ナゼこれほど頻繁に“死者や異界との交流”が登場するのだろうか?」という事でした。というよりも韓国演劇の生ある俳優や演出家たちは、オバケや亡霊のバッコする世界(舞台)で、一体ナニと向き合っているのだろうか?と。
 私が昨年出演したジョン・ソジョン作『秋雨』もそうでしたし、この2月に東京でリーディング上演された韓国の新作戯曲『海霧』等はいずれも“死者や異界との交流”がテーマもしくはモチーフに…新国立劇場で上演された日韓合作劇『アジア温泉』(鄭義信作)もそうでしたね。
 オ・テソク作『自転車』とかソン・ギウン作『朝鮮刑事ホン・ユンシク』にはメタファーとかじゃない、もうそのものズバリの死人や亡霊、妖怪が“役として”登場して生者と対話したり相撲取ったりします。コレって何なの(笑)? 霊やオバケの登場を韓国文化に由来するものと理解するとして、じゃあ霊やオバケを演じたり、それと向き合う人間はどうやって演じたらいいのか?……それっぽく見せればいいだけかもしれないけど、何だか逆に本質からは遠ざかっていくような気がするし……。
 こんな事を考えている時に出会った本がメーテルリンク著『貧者の宝』でした。
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