「2014国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ」

◎キジムナーと呼んでいた祭りを、別の名前にしてみても、強い志はそのまま
 鈴木アツト

kijimuna2014_suzuki_atsuto 「アジアで国籍を超えた劇団を作って、アジア中の子供たちに素晴らしい児童演劇を見せて回りたい。それが私の夢です。」

 2014国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ(昨年までの名称はキジムナーフェスタ)の総合プロデューサーの下山久さんの言葉には、不覚にも心を揺さぶられた。今年で10周年を迎えたこのフェスに、私は観客として7月30日から8月3日までの5日間、参加した。これは、その5日間のレポートである。
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忘れられない1冊、伝えたい1冊 第19回

◎「pink」(岡崎京子、マガジンハウス 1989年)
  鈴木アツト

「pink」表紙
「pink」表紙

 2012年に沢尻エリカ主演で「ヘルタースケルター」が話題になったのに、僕より下の世代には、岡崎京子を知らない人が多くて、ちょっぴり悲しい。若者の皆さ~ん、岡崎京子は、あの映画の原作者で、伝説の漫画家ですよ~。「ヘルタースケルター」の連載終了後に、交通事故に遭って、漫画家として再起不能になってしまった天才作家なんですよ~。もちろん、僕もリアルタイムで読んでいたわけではなく、演劇を本格的に始める2004年頃から、読み始めた後追い組ですが。というわけで、僕の「忘れられない一冊、伝えたい一冊」は、岡崎京子の「pink」です。
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韓国演劇見学記2011

◎国境を越えられる演劇って何だろう? 韓国演劇見学記2011
 鈴木アツト

 2011年2月10日から一週間、再び韓国の演劇状況を見に行ってきた。前回は、韓国の蜷川幸雄と呼ばれるイ・ユンテク(李潤澤)氏の劇団・演戯団コリペにお世話になり、イ・ユンテク氏の周辺から韓国演劇を覗いた。しかし、あれから韓国語と韓国の演劇について本格的に学び始め、コリペは韓国内でも特別な劇団だということが、おぼろげながらわかってきた。私自身も、2010年には韓国から女優を招いて、日韓国際交流公演なるものを2公演実施し、コリペ以外の韓国の演劇人とのつながりもでき、もう少し詳しくソウルの演劇事情を知りたくなっていった。というわけで、今回の訪韓の目的は、一般的なソウルの劇団の公演や活動を見に行くことであった。同時に、日本の小劇場の劇団が韓国で公演をするためには、何が必要になるのか、具体的に知りたいと思った。このレポートがそういった海外公演のための参考資料になれば幸いである。
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たまごプリン「さいあい~シェイクスピア・レシピ」

◎野菜が問う「愛とは?」 踏み潰したい才能を発見
 鈴木アツト

 踏みつけたくなる才能がある。自分が信じる真っ直ぐなメッセージを、剛速球で投げてくる若い才能。その才能が創る舞台は、エネルギーに満ち溢れ、なによりそこに表現されたイメージが年長者にとってはあまりに斬新だった。こういう時は、まだ若いうちに、その才能がまだ芽のうちに、踏み潰しておくに限るのだが、今回、私が見つけてしまったその才能が創り出した作品は、コンクリートの道路を突き破って生えてくるど根性野菜をモチーフにしたパフォーマンスで、その舞台と同じく、踏み潰しても、私の足を突き破って生えてきそうなのである。
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演戯団コリペ「Floor in Attic 屋根裏の床を掻き毟る男たち」

◎観客に感染するエネルギー
 鈴木アツト

 新宿の小劇場タイニイアリスが韓国から演戯団コリペを招いて「Floor in Attic 屋根裏の床を掻き毟る男たち」を上演した。僕は昨年末の訪韓の際、大変お世話になった劇団なので(韓国演劇見学記をご参照のこと)、その恩返しをしたかったのと、昨年8月にタイニイアリスで上演された「授業」(作=イヨネスコ、演出=李潤澤)がとても素晴らしい作品だったので、この劇団を自分の周りの演劇ファンに紹介したいと強く思い、日本側のスタッフとして関わった。
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韓国演劇見学記

