振り返る 私の2013

 年末回顧「振り返る 私の2013」は、年間の小劇場シーンから「記憶に残る3本」を選び、400字のコメントでこの1年を振り返る恒例の企画です。舞台芸術は時代の無意識を吸い取るメディアだといわれます。多様多彩な舞台に光を当ると、散乱するイメージから次第に、時代の流れと輪郭が浮かび上がって来るかもしれません。じっくりと、楽しみつつご覧いただきたいと思います。掲載は到着順。(編集部)

玉山悟(王子小劇場代表)

  1. ナカゴー「牛泥棒」(2本立て公演のうちの1本)@ムーブ町屋
  2. iaku 「目頭を押さえた」@こまばアゴラ
    ロロ「ミーツ」@こまばアゴラ
    青年座 「崩れゆくセールスマン」@青年座劇場

iaku_megashira 4本になってしまいました。
 牛泥棒は素晴らしかった。「ジャンゴ」という映画がタランティーノのマカロニウエスタンへの愛の結晶であるように、「牛泥棒」は鎌田のタランティーノへの愛の結晶ではなかったか。ラストシーン、燃えさかる炎の中で、死んだ蒼井優がフラガール2を踊るシーンは笑いながらも激しく感動した。
 「目頭を押さえた」は劇作が実に巧い。「ミーツ」はあきらめそうなギミックへ挑戦する姿勢と冴えを増したシーンの飛躍とシームレスな連結が素晴らしい。「崩れゆくセールスマン」は野木の人物造形とセリフが素晴らしい。年老いた男がポツリともらす最後のセリフに鳥肌がたった。
(年間観劇数 100本から200本の間)

山田紗希(会社員)

  1. アクラム・カーン「DESH-デッシュ」
  2. サダリ・ムーブメント・ラボラトリー「ヴォイツェック」
  3. カンパニー・デラシネラ「異邦人」

akram-khan_desh 芯の通った強い身体が好きだ。カーンは一瞬「え、この人ほんとにダンサー?」と疑いたくなるような見た目なのだが、実に動ける。90分間ソロで魅せ続けるためには、相当な実力が必要だと思うのだが、カーンは映像や舞台装置を駆使してそれをさらりとやってのけた。サダリの「ヴォイツェック」も、ダンサーたちの鍛え抜かれた身体が光る。「異邦人」は、個々の動きの組み合わせと舞台の使い方が驚くほど巧みで、小野寺の作品はほかにもいくつか見ているが、最初に見たこれが一番面白かった。
 ここに挙げた3本は、今でも私が何を見るかを決める際の基準に大きく影響している。この1年間、ダンスに限らず、とにかく少しでも興味の沸いた舞台には足を運ぶ、というスタンスで突っ走ってきた。演劇の面白さに触れられた一方で、自分がダンスにこだわる理由が、徐々に明確になってきた気もするので、来年はそのあたりを少し掘り下げてみるのもいいかな、と思っている。
(年間観劇数 80本)

米川青馬(ライター/編集者/ディレクター)

  • 松尾スズキ「悪霊-下女の恋-」
  • サンプル「永い遠足」
  • チェルフィッチュ「地面と床」

matsuo_akuryo 昨年までは年に多くて10本。今年中盤から数が増えて、今年は結局30本。この分だと、来年は50本。個人的には、2013年は本格観劇元年です。その中から選んだのは、いずれも自分の思考と感情に今も絡みついている3本。『悪霊ー下女の恋ー』には救われないまま生きる恐怖がこの世に溢れていることを教わり、『永い遠足』でキメラ的コラージュこそが今の日本社会を見事に映し出すことを知り、『地面と床』を観て、自分は日本がどうこうなってしまうより、日本語がどうこうなってしまうほうがずっと嫌なのだということを思い知りました。これからの日本は、きっと暗くて面白い、いや暗いからこそ面白い。舞台から、そういった予感を感じた1年でした。
 他にも、ハイバイや鳥公園やはえぎわやワワフラミンゴなどを知り、本格観劇元年は実に実りが多かったです。それから、音楽イベントなのでベスト3からは外しましたが、「SOUND LIVE TOKYO 2013」のクリスティン・スン・キム、飴屋法水×工藤冬里にも強く揺さぶられました。

武田浩介(脚本家、ライター ブログ「OLD FASHION」)

  • 劇団唐ゼミ☆「夜叉綺想』(浅草花やしき裏特設テント劇場)
  • 劇団唐ゼミ☆「唐版 滝の白糸」(KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ)
  • 座・高円寺レパートリー「リア」(座・高円寺2)

karazemi_yashakiso 2013年は、劇団唐ゼミ☆のお芝居に出会えたことが最大の喜びでした。もう20回以上も公演を重ねている劇団ですが、ほんと不勉強ですみません。自分は今年、初見です。
  今年上演した2本は唐十郎さんが何年も前に書かれた作品の再演です。それがもう、どうしようもないくらいにスリリングでした。過去と現在、敬慕と革新。複眼的な視線は過剰に熱く、未来を見据えています。『夜叉綺想』に『滝の白糸』、それぞれ二人の女優さんが主演をつとめていましたが、どちらも本当に素晴らしかった。「当て書き」を越えて、物語の中で輝いていました。それは儚い「いま」を生きる、切実で、力強い姿でありました。
 渡辺美佐子さんの『リア』は既に2014年も上演が決まっています。来年、より元気でより可愛らしくってより迫力のある、美佐子さんに出会えることを楽しみに。
(年間観劇数 30本)

北野雅弘(群馬県立女子大学教員・美学)

  1. ピーター・ブルック「ザ・スーツ」
  2. 「レミング ~世界の涯までつれてって~」(寺山修司作、松本雄吉演出)-寺山修司没後30年/パルコ劇場40周年記念公演
  3. バック・トゥ・バック・シアター「ガネーシャ VS. 第三帝国」

the_suit0a 「この一年」なら、去年の12月に台北で見た太陽劇団『未竟之業』が圧倒的。中正記念堂の前広場に大テントで劇場ごと持ち込んだ。物語は単純で様式は混成的なのに、隙がなく、それでいて自在な動きに打ちのめされる。ちょっと異次元の体験。凍死の場面に凍り付く恐怖を感じられるか。枠外だが、この公演への言及を日本語でほとんど見ないので書いておく。『ザ・スーツ』も舞台の完成度では同様だが、ミニマリズム志向のため「異次元」な感じはそこまではしない。いつものムヌーシュキンで、いつものブルックなのだろうけれど… 日本人の作品では、寺山修司と維新派の松本雄吉という水と油が奇妙にミックスされた「レミング」が記憶に残る。演劇と反演劇の結合。三つ目は「ガネーシャ」、文学座アトリエの「熱帯のアンナ」、SPAC「黄金の馬車」で悩んだが、知的障害者の劇団がテーマも構成もとても前衛的で刺激的な舞台を展開した「ガネーシャ」がやっぱり凄い。
(年間観劇数 25本)

中西理(演劇舞踊評論 「中西理の下北沢通信」)

  1. 維新派「MAREBITO」@岡山・犬島海水浴場
  2. 松田正隆×松本雄吉「石のような水」@にしすがも創造舎
  3. 木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談~通し上演~」@池袋・あうるすぽっと

ishinha_marebito 2013年は演出家、松本雄吉(維新派)が日本現代演劇におけるひとつの到達点を示した年だった。瀬戸内国際芸術祭2013に参加し、岡山・犬島で海水浴場から眺められる島々を借景に維新派「MAREBITO」は日本のルーツとしての南島論を展開した。ひさびさにスペクタクルに溢れ維新派の野外劇の魅力を堪能できた舞台だった。
 さらに松本はF/T2013にも参加、松田正隆(マレビトの会)の書き下ろした会話劇を独自の手法で演出し新たな姿を見せた。松本×松田のコンビが作品を上演するのは2010年の「イキシマ」以来。今回はタルコフスキー「ストーカー」「惑星ソラリス」を下敷きにポスト3・11の日本の状況を重ね合わせた。松田は1990年代に演出・平田オリザと秀作を次々と上演したが、松本演出とのコンビはそれに匹敵するものとなった。
 ポストゼロ年代の若手劇団では「東海道四谷怪談 ~通し上演~」など木ノ下歌舞伎の躍進が目立った。
(年間観劇数 150本)