◎充実した環境、日本を圧倒 韓国演劇見学記
鈴木アツト

「日本の小劇場より、韓国の小劇場のほうが進んでるよ」
韓国人の友人からこんなことを言われた。これがイギリス人から言われたのならよくわからなくても納得してしまっただろう。そうかイギリスは進んでるんだね。なるほどね。って。悲しいかな、僕の中にも偏見はある。日本がアジアで一番だと思いたいのだ。でも、もし韓国の小劇場が日本のそれより進んでるのだとしたら何が進んでるのだろう? つい気になってしまった。だから実際に見てくることにした。年末に。韓国の演劇を。韓国の小劇場を。というわけで、2009年12月21日から一週間だけ韓国に滞在し、かの地のお芝居や稽古、劇場を自分の目で見てきた。だからこの原稿はその一週間のレポートである。

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「化粧 二幕」と「楽屋」

◎家族の解体から新しい人間関係へ 女優と楽屋をモチーフに
鈴木厚人(劇団印象-indian elephant-主宰、脚本家、演出家)

「楽屋」公演チラシ 座・高円寺のこけら落とし公演「化粧」と、シアタートラムのシスカンパニー公演「楽屋」が、ほぼ同じ時期に上演されていたのは、僕にとっては嬉しい偶然だった。どちらも“楽屋”が舞台で、“女優”をモチーフにした芝居であり、チラシも“化粧”をしている女優の写真。しかも、名作と呼ばれている戯曲の何度目かの再演(「化粧」の初演は1982年、「楽屋」の初演は1977年)と、共通点の枚挙に暇がない。もちろん、「化粧」は一人芝居であり、「楽屋」は女優四人の芝居だから、そこのところは大きく違う。ストーリーだって全然違う。観劇後の僕の満足度(つまり、僕が感じた芝居の出来)だって、180度違った。しかし、その違いをつぶさに見比べると、太いつながりを感じずにはいられなかった。

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快楽のまばたき「星の王子さま」(寺山修司作)

◎瑞々しさが光る冒頭の冴え 戯曲から読み取った確信的な演出
鈴木厚人(劇団印象-indian elephant-主宰/脚本家/演出家)

「星の王子さま」公演チラシ新宿のタイニイアリスで上演された快楽のまばたきの公演「星の王子さま」はとても刺激的な舞台であった。「星の王子さま」は、寺山修司の戯曲で、かの有名なサン=テグジュペリの「星の王子さま」を下敷きに書かれたものだった。男装の麗人に連れられて、点子という女の子が、うわばみ(=大蛇)の老女が経営するホテルにやってくる。そのホテルには夜空からたくさんの星が集められていて、星のいくつかは人間の女(しかもレズビアンやおなべ)になって突然踊り出す、といういささか荒唐無稽な設定である。

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野田地図「THE BEE」(日本バージョン)

◎見切れが生み出した舞台の陰と陽 何を見せられ何を見せられなかったか
鈴木厚人(劇団印象-indian elephant-主宰/脚本家/演出家)

「The Bee」公演チラシ見切れという演劇用語がある。僕の愛読書「きれいなお姉さんのための演劇用語辞典」によると、「俳優の演技や舞台装置が客席から見えない状態になっていること」、と書いてある。不思議である。観客が舞台を見ていても、見えない状態。つまり、演出家に隠されている状態。それが見切れ。まあ、暗転だけで場面転換のないリアル系演劇の、具象的な舞台美術なら、セットがしっかり建て込まれている分、隠せる場所もたくさんあるから、とりたてて見切れに注目することもないのだが、抽象的でシンプルな舞台美術だと、話は変わってくる。例えば、野田秀樹の「THE BEE 日本バージョン」。巨大な紙が一枚、天井から吊るされている、ただそれだけの舞台美術。そこには、どんな見切れがあったのか。演出家によって何が隠されていたのか。観客は何を見せられ、何を見せられなかったのか。一枚の紙が生み出した舞台の陰と陽をレポートしたい。

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