羊屋白玉(指輪ホテル芸術監督)

「記憶に残る3本」、ありません。

谷竜一(集団:歩行訓練)

  1. 村川拓也「ツァイトゲーバー」(TPAM in YOKOHAMA2013再演)
  2. 五反田団「迷子になるわ」(福岡演劇フェスティバル再演)
  3. カトリ企画「紙風船文様」(西尾佳織演出)
    次点.松尾恵美「Fit back?」(KYOTO DANCE CREATION vol.2)

kaorikikaku_paperbaloon0a 主な観劇地は山口、福岡、東京、京都、横浜。長い脚力を持ち、観劇後もなお多く思い返された作品を挙げた。1はもはや筆を割くまでもないだろう。今後も多くの箇所で観られ、論じられてほしい。2は非存在の声、時間記述と物語、認識の点の複数、俳優、等これからも問題にされるべき事柄を晒してみせてくれた。3は西尾の遅として弛まぬ足取りが名優二人によって結実した快演。企画の眼差す奥行きに今後も期待したい。次点は松尾の初の振付作品。根源的な興味を徹底して突き詰め興味を引いた。他、演劇の再現性を再解釈したけのび『自治:京都』の取り組み、「God save the Queen」でのワワフラミンゴには久しぶりに気持ちよく笑わせてもらった。ブルーエゴナク『サヴァリーナトロメイド』は今後の飛躍に期待。ハイナー・ゲッペルス『Sifters Dinge』、She ShePop『シュプラーデン(引き出し)』も印象深い。
(年間観劇数 50~60本)

中村直樹(会社員)

  1. Port B 「東京ヘテロトピア」
  2. 水族館劇場「NOSTROMO あらかじめ喪われた世界へ」
  3. 範宙遊泳「範宙遊泳展」

aquarium_lostworld0a 今年の三本はどれだけ衝撃を与えられたかで選んでみた。東京ヘテロトピアは見逃していた国際都市東京の姿に圧倒され、水族館劇場は滝のように流れるあの水量に圧倒され、範宙遊泳展(展示)は演劇の懐の深さに圧倒された。劇場の中で行われるものだけが演劇でないというのを改めて実感させられた。
(年間観劇数 約100本)

宮崎耕介(自由業)

  1. Runs First プロデュース「帰郷~The Homecoming~」(ハロルド・ピンター作、小川絵梨子翻訳・演出)
  2. イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」
  3. 庭劇団ペニノ「大きなトランクの中の箱」

runs-frst_home-coming0a1. 演出の小川絵里子氏自身の翻訳による繊細な台詞、重厚な舞台美術により、複雑な思いを抱えた家族の姿を、緊張感をもって描いた秀逸な作品。
2. 息の合った出演者、違和感無く受け入れてしまう脚本・演出と、いつもの作品と同様に安心して楽しめた作品。
3. 可笑しくて不思議なストーリーに、大掛かりな舞台装置が相まって作り上げられる不可思議な世界に魅了。
 上記以外にも、マームとジプシー「cocoon」、水素74%「謎の球体X」、イキウメの「別館」であるカタルシツ「地下室の手記」、チェルフィッチュ「女優の魂」などが記憶に残る素敵な作品であった。また、東京芸術劇場での企画公演「God save the Queen」において、短時間ではあったものの、初見の演出家の作品を多く拝見できたことは、大変有意義であった。今年も数多くの作品を観劇することができ、演劇に関わる全ての方々に心より感謝。
(年間観劇数 約300本)

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【注】
・記憶に残る3本は「団体(個人)+演目」を基本とし、劇作家、会場、上演日時などを追加した場合もあります。
・ツイッターのアカウント情報などはコメント末尾に掲載しました。
・公演の画像情報は基本的に3本のうち最初の公演から。チラシ画像が入手出来なかったり先に掲載されている場合などはその次の公演から取り上げました